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第5話【私はあなたにふさわしい】「おい、10歳児。いちいち困った様な溜息を吐くな。」
―――『それから海輝。…17日は月曜日、つまり平日だ。講義が無いと言う事を前提で俺はお前の話を聞いていたが…』
「講義?あるとも」
―――『何だと、つまりは怠けるつもりか貴様。学生の本分を蔑ろにするなど言語道断の行い。つまりは不良だ!』
ぶはっ。なはははははっ、と腹が痛くなるまで笑う。 不良、不良と来たか。そんな単語使う子供がまだいたのか。
錦と話すと一度は必ず涙が出る程笑ってしまう。
―――『…おい‥』
声音に怒りの色がにじんでいる。
嫌われると困るので、丁寧に大学と小学校の授業形態の違いを説明する。
君みたいに毎日学校の授業が有るわけじゃない。
大学は基本的に単位制である事。 必修科目が有り単位講義を組み合わせ、履修登録をしてから受講しなくてはならない事。
履修科目の受講時間によっては講義の無い日や、半日だけで受講が終了するなど。
そういう訳で、僕は別に君の憎む不良さんではない。分かったかな?
―――『まて、不良ではないと主張するのはまだ早い。その講義は何時だ。遅刻も許されない。学生の本分から僅かでも外れるならば、それは非行の始まりだ。』
「ぶはーっ!!あはははっ!我慢できねぇっくっはははは!やばっ腹痛ぇ!!もう錦君面白すぎる。」
―――『俺は冗談は言わない。お前がふざけるなら、もうこれ以上話すつもりは無い。腹が痛いなら薬を飲んで寝ていろ。』
臍を曲げかけた錦の機嫌を猫なで声でとり乍ら、何とか話を続ける。
15日土曜日は祝日、16日は日曜日。つまり二連休だ。
15日の朝にこのマンションを発てば午後には錦と再会できる。
16日は夜に朝比奈家を発てば日が変わる前にはこちらに戻れる筈だ。
17日の講義は午後からなので――ちょっときついが――最悪17日の早朝に帰っても良いぐらいだ。
問題ないね。そう笑うと、錦は溜息をつく。
おい、10歳児。いちいち困った様な溜息を吐くな。
「一応16日だけど、17時帰宅からの予定は?」
―――『帰宅後は手洗い嗽を済ませ夕食の時間まで読書だ。 18時30分に山本さんが用意した夕食を摂り、19時30分に入浴。20時から読書再開。 22時以降母が外出先から帰宅するので、それまでは起きている予定だが23時を過ぎるようであれば帰宅を待たず就寝する。以上だ』
山本さんとは、朝比奈家の家事使用人だ。夕食を作り終えればそのまま朝比奈家をあとにする。
「お父上は?」
―――『仕事だ。帰宅はしない。他に質問は。』
朝比奈家を出るのは17日の早朝にしよう。
そうすれば16日の夜は一緒に過ごせる。
彼が寝るまでハッピーバースデーでも歌うことに決めた。
「じゃぁ、二人きりだね。」
―――『話を戻す。お前の下宿先とこの家の距離を考え移動時間をざっと計算してみたが、新幹線で約3時間そのあと電車で30分下車後徒歩なら20分車なら3分程度の時間を要するだろう。』
錦からすればうんざりする様な移動時間なのだろう。
車で帰るよ?夏休みも移動は車だったもの。
そう言い返せば錦は「強行軍だ」と否定的な響きを持たせ即答する。
―――『此処はお前の家だから帰省は勿論自由だ。だが無理は止せ。 何にこだわってるか知らんが、帰省するなら年末とか大型連休にすれば良い。』
――10月16日。
君にとっても特別な日だろう。
でも君は、友人にも会わず親と顔を合わせる事も無く――その日も一人で過ごすと言う。
「君の誕生日じゃないか。」
―――『…何だお前。知っていたのか…』
少しだけ驚いたような声音に、舌打ちしたくなる。
「――兎に角帰るから。15日の午後も予定開けておいて。 あ、15日は義父さん達とか大丈夫かな。許可してくれたら…15日から一泊二日でホテルに宿泊しよう。」
―――『その日も変わらん。夜も恐らく俺一人だ。』
「そうなの?」
―――『以前からそうだが、何か問題あるか?夜遅く俺が一人で家に居て心配すべきことが有るなら、戸締り位だ。安心しろ。その日も戸締りは万全だ。』
「いやいや、そういう問題じゃなくてだね、誕生日だよ?お祝いしようよ。」
―――『誕生日でそんなこと言うのはお前位だ。面白い男だな。』
少なくとも僕は幼少期、ささやかでも家族でお祝いをした。
価値観の違いは判っている。
錦にとってそれは当たり前でなくても、僕の当たり前は誕生日は祝う事なのだ。
―――『……それなら16日、今みたいに電話して祝いの言葉を一つくれないか。それで充分過ぎるほどだ。』
15日の朝に出発し午後に朝比奈家に到着予定と計画していたが、予定変更だ。
「15日…午前中も予定開けておいてくれる?」
―――『お前、ついに時間計算もできなくなったのか。』
「計算してからの発言だよ。」
―――『煩い黙れ。何を考えている?俺は無理をするなと言っている。』
14日の夜にここを発てば15日の朝には錦の元へ着く。
そうすれば、少しでも長く一緒に過ごせる。
予定より長く取れた時間については彼の話を聞いて行き先を決めれば良い。
「実は15日の16時からミュージカルのチケットとってるんですよー。すでに予約済なんだよね。 残念でしたっ!!そういう事で帰省しますからねー!はっはっは。おめでとうは直接言うよ!海輝お兄様の美声を直接聞けるよ!良かったね!!24時間以上一緒にいるぜ! と言うことで君は僕と過ごすように。」
人気のあるミュージカル劇団の公演チケットを購入できたから一緒に行こう。
映画や水族館も良いね。 勿論16日の君の予定を優先してからの行き先だから安心してくれ。
君は食べられるものが限られているから、レストランも厳選しなくてはならない。
あとは――君は海が好きだから、海を見にいくのは外せない。
…それで。それから、16日は生まれて来たことを思いつく限りの言葉で祝福しよう。
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◇10月16日の誕生花
薔薇:私はあなたにふさわしい、純潔
恋の吐息、秘密、片思い etc‥
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