6 / 12
第6話【わが心君のみぞ知る】「君以外、僕にとっては取るに足らない存在だ。」
「そういう事で絶対一緒に過ごそうね。聞いてる?ねぇねぇ聞いてる?おーい。錦君お返事は?」
僕の勝だこの野郎的な、どや顔で受話器に向かい宣言したら、『絶対など無理だ』等と返してきた。往生際が悪い。
今絶対むくれている。恐らく反発と照れだ。
あの仏頂面で頭の中は半パニックの運動会状態なのだろう。
嬉しいくせに、反論できない状況に追い込まれたら無駄な抵抗と知りつつも、ついつい反抗してしまうのが彼と言う子供だ。
素直に「わーいうれしいー」何て絶対言わないのが錦なのだ。
それはそれで可愛い。
―――『そんな事を言われても、絶対などとは約束できない。 屁理屈になるが、もしかしたら10月14日に交通事故で入院するかもしれないし、10月15日の朝、鯉の餌やり中 そのまま庭の池に落ち、その際運悪く頭を打ちつけ意識不明のまま溺れ緊急搬送される可能性もゼロではない。 薬を飲み忘れて体調不良になりそのまま入院するかも知れないし、誘拐されて海外に売り飛ばされるかもしれない。お前の言う通り危険は何処にでも潜んでいる。 可能性が低くともゼロではない限り起こり得る事象だ。』
錦の癖に、焦らしプレーをしやがった。 焦らしプレーをするのは好きだがされるのは好きじゃない。 虐めるのは良いが苛められるのは真っ平御免だ。 錦に意地悪をするのは好きだが、されるのは嫌いだ。 ついでに、可愛がられるより可愛がる方が好きだ。
「じゃぁ――池の水全部抜くよう使用人のおじ様にお願いするよ。なんなら、錦君の手を煩わせる鯉どもの池なんか埋めてしまおう。 僕からパパ上殿に頼んで直ぐにでも許可を得るとも。 無駄な殺生は好まないけど、池の中の生き物たちはそのまま処分だ。」
錦が庭の池に落ちる様な間抜けでない事は理解しているが、僕の言葉に嘘はない。
脅しでも冗談でもない。紛れもない本心だし本気だった。
―――『待て貴様。可哀想とか思わないのか。』
鯉だけでなく亀もいるんだぞ。貴様の思考回路は理解できん。と続ける錦に思わず笑う。
本当に可愛らしい。
「思わないね。躊躇する要素が見当たらない。君の身に起こり得る危険に比べたら、些細な出来事だ。 どんなに高価で美しくても僕にとったらたかだか魚と亀だ。君に比べれば紙一枚程度の命の重みに過ぎない。 鯉や亀に限らない。君以外、僕にとっては取るに足らない存在だ。それなのに、何故慈悲を持つ必要があるの?僕には君の疑問の方が理解できない。」
―――『…。』
「入院したら僕が君の面倒を見よう。何処にも出かけられなくても一緒に居る事は出来るだろ。あ、おしっこのお世話もちゃんとするからね。 まともに抵抗できない錦君のお世話だなんて、なんかエッチだな。」
―――『…誘拐されたら?』
「誘拐犯が可哀想な目に合うからできれば誘拐されない様に。」
錦がしばし無言になる。
因みに誰かが錦を誘拐したらその誘拐犯を追い詰めて追い詰めて、 生まれて来たことを後悔するような目に合わせて一秒でも長く苦しませてから殺す。
爪を一枚づつ剥いで指先を一本ずつ潰す所から初めて、時間をかけて指先から全身へと苦痛を広げていくのだ。
生かさず殺さずを保ちながら、原形を留めない位にまで破壊していく。
息の根を止めずに進めることが最も難しい。
血生臭い詳細は控えるけど――『後処理』は朝比奈さんがしてくれるから大丈夫だよ。
等とはもちろん言わない。
彼の心臓に負担を掛けてはいけない。
―――『分かった。可能性をゼロにするよう行動には気を付ける。―――お前と一緒に過ごせることを楽しみに待ってるから。気を付けて帰ってきてほしい。』
その、有難う。
ぽつりと呟かれた言葉に今すぐ彼に会いたくなった。
会って、小さな体を渾身の力で掻き抱きたくなる。
堪らない程の愛しさに眩暈さえした。 有り得ないだろうが。
こんな風に絶対と約束しながら――僕の方から約束を破る羽目になるなんてこの時は夢にも思わなかった。
***********************
◇10月16日の誕生花
薔薇:わが心君のみぞ知る、私だけを見つめて、プライド
誇り、優美、挑む、奇跡、不可能、あり得ない、神の祝福、
無邪気 etc‥
***********************
ともだちにシェアしよう!