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第8話【貴方の定め】「下種野郎で結構。」
看護師が伝えに来れば良いのに何故医者直々に来たんだ。
これでは自宅療養を選ぶ事が出来ないではないか。
というか、この性悪男が医者だなんて世も末だ。
認めたくない。
「ごほげほっ。これはこれは、若狭さん。今日も麗しい。貴方の輝きに目が潰れそうなので失明する前に帰りますね。」
「入院しましょうね。」
「自宅治療しますから。お薬の処方お願いします。」
「貴方は根性が悪いので、周囲に病原体をまき散らしながらアルバイト先へ出かけるくらいの事は平気でするでしょう?入院をお薦めします。」
「若狭さん酷い。僕がそんな男に見えますかっ!」
「当たり前でしょう。貴方の下衆さは誰よりも分かっています。」
マスクで顔の半分を隠し目元だけで微笑む年齢不詳の麗しい医者は、容赦なく入院を勧めて来た。
何故ばれた。
などと疑問を持つのはある意味愚かだ。
さすがと言うべきか。
蛇の道は蛇。
朝比奈家に流れる汚らわしい血―――鬼畜性と下種根性など同じ朝比奈にはあっさりと看破される。
(正確にはこの人には朝比奈の血は一滴も流れてはいない)
たしかに、僕は吸入器を使用し一時的にでも咳を抑え込みマスクを付けて「ただの風邪予防でーす」なんて言い訳しアルバイトをする予定だった。
風邪予防の為にマスクをつけている生徒も講師もちらほらいるので不自然ではない。
「僕こそ感染させられた被害者なのに酷い。」
「だからと言い悪意を持ち周囲に感染させて良い理由にはなりません。入院同意書をお持ちします。」
面倒なので否定はしないが悪意など持っていない。
どうでも良いだけだ。
仮に誰かが感染しても、錦以外の子供がどんな目に会おうと僕の知ったことではない。
子供は好きではないし、別に可愛いとも思わないので集団感染して大勢が苦しんでも良心の呵責さえ感じない。
感染後潜伏時間が有るから、感染経路の原因である人物を特定される可能性も低い。
下種野郎で結構。ばれなければ無問題なのだ。
「錦にも会えませんよ。自宅療養だなんて知れば、あの子が貴方を心配して見舞いに来るかも知れないでしょう?」
新幹線と電車を乗り継ぎながら半日かけて僕の所へ来る姿を想像し思わずときめいた。
可愛い可愛い過ぎる良い加減にしなさいよ。
それに迷子になったり痴漢に有ったら大変だ…いや、そうじゃない。
「か、看病をしてくれると言うことですか!?いやでも、うつると大変だし…あぁ、錦君!! げほげほ。ま、マスクしてアルコール消毒したら会えますか!?錦君にもマスクつけさせますし、アルコール消毒もさせますから!」
「マスクしても錦には会えませんよ。移植手術後はずっと免疫抑制剤を服用していることは貴方もご存じでしょう?感染したら唯じゃすみませんから。 ゴキブリ並の生命力の貴方とは違い繊細な体をしているのです。咳一つでもしたならば、保菌者発症者ごと病原菌を殺すくらいの注意が必要なのです。」
「じゃ、じゃぁ遠くから眺めるだけですから!!」
「愚かな貴方に朗報です。錦の事なら気にしなくても大丈夫。15日と16日は私にお任せください。」
いやいやいや、何それ酷い。悪夢だ。
何とかしてくださいよ。14日までに治してくださいよ。
と縋り付いてみるが、こんな患者は見慣れているのだろう。
予想通りのつれない反応。
「取り敢えず難しいとだけ申し上げておきます。それよりもお辛いでしょう?もう喋るのはお止しなさい。 さて、入院の説明は後ほど看護師が致しますのでもう暫くここでお待ちくださいね。 取り敢えず荷物は愛さんにでもお願いしましょう。貴方をここで帰宅させればそのまま入院もキャンセルしそうですからね。…何ですか」
こうなれば泣き落とししかない。
「ご、後生です。入院だけは!!マスクして家に閉じこもり一人静かに寂しく過ごしますので入院だけはお許しをぉおおお。点滴毎日受けにきますので入院だけは…けほごほ」
「…マイコプラズマ肺炎と言わず、他の病名も付けて長期入院させましょうか? それとも、病院の帰り道、大怪我をして面会制限付きでの入院を選びますか? 権力の前では貴方もただの子供だと言うことを思い知らせてさしあげましょうか。いやなら錦の事は諦めなさい。」
「あ、あくまっ!!人でなし」
「何を今更。朝比奈家には悪魔しか存在しません。」
「錦君がいるもん。あの子は天使だもん」
「聖書によれば天使の3分の1が堕天したそうですよ。よってあれは小悪魔と言うのです。目を覚ましなさい。それから貴方がそのような口調で話しても可愛くありません。むしろ憎たらしい。」
「若狭さん、貴方錦君と二日も付き合う程のプライベートなんて確保できないでしょう?錦君が気を使うので止めてくださいよ。」
肺が痛くて話すのがつらい。
「私常勤の医師ではありませんから。主の呼び出しにさえ応じれば基本的には自由の身なのです。 当主お気に入りなので、指先でのの字を書いてお願いすれば何でも言うこと聞いてくださいますから。さてと‥」
白い手のひらをこちらに向けて「ミュージカルのチケット無駄にしたら勿体ないので私が錦をエスコートします。子供は嫌いですがあの子は行儀が良いので特別です。」と白衣の悪魔は笑顔を見せた。
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◇10月16日の誕生花
錦木(矢筈錦木):あなたの定め、
あなたの魅力を心に刻む、危険な遊び
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