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 『夢の続き』(2)

 透さんからのメールだ。 『ごめん、遅くなって。今から帰るよ』  時計を見ると、9時前。  帰ってくるの、10時くらいかなぁ……と思いながら、ソファーに寝転がった。  何気に点けたテレビは、ちょうど映画が始まったところで、どうもホラー系のよう。  そういうの苦手な俺は、テーブルに手を伸ばしてリモコンを取ろうとしたんだけど、あともうちょっとのところで届かない。 「ん~~~~、めんどくせ……」  一旦寝転がってしまうと、動くのが億劫になっちまう。  俺はリモコンを取るのを諦めてソファーにうつ伏せになる。 「見たくない、見たくない……」  怖いから独り言の声もデカくなる……だけど、怖いもの見たさも手伝って、横目でテレビを見ていた。  内容は、なんか……吸血鬼もの?  なんかカッコいい紳士が急に目が光って、牙が生えて、女の人を襲ったりなんかしてる。  あの血が出るのが、俺ダメなんだよ。  でも、あの吸血鬼のコスを、透さんがしたら似合うかもしんない。  黒いスーツに、なんかシルクハットみたいなん被ったり?  透さん、スーツ似合うからなぁ~。  俺、透さんになら、血、吸われてもいいよ。なんちゃって。  あー、早く帰ってこないかな、透さん。  ****  何分くらい経ったろう……何だか、ひんやりとした風を感じて目が覚めた。 「……あれ、俺、なんかちょっと寝ちゃってたのかな」  なんか寒いと思ったら、バルコニーに出る掃き出し窓が少し開いていて、カーテンが風に靡いてる。  俺は、この部屋に来てから、窓なんて開けてないはず。 「……透さん?」  俺が寝てる間に帰ってきたのかな? そう思いながらも、少しドキドキする。  テレビは、ちょうど吸血鬼に追いかけられた女の人が逃げ惑っていて、緊迫しているシーン。  ――ハロウィンだからって、外国のマネして遊んでたら、善い霊に混じってやってくる魔物にでも取り憑かれたらどうすんだよ? ――  こんな時に限って、さっき啓太が言ってた、どうでもいい言葉が頭を過る。  恐る恐る、カーテンをそっと引いて外を見ると、バルコニーの手摺りに凭れる人影が見えた。  暗い夜空に浮かぶ、やけに赤く不気味に光る月をバックに立つシルエットは、シルクハットにマント? (きゅ、キューケツキ?!)  ……って、吸ケツ鬼じゃないよ? 吸血鬼!  あんまり驚きすぎて、窓に掛けていた手が滑って、カタっと音を立ててしまった。 「……あ……」  音に気が付いた人影が、ゆっくりとした動作で、こちらを振り向く。  俺は金縛りにあったみたいに、身体が動かねえ!  これはきっと、目を合わせたらあかんやつ!  咄嗟にそう思って目をギュッと瞑っていると、聞き覚えのある、あの優しい声で名前を呼ばれた。 「……直くん?」 「へっ?」  俺がその声を、他の人と間違えるはずがない。 「……透さん?」  目を開けると、そこに立っているのは、吸血鬼の衣装を身に纏った……透さんだった。

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