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『夢の続き』(3)
「どうしたの? 直くん、そんな驚いた顔をして」
吸血鬼コスの透さんが、にっこりと微笑みながら俺を見つめている。
いつもの…優しい眼差しで。
「ううん、透さんこそどうしたの? その格好」
「ん? どこか可笑しいかな?」
どこがって……全部可笑しいと思うんだけど……。
だけど透さんは、いたって真面目な顔をしている。
だから、あんまり突っ込んだらいけない気がして、話を切り替えてみることにした。
「こんなところで何してたの? 寒いのに」
「ああ……」と微笑みながら、透さんは視線を夜空の月に移す。
今夜の月は血の色みたいに赤くて、そしてすごく大きく見える。
「月を見ていたんだよ。直くんもこっちにおいで」
透さんはそう言って、俺に手を差し出した。
「う……ん」
なんとなく不思議に思いながらも、何故か身体は素直に透さんの方へ歩き出していく。
差し出された手に自分の手を重ねると、ギュッと握られて引き寄せられる。
「……あ」
抱きしめられて、唇が重なった。
ずっと外にいたせいか、透さんの手はすごく冷たい。マントの下の、黒いスーツも冷たくなっている。
なのに、挿し入れられた舌は凄く熱くて……。キスは段々と深くなっていく。
冷たい掌が、服の上から俺の腰をなぞり、背中を這うように撫でる。
いつもと同じなのに、なんかいつもと何かが違う。そんな不思議な気持ちが少し不安で、俺はそっと薄目を開けた。
「……!」
至近距離で俺を見詰める瞳は、今夜の月のような、赤。
――待って、待って! これは、透さんじゃない?
「っ、…んっ」
必死に身体を離そうともがいても、ビクともしない強い力で抱き締めてくる。
「どうしたの? 直くん」
耳元に囁かれた声は、確かに透さんなのに、透さんじゃない。
ど、どうなってんの?!
「あ……ぁっ」
唇が首筋に降りていく。
――『だからって外国のマネして遊んでたら、善い霊に混じってやってくる魔物にでも取り憑かれたらどうすんだよ?』
また啓太の言葉が頭に過ってしまって、俺の頭はパニック寸前に!
透さんが、魔物に取り憑かれた?! て、ことは、これはやっぱり吸血鬼?
「――やっ、やめて、とおるさっ……あっ」
首筋に鋭い痛みが走った。
――か、噛み付かれてる?!
熱い血が首筋を伝う感触がして、やばいと思うのに身体に力が入らない。
――俺も吸血鬼になっちゃう?!
「あーーーーっ! やっーーー!」
俺は、ありったけの声を出して、腹に思いっきり力を入れて……
――飛び起きた!
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