外の冷たい空気のせいで、重ねた唇の温度は低い。微かに触れた鼻先が冷たい。なのに挿し込まれた舌や、肌にかかる息は熱い。 「……ん」 　甘く舌を絡め合わせて吐息が唇の隙間から零れた瞬間に、合図のようにエレベーターが目的の階に着いた事を知らせる到着音が鳴った。 　一拍置いて扉が開く前に透さんは、もう一度啄むようなキスをくれて、軽くリップ音を立てて離れていく。 　お互い何もなかったような顔をして、僅かな距離を取る。なんだかそれが可笑しくて、視線を合わせて思わずぷっと、二人して同時に吹き出すように笑った。 　初めて逢ったあの夜から、もう二年も経つのに、こういう突然のシチュは今でもドキドキしてしまう。 　２４階の展望台ロビーは、ダウンライトの灯りが低く落とされていて、パラパラとカップルがいるだけで思った以上に空いていた。 「すごい……本当に穴場だね、ここ」 「うん、あ、もう時間だよ」 　時計を確認すると、もう点灯１分前。 　俺たちは慌てて、空いてる窓へと駆け寄った。 　市街を一望できる窓の向こうには、美しい夜景が広がっている。 「えーと、イルミネーションはどこどこ？」 「直くん、あそこだよ。ほら、公園のところだけ一つも灯りが点いてない」 「あ、ホントだ」 　夜景の中にある、そこだけぽっかりと暗い場所。そこをじっと見つめて息を呑んだ次の瞬間、パッと眩しい光が浮かび上がった。 　途端にロビー内に「わぁ」っと、感嘆の声が上がった。 　もちろん、俺も透さんも、「うわぁ～」って同時に声を上げた。 　公園の敷地を囲むように組み立てられた光の壁のような、色とりどりのイルミネーションは、エキゾチックでノスタルジックな雰囲気がする。 　その向こうに目を遣ると、光のアーチが続いているのも見えた。 「すごい！　綺麗！　普段の夜景だけでも明るいから、イルミネーションがこんなに目立つとは思わなかった」 「本当だね。点灯の瞬間って、どんなものか分からなかったけど、見ることができて良かったね、直くん」 　なんか俺、ちょっと感動しちゃって、「凄い、凄い」って、はしゃいでたら、横からクスッと透さんの笑う声が聞こえてきた。 「直くんにそんなに喜んでもらえて良かった」 　と言って、繋いだ手をぎゅっと握ってくれる。 　――って、え？　あれ？ 　さっきエレベーターを降りる時に、それまで繋いていた手は、確かに離したんだけど……。 「俺……もしかして？」 　透さんは、クスクスって、ずっと笑ってるし！ 　どうやら、点灯の瞬間に感動し過ぎて、知らない間に透さんの手を握っていたらしい。