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『来年も再来年も、ずっと……』(7)
「俺たちの関係は言ってないよ。今日、イルミネーションに行くって言ったから、デートだと思ったんじゃないかな」
いつも休日も出勤したりしてたから、そのお詫びにって事らしいって、透さんは言うけれど。
「でも、俺が行っていいのかな……」
神谷社長からしたら、まさか俺が透さんの恋人だとは思ってないんだし……。
「どうして? 俺の恋人は直くんなんだし、別に嘘をつくわけじゃないでしょう?」
「それは……そうなんだけど……」
なんかちょっと気が引けると言うか……。
「もしも、社長に俺の恋人は誰かって訊かれたら、俺は、直くんだって正直に言うつもりだよ」
――え?
「そ、そんな事言ったらダメだよ! どう思われるか分からないし、会社にだって居づらくなるかもしれないよ?」
だって、やっぱり理解してもらえない事の方が多いと思うし。
「神谷社長は、そういう差別はしない人だよ」
不安に思ってしまう俺とは違い、透さんはきっぱりとした口調で言葉を続ける。
「それに、たぶんだけど……神谷社長は俺たちの関係のことも気付いてると思う」
「え? そうなの?」
うん。と頷いて、透さんは微笑んだ。
それはそうかもしれない。神谷社長に今まで何度か会った時も、透さんと待ち合わせをしている時だったし。
「直くんは、ホテルに泊まるの嫌? もし嫌なら無理に泊まらなくてもいいんだよ?」
――俺は、直くんと行ってみたいけど。と言葉を続けて、透さんは俺の顔を覗き込む。
「お、俺だって、クリスマスイブに高級ホテルに泊まれるなんて、滅多に無いことだし、行ってみたいよ!」
慌ててそう言ったら、透さんに声を上げて笑われた。
「直くん、俺、高級ホテルとは言ってないよ」
「え、あっ、そう、そうだけど!」
だって、社長が予約してくれたホテルなんて、高級ホテルだって思っちゃうじゃん! それで部屋も絶対スイートルームなんだって、俺ってば勝手に想像してしまってて、恥ずかしくて顔が一瞬で熱くなっちまった。
「じゃあ、行ってみようよ、高級ホテル」
ちょっと悪戯っぽく笑いながら、透さんは俺の目の前に手を差し出した。
「う……もう、それ言わないでよ」
まるでお姫様をエスコートするみたいに差し出された手に、おずおずと俺の手を重ねる。
「じゃ、行こうか」
そのまま手を引き寄せらて、またコートのポケットの中に入れる。
こうして歩いてると、好奇心の目で見られることも多い。気にならないって言えば嘘になるけど、だけど……。
ポケットの中の手は、幸せで暖かい。
透さんと一緒なら、誰かにどう思われたって平気だって、思えてくる。
それは、透さんもきっと同じ気持ちなんだ。だから、こうして一緒に歩いてくれる。
駅前でタクシーを拾って、俺たちは神谷社長が予約してくれているホテルへと向かった。
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