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『来年も再来年も、ずっと……』(8)
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「うわっ、すげー! すげー! 見て見て、透さん! こっちにも部屋があるよ!」
ホテルのレストランでの、豪勢なディナーにも驚いたんだけど、予約してくれていたっていう部屋がまた凄かった。
荷物もないのに、ベルボーイが部屋まで案内してくれて。部屋に入ってからも、空調やら部屋の設備の説明やら、ホテル内の設備の紹介とかしてくれて。
しかも、さっき俺が勝手に想像した通りの最上階のスイートルームで、マジにびっくりだ。
壁一面の窓からパノラミックビューが望める広々としたリビングルームなんて、二人っきりでどうやって使うの?
寝室にはキングサイズのベッド。
浴室もすげえ広々としていて、天然石造りのバスタブと、スチームサウナにもなるシャワーブースもある。
「俺、こんなの初めて!」
思わず、はしゃぎながら、部屋中をひとつひとつ見て回る俺。
だけど……神谷社長は、なんで透さんにここまでしてくれるんだろう? って、疑問も湧いてくる。
それにいつも忙しくて、休みだってちゃんと取れない状態なのに、透さんは明日一日特別に休暇を貰ってるのも府に落ちない。
透さんに何か弱みでも握られてるとか? それとも……こうやって機嫌をとっておいて、後で……。
そこまで考えて、神谷社長の顔を思い浮かべる。いつも自信たっぷりな表情で、渋いイケメン。
透さんを見つめる眼差しが、なんか色気を含んでいて、俺はいつも胸の中がモヤっとしてしまうんだ。
—— もしかして、隠しカメラとか仕込んでるんじゃね?!
そうだ。その可能性はあるかもしれないぞ。ここで隠しカメラで映像を撮っておいて、後で透さんを脅して自分の思い通りにするとか!
「直くん、何してるの?」
寝室のベッドの周りで、隠しカメラが無いかとチェックしてたら、透さんが不思議そうに訊いてくる。
「いや、隠しカメラとかあるんじゃないかと……」
つい、正直にそう言えば、透さんは「なんで隠しカメラがあるなんて思ったの?」って、声を上げて笑い出した。
——だ、だだだって! ただの社長と社員の関係で、こんなクリスマスプレゼント、怪しくないかー?
「直くん、さっきから何を心配してるの」
不意にふわりと後ろから抱きしめられて、耳元にあの甘い声で囁かれた。
普段でもドキリとする透さんの声。ドクンと身体が熱くなったのは、さっき食事の時に飲んだワインせいだけじゃない。
「透さん……」
「このホテル、うちの会社が設計したんだよ。だからスイートルームの使い心地を後で社長に聞かれるかもしれないね」
囁く透さんの息が耳に吹きかかり、またドクンと腰の辺りが熱く疼いてくる。
「ん……俺、何も心配してな……」
本当? と言いながら、耳朶を食まれて、俺の言葉は途切れてしまう。
——と、その時……不意にドアチャイムの音が部屋に響いた。
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