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『来年も再来年も、ずっと……』(9)
「え? 何?」
鳴る筈のないドアチャイムの音に、熱くなりかけていた俺の身体は、透さんの腕の中でビクンと跳ねた。
「……誰かな? ちょっと見てくるね」
離れていく透さんを、目で追うように見上げる俺に、透さんはクスッと笑いながら、俺の鼻先を指でつまむ。
「そんな残念そうな顔しないの。続きは後でね」
「……」
確かに俺、エッチモードのスイッチがオンになってたから、何も言い返せない。
顔が熱くなるのを感じながら寝室を出ていく透さんの背中を見送って、力が抜けたようにベッドに腰をおろした。
……それにしても誰だろう。
透さんがドアを開けて、話し声が聞こえてくる。——どうやらルームサービスがどうのこうのって言ってるのが分かった。
ルームサービスって? 透さんはずっと俺と一緒にいたし、そんなの頼んでる様子もなかったけどなぁ。
そっと寝室から覗いてみると、ちょうどホテルマンがワゴンを押して部屋に入ってくるところだった。
そしてオシャレなテーブルも運ばれてきて、ホテルの部屋なのに、まるでどこかのカフェの一室みたいにセッティングされていく。
テーブルは綺麗なレースのテーブルクロスが敷かれ、その上に置かれた20センチくらいの大き目のホールの豪華にデコレーションされたクリスマスケーキ。それとシャンパンと、食器が並べられてる。
最後にまるで本物の蝋燭みたいなキャンドルライトが灯されて、部屋の灯りを低く落として、ホテルマンは部屋を出ていった。
「え、これは……もしかして透さんが頼んでくれたの?」
俺に内緒でこっそりサプライズを考えてくれてたとか?
「いや、俺じゃないよ。神谷社長が頼んでくれていたらしい……」
——またもや神谷社長!
「や、やっぱり、隠しカメラ探した方がいいんじゃ……」
思わずキョロキョロしている俺の頬を、透さんが両手で包み込んで固定する。
「落ち着いて、直くん。いくら何でも、それはないよ」
そう言って、チュッと音を立てて短いキスをくれる。
「う……ん」
高級ホテルの最上階のスイートルーム。大きな窓から見える街の夜景。オシャレにセッティングされたテーブルの上のクリスマスケーキと揺れるキャンドルライト。
こんなこと、普通はただの社員の為になんか用意しない。
「神谷社長って、人を驚かせるのが好きだし。ちょっとロマンチックな悪戯のつもりなんじゃないかな」
——あの人、こういうキザな事もサラッとやっちゃうところあるし……って、透さんは笑いながら、俺の腰を抱き寄せて、またチュッて唇を重ねる。
「でも、なんか乗せられてるような気がして……」
俺たちのデートなのに、なんだか神谷社長の思惑通りに事が進んでるような……悪意も何もないとしても、なんかちょっと妙な気分がする。
「そうだね。俺も自分で考えたことなら、どんなに良かっただろうって、ちょっと悔しいけど……」
——でも……と、そこで言葉を区切って、透さんはまた唇を重ねてくる。
「……あ」
唇を舐められて、声を漏らした瞬間に咥内に舌を挿し込まれ、透さんが深いキスを仕掛けてくる。
俺の腰を引き寄せる手に力が込められて、冷えかけていた身体の熱が急激に上がる。そして俺は、無意識に透さんの背中に両手を回した。
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