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 『目は口ほどに……』(3)

「透さん、もう……」  そう言いかけながら、俺に擦りつけるように腰が僅かに揺れている。 「もう……? どうして欲しいの?」  訊かなくても分かりきっているけど、言わせたい。 「……ッ、透さん、今日はなんか意地悪だ」  半泣きになった顔が可愛くて、つい笑い声を洩らしてしまう。 「ごめんね。でも、言ってくれないと分からないよ。どうして欲しいの?」  汗に濡れた前髪を指で梳いて、その瞳を覗き込むと、瞬いた途端に目尻から涙が一筋零れ落ちた。 「もう、挿れてほし……」  ちょっと意地悪し過ぎたかな。 「ごめんごめん、ちょっと待ってね」  直くんから身体を離して、ベッドサイドチェストの引き出しから、ローションとゴムを取り出すと、 「透さん、それ付けないで」  と、直くんが腕を伸ばして、俺の手を止めた。 「でも、後が辛いでしょう?」  だけど、躊躇する俺の手から、直くんはゴムを取り上げて、ベッドの端へ放り投げてしまう。 「いいんだ、今日だけ特別。ね? いいでしょ?」  そんな風に上目遣いでお強請りされると、ちょっと嬉しくて、駄目だとは言えなくなってしまう。  もしかしたら、そんなことを考えてる俺のことを、言葉にしなくても直くんには見抜かれているのかもしれない。 「分かった。でも今日だけだよ」  と、俺は、直くんにだけにではなくて、自分にも言い聞かせるつもりで言いながら、ローションを掌の上で肌の温度になじませる。  横向きの体勢で、背後から直くんの身体を抱えるようにして、後孔を指で触れると、直くんが肩越しに振り返る。 「透さ、ん」 「ん? どうしたの?」  あの最強とも言える、上目遣いに、毎回胸がドキンと高鳴っていることを、直くんはもしかしたら、知っているんじゃないだろうか。 「もう、指じゃなくて……」  そこまで言って、言いにくそうに一度は目を逸らして。  そしてまた見上げてくる、誘惑の眼差し。  熱っぽい息を吐きながら、紡がれる言葉は、まるで媚薬のように俺を煽る。 「……指じゃなくて俺……、透さんが欲しい。透さんの、が……」 「……え、だけど……」と、怯む俺に直くんは、唇を寄せてくる。  軽くリップ音を立てて離れた唇が、「……ん、お願い。」と動く。  その瞬間、俺の奥深くに渦巻く劣情が、一気に身体を駆け巡り、理性なんか焼き尽くしてしまう。  荒々しく細い腰を引き寄せて、横向きの体勢のままに、欲の塊を押し付けて捻じ込んでいく。  少しだけしか濡らしていない其処は、硬く閉ざして俺を拒んでいるのに。 「――ッあ、……ん……」  苦しそうに息を吐き、時折、辛そうな声を漏らしているのに。  ごめん直くん。俺はもう、止められそうにもない。  だけど先端が挿ったところで、一旦息を吐き、背中から抱き締めて「直……大丈夫?」と耳元に囁いた。 「うん……ちょっとだけ苦しいけど、でも透さんが直接、俺の中に挿ってきてるのを感じることができるから、平気」 「……っ、」  そんなことを言って、もうどうなっても……。  とっくに理性は飛んでしまっているんだから。頭で考えるよりも先に身体が動いて、一気に奥まで貫いてしまう。 「――あああっ、」  直くんの苦しそうな嬌声も、もう俺を煽る材料にしかならなくて。  美しく引き締まった足首を掴んで広げ、体勢を変えて、激しく何度も最奥へと突き入れる。 「――あっ……ああああ、っ、」  角度を変えて、一点をめがけて突くと、直くんが一際高い嬌声を上げる。 「もっと……」と動く唇を塞いで、熱い吐息と共に、続きは訊かなくても分かる言葉も飲み込んでいく。  ――君が何処に触れて欲しいのか分かっているし、  俺にどうして欲しいのかも分かっている。  俺は、君の全てを知っているつもりになっている。  一緒に高みに昇り詰めて、お互いの熱を感じ合うことで、愛し合ってると感じることも出来る。  ずっとこのまま、この幸せが続いていけば、どんなにいいだろう。

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