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第13話「生贄」
普段は使用されていない二階の客室のベッドに、優穂は全裸で横たえられていた。つい先程まで浴室で、執拗に体の奥まで洗浄され、一度吐精に追い込まれた彼は、気力の全てを奪われてしまったようだった。
その傍らで、同じく全裸の北見が、ビデオカメラをセットした三脚の高さを調整している。
「…犯罪の証拠を残すんだね。」
優穂はか細く力のない声で、皮肉を込めた言葉を放った。
「これは愛の記録だよ。」
調整を終えた北見が、嬉々として優穂に覆い被さってきた。優穂の唇を捉え、口腔内を蹂躙する。
優穂は抵抗しないが、彼の愛撫や手技に一切反応しないと、心に決めていた。その態度が伝わったのか、北見は途中で要求を囁いた。
「優穂…君も舌を絡めて…。」
再び深い口付けが優穂を捉えた。終わらないその行為に、優穂はやむなく舌を動かす。その瞬間、負けは決まった。
「いい子だね、優穂…。」
間もなくして唇を開放した北見が、体を起こし、自分の下肢を見るように優穂を誘った。
「ほら、凄いだろう?触ってもいないのに…こんなになってしまった。」
腹部に接する程に大きくそそり勃った北見のものが、優穂を見下ろしている。それは彼にとって身を割く凶器に映った。
「初めてだし怖いよね。…だから、これを用意してみたんだ。」
北見はサイドテーブルから、小さな茶色の小瓶を取り蓋を開けた。優穂の体を起こし、彼の鼻腔へ小瓶を近付ける。
「何…?」
「ブチルニトライトさ。狭心症の薬だよ。」
「何でそんな薬なんか…!?」
「いいから、嗅いでみて。…セックスが楽になるよ。」
優穂に選択権は与えられず、言われるままに薬を鼻腔の奥まで吸い込んだ。その途端、心拍数が跳ね上がり、脳まで脈打つ感覚に襲われる。
「効いたのかな?」
北見は小瓶をサイドテーブルに戻し、息を荒くした優穂を、再びシーツの上に転がした。
「これは全ての筋肉を弛緩させる作用があるんだ。ここもね…。」
優穂の細い両脚が左右に割り開かれ、北見の指が後孔を貫いた。
「…イヤ!」
声は出したものの、力が全く入らない優穂は、指を増やされても大人しく受け入れ続けた。
「気持ちいい?」
「…わからない。」
「ここは?何かあるね。…ほら、君のも勃起してきた!」
「…ん!…そこ、嫌だ…」
絶妙な指の動きが、優穂の理性を飛ばしにかかる。
「もう僕のが挿入できそうだ…。いいよね?」
指が引き抜かれると、更に大きな質量がそこへ充てがわれた。
「いっ…!や、無理…!」
「無理じゃないよ。ほら、…全部入った。ああ…嬉しいよ、君と一つになれて。…やばいな、
すぐイっちゃいそうだよ!」
緩やかな抽挿が、次第に早まっていく。やがて優穂の体内に熱い液体が吐き出された。
「…ほらね、最短記録かも知れない。」
「…終わったの?」
優穂は抜いて欲しくて少し腰を動かした。
「終わらないよ。」
優穂の中で、異物がまた凶器に変わっていく。
「今度はちゃんと、君もイかせてあげるからね。」
体位を変え、優穂の背後から最奥を突いたまま、北見は彼のものを扱きだした。途端に、彼から激しい嬌声が漏れ始める。それに気をよくした北見は、程よく焦らして彼の射精を調整した。
「もう、出したい…。」
「じゃあ君が腰を使って。そしたら、こっちを集中して扱いてあげるよ。」
薬の効果が薄れたのか、眩暈から解放された優穂は、少しの戸惑いを見せる。北見は動きを止めて、彼の動向を見守った。やがて優穂が自ら腰を動かしてきた。
「いいね、最高だよ。」
「は…早く…終わりたい…だけだ…!」
北見の愛撫が再開される。徐々にその刺激に傾倒し、優穂の腰の動きは鈍くなった。
「…仕方ないな。」
その瞬間、ゆっくり引き抜かれたものに、強い勢いで再び穿たれた。繰り返される刺激、激しくなるピストン。壊れそうになりながらも、優穂は果てるのを待った。
やがて、シーツの上に勢いよく熱い飛沫をぶちまけた。続いて北見も彼の最奥へ放出する。
暫しの余韻に浸りながら、北見はゆっくりと優穂の体を解放した。
「ああ、ご免。…少し切れちゃったみたいだね。」
真っ白なシーツに数滴、鮮血が散っていた。それを視認した瞬間、優穂の疼く部分が熱く痛んだ。
「また中を洗わなくちゃね…。」
北見は優穂を抱き上げた。
「待って…!」
抵抗も敵わず、二階のバスルームへ運ばれる。そこで再び中を掻き出すように洗われた優穂は、遂に泣き出してしまった。
「ご免ね、痛かったかい?でも痛いだけじゃなかったから、戸惑ってるんだろう?…気持ちいい事が受け入れられなくて。でも、じきに慣れるよ。いつか君の方から僕を求めてくるようになる。」
北見は泣きじゃくる彼を背後から抱え、お湯の張られたバスタブに引き込んだ。彼の背を胸に抱き、その下肢を両足で挟むと、首筋や耳朶に唇を這わせ、時折舌で味わった。
「もう泣くなよ。女の子みたいだぞ。」
それから暫くして、優穂の戦慄きが治まると、北見は彼の耳元に囁き始めた。
「…君の声が聞けなくなってから間もなくして、一人の女の子と出会ったんだ。たまたま利用した電車でね、痴漢に合っている高校生の女の子がいて、助けてあげたんだよ。僕は名乗らなかったし、その時はもう二度と会うことはないと思った。だけど、それから三日ぐらい経ってから、その子が急に僕に会いに来たんだ。僕が社長に就任した時の地方紙の記事を見つけて、僕の素性を知ったらしかった。大人しそうな子だったから、その行動には驚かされたよ。そして何時でもいいから電話を下さいって、ケータイの番号をくれたんだ。…最初は掛けるつもりはなかったんだけど、ちょっと実験させてもらおうと思った。」
優穂は実験の意図を素早く把握した。
「…テレフォン・セックスの…?」
「そう。僕だと理解した上でね、彼女は何回か付き合ってくれたよ。そこで改めて、優穂じゃなきゃ駄目だって気付いた。…それで暫く放置してたら、彼女はストーカーになっちゃってね。電話じゃなくて本当に僕に抱かれたいってしつこかった。最悪だろう?…彼女に処女なのかを確認して、処女だって言うから、そこで僕は条件を出した。…処女を捨ててきたら、抱いてあげるってね。諦めてほしかったからだよ。…だけどその数日後、彼女は自宅で首を吊って死んでしまった。」
優穂は身を固くする。彼が中学三年になった頃、市内の女子高生が自殺したというがニュースがあった事が思い出された。
「優穂は死のうなんて考えたら駄目だよ。」
北見が強く抱き締めてくる。
「もし…君が死んじゃったらね…、君の母親は用無しになってしまうから…。わかってるよね?」
その日の夜、北見は夫婦の寝室へ、嫌がる優穂を引き込んだ。何もしないという条件で、ダブルベッドの中央で添い寝を始める。
「ねぇ、ひとつ想像してほしい事があるんだけど。」
北見が優穂の体を引き寄せながら言う。
「君が中学生だった頃、君は僕に特別な感情を持っていてくれたよね?留守電にも好きだって入ってた。…君を部屋に呼んだ時、あの時、女達が居なかったら、どうなっていたかな?君は少し期待して来てたんじゃない?僕に触れたかったんだろう?あの時二人きりで会っていたら…、そしたらもっと楽に関係を持ってたかも知れないよね?」
言われるままに、優穂は目を閉じて過去の汚点としていた記憶を辿った。そして答えを探し出す。
「…あの女の人達が居なかったとしても、あんたは俺の気持ちを踏みにじったと思う。そして、時間が経ってから今みたいな行動に出たと思う。」
「それは違うよ。…十三歳の君を初めて射精させてあげたあの瞬間、僕は内心、酷く興奮した。そして同時に葛藤も生まれた。同性愛なんて許されないって思っていたからね。だけど二人きりで、君に誘惑されたら、僕は直ぐに堕ちていた筈なんだ。」
優穂は静かに目を開ける。間接照明のみの灯りの中、視線を真っ直ぐに北見に向けると、軽く口付けられた。
「君の全ての初めてになれて嬉しいよ。…もう、自分が抱く側になるなんて考えられないだろう?一生、男には成れないまま、君は僕に体を捧げ続けるんだ。」
その言葉に、優穂は酷く傷付けられ、北見から目を逸らした。
「ねぇ、…母さんが帰って来たら、また我慢するの?」
「そうだね。それまでは出来るだけ毎日したいと思っているよ。…後はどうするかな?君に会社に来てもらって、社長室でするっていうのはどうかな?」
北見は楽しんでいるようだった。
「もし、ばれたら?」
「さあ…?なるようになるんじゃない?」
北見の指が優穂の唇を割り開く。そこを塞ぐように彼の唇が寄せられ、舌が挿入された。
「あー、また勃ってきちゃったよ。だけど、我慢する。また明日があるしね!…お休み、優穂。」
軽く額にキスを落とされ、優穂は人形のように横たわったまま静かに目を閉じた。
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