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第6話
少しの間、と言っていた男は、あれから1週間が過ぎた今日も家にいた。
「あ、おかえり。今日こそは飯……」
「食ってきた。とりあえず水だけ欲しい」
「……そっか。ほんとにちゃんと食ってんのか?」
つうか固形物は食えねえし。とは言えない。
でも男は毎日俺のために夕食を作って待っていた。
でもこいつ、絶対料理慣れてねえ。
焦げが目立つ野菜炒めやら、味の薄すぎるスープやら作ってんだもん。
二人分ってだけあって、結構大量に出来上がったそれらは、俺が食わないからと、次の日の男の朝飯兼用になっている。
それにしても、腹減った。
そろそろ身体に力が入らなくなってきた。
「ほんとに飯食ってんのか? マジでよ、今にも倒れそうな顔色だぞ?」
心配そうに俺の顔をのぞき込む男に、ふん、と鼻息をかける。
「食ってるって。家では食わねえ主義なの。だから俺の分とか作るなよ」
そう言い置いて、俺は心配そうに俺を見てる男に背を向け、仕事に向かった。
今日あたり、食事しねえと、ちょっとヤバいな。
と溜め息を吐く。
何とか仕事を終わらせ、俺は繁華街に向かった。
適当に酒を飲み、獲物を物色する。
適当に一人でいる女に目星を付けて、カクテルの入ったグラスを女の前に置くように頼む。
ほどなく、その女が俺の横に移動してきた。
「これ、あなたから? 「キール」なんて、素敵ね」
「その意味を知ってるあなたは、聡明だね。どう?」
「ありがとう、いただくわ」
妖艶に微笑む女に、俺も笑顔を向ける。
女がグラスを傾けるのを見て、俺も手元のグラスを空ける。
「じゃあ、行こうか」
「そうね」
立ち上がった女の腰に腕を回すと、女がしな垂れかかってくる。
香水の匂いが鼻に突くが、顔を顰めてしまいそうになるのを、グッと我慢して笑顔を継続する。
適当なホテルに誘導して、部屋を取る。
そこに女を連れ込むと、さっそく俺は女の唇を奪った。
たっぷりと唾液を絡めたディープキスを送ると、女は途端に発情したような顔つきになった。
胸をまさぐると、それだけで嬌声が上がる。
耳たぶを舌で弄り、首筋に舌を這わす。
服の上からつんと立った乳首を弄りながら、俺は犬歯を伸ばした。
噛んだ瞬間甲高い嬌声と共に意識を飛ばした女から、やっぱり献血一回分ほどの血を貰うと、俺は傷口を舐めてから身体を離した。
とりあえず適当に布団をかぶせ、洗面所に走る。
「……う……吐きそ……でもここで吐いたら、もう一回……飲まなきゃいけなくなる……」
半分涙目になりながら、必死で吐き気を堪え、口を漱ぐ。
ううう、なんでこんなに不味いんだよ……。
ってかなんで人間の血液でしか栄養取れないんだよ……。
毎回ツライ。
口元を押さえたまま、寝ている女に一瞥をくれると、俺は上着を持ってその部屋を後にした。
こっそりと部屋に帰ると、部屋には電気が付いていて、男がビールを片手に難しい顔をしていた。
「遅いじゃねえかよ」
なんでそんなに不機嫌そうなんだよ。
と内心突っ込みつつ、上着を掛けようと男の横を通る。
「何か汐音香水の匂いがする……って、それ……」
「うわ! 急にひっぱんなよ!」
腕を掴まれて、俺は男の膝の上に転がった。
男は俺の抗議なんかお構いなしに、俺の襟元を引っ張った。
「……血?」
と目を見開く男に、俺はしまった、と固まった。
襟元に付いちまってたのか。
「……一体、何してきたんだ……なんか汐音、血の匂いがする」
険しい顔の男に、俺はチッと舌打ちした。
「……女と寝てきたんだよ。そしたらそいつ、処女だったんだよ……」
笑っちまうような言い訳を口にする。
すると、男が今度は切なそうな顔をしてから、俺の服に手を掛けた。
そのまま、勢いよく左右に破る。
ビリビリっという音とともに、俺のシャツは単なる布に変化した。
「てめ……何すんだよ!」
「あのなあ、バージンの血なんて、あんなところに付くわけねえだろ。怪我、ないのかよ」
「ねえって!」
男が胸元を覗き込む。
無理やり脱がされそうになって、俺は思わず手が出てしまった。
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