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Supper ‐2‐

いくら親の敷いたレールの上を歩いていても、努力をしなければ簡単に追い抜かれる事はザラだ。たった数ヶ月でも、この人の下について仕事をしていればわかる。 若くして課長という肩書きを背負っている事に、文句をつけられないだけのものをこの人は持っているんだ。 「やっぱり、敵わないもんなんだな。年の功には」 再び居心地の良いソファにもたれかかる。きっとこれも、この部屋にあるものすべてが、今の俺には決して手の届かないものだろう。 「前から思ってたんだが、人を年寄り扱いするな。たいして変わらないだろう」 社会人として敵わない、という意味で言ったつもりが、日頃の行いのせいで嫌味に取られてしまったようだ。こういうやり取りを楽しいと思ってしまう以上はもう完全に引き返せない。 「だってあんた今年で27だろ?俺、早生まれなんで来年の誕生日まで22ですよ」 ムスッとした顔が可愛くて仕方ない。自然と手が伸びて頬を撫でる。 「なぁ…一つ、聞きたいんだけど」 「……なんだよ」 不服と喜びの交じった口調も可愛くて、思わず笑みがこぼれそうになった。必死に堪えて頬を撫でる手を滑らせ首すじを撫でる。 「俺は今夜、このままここにいていいの?」 ぴくりと体が反応したのは首すじを撫でる手によるものなのか、俺の言葉になのか。 どちらだとしても俺のせいである事は確かで、それだけがわかれば詳細なんてどうでもいい。 「……なかなか、はっきり言われると答えにくいものだな」 「それはどういう意味で?」 「そんなの決まっているだろう」 好き勝手に撫で回していた手を取られて握りしめられる。一週間前と同じように、にぎにぎと揉まれて、きっとこの人の癖なんだろうな、と思った。 「そういうつもりで誘ったわけではなかったとはいえ、帰れなんて言うわけがないのはわかるだろう?かと言って、引き止める理由が明確になると答えにくいだろ…」 この癖は照れ隠しなのかもしれないと思ったら、するっと本音が出てきてしまった。 「なら、風呂貸して。んで神谷さんも入って」 一緒に、だと勘違いした神谷さんは年上とは思えないくらいに動揺していて、可愛かった。 年齢や顔の造形、性格から想像するに、神谷さんはそれなりの経験値があるはずだ。俺のように一夜限り、なんて事は未経験だろうけど、恐らく女に困った事はないと思う。 先に軽くシャワーを浴びさせてもらって、部屋着も借りて、居心地の良いソファで神谷さんを待ちながら考える。性的な事にがっついていないのは、年齢を加味しても俺の予想はまず外れていない。 その証拠のように、風呂から上がった神谷さんは、自然に俺の隣に座ってリラックスモードだ。色気の欠片もなく、放っておいたら寝てしまいそうな雰囲気すらある。 「神谷さん」 なるべくリラックスモードを壊さないように声をかけると、普段とあまり変わらない口調で尋ねられた。 「客用布団あるけど、いらないよな」 正確には尋ねられていない。 「セミダブルだからちょっと狭いかもしれないけど、くっついていれば問題ないし」 「くっついて寝ていいんだ?」 どうしてもからかう言葉が出てきてしまうのも、神谷さん限定の俺の癖になっているのかもしれない。 「ベッドから落ちてもいいならくっつく必要もないけどな」 たまにこうして俺を真似ているのか皮肉めいた事も言う。笑顔はキスをした時のとろけるような表情とは似ても似つかない。 少しだけそのままくだらない話をして、寝室へと促されたのも、経験値を窺わせるものだった。 寝室は必要最低限のものしかなく、思っていたより狭かった。聞けばもう一部屋の方が広く、寝るだけの部屋には寝る時に必要なものだけあればいい、との事らしい。 当たり前に俺の入るスペースを空けてベッドへ入る。俺もこの程度で慌てふためくようなタイプではなかったけれど、ベッドへ入った途端に覆い被さられた事には少々驚いた。 「結構積極的なんですね」 「男なんて大抵そんなもんだろ」 「確かに」 お互いにくすくすと笑いながら、お互いの体を撫でる。スーツの上から触れた事のある場所でも、ゆとりのある部屋着では感触が違って、もっと正確に知りたくなる。そう思って思い出した。 「悲観したりはもうしてないけど、あんたみたいな人が苦手なのはコンプレックスだよ」 撫で合う手は止まらない。大差ないタイミングで服の中に入り込ませた手の平が直接肌を撫でても、徐々に揃って体も心も高ぶっているのに、会話は止まらない。 「ゲイである事は恥じていないんだろ?」 「それは恥じてない。でも、そのおかげで経験したくない事があったのも事実だから、あんたみたいに恵まれている人は好きになれない」 先に上を脱がすと、仕返しとばかりに剥ぎ取られた。 「……好きになんて、絶対になんねぇと思ってたのに」 「のに?」 「言わねぇよ」 誤魔化した俺にははっと笑う声がほんの少し吐息交じりになり始める。 「俺も男を好きになるとは思ってなかったな」 撫でるだけだった手の平を胸元に這わせ、一ヶ所をさすりあげると神谷さんはさすがに息を飲んだ。 「…こん、な風に…されるの、も、考えた事さえなかっ…た、な…」 ほのかな灯りに目が慣れて、神谷さんの表情がキスを交わしている時のものに近付いているのが見える。 もっと乱したい。 もっと欲しがられたい。 そう思ったら、ズボンを脱がされた。躊躇なく下着越しに触れてくる。 「…葛城、俺の名前、知ってるか?」 「え…?」 すでに反応しかけている場所を撫でながらの質問は狡いと思う。態勢を利用して、膝までだが俺はズボンだけでなく下着も一緒に下ろしてやった。 「苗字じゃなくて、名前」 熱い吐息が顔にかかる。潤んだ目が良く見える。下着の中に手が入ってきて、握りしめられた。 「───っ…あつ、ひろ」 「……けんと」 神谷敦宏。 葛城健人。 剥き出しにさせた所を俺も握り、扱く。お互いに名前を呼び合っているのに、キスを交わす事の方が忙しくて、まともに呼べたのはこの最初だけだった。

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