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第3話
二人の話は3時間ほどかかり、
アグラディアは「またねー」と子供のように帰っていった。
時間もそこそこ遅い。
呪術師と男で簡単な食事を済ませたあと、男が書斎に掃除に行こうとするのを呪術師が声をかける。
「私的な書斎だ、別に毎日掃除する必要はないんですぜ?」
「掃き掃除だけ済ませたいんです。先生は先にお湯使って下さい」
「そうかい?すまないね」
労ると呪術師は浴室へ向かった。
元々きれい好きな男は言葉通り掃除を手早く済ませると、綺麗に整った部屋を見渡して一息つく。
呪術師の引っ越しと同時に部屋に運び込まれた黒檀の家具類は統一感があり、作りも立派だ。その存在感だけで粗末で狭い部屋をそれなりに見せている。
呪術師は中古の貰い物だと言っていたが男から見ても高級品だとわかるそれは、おそらく男の年収くらいあっという間に吹っ飛ぶ代物だ。
傷をつけずに綺麗に掃き掃除を終えられてほっとする。
弟子になって日が浅い男は、まだ具体的な「修行」は受けていない。
呪術師いわく、
「しばらくは診察所の結界の中で暮らして、淫魔のせいで無駄に活性化した魔力が落ち着くのを待たねえとどうにもならねえ。悪いが雑用こなしながら辛抱しておくれ」
とのことだ。
呪術も魔術もわからない男は素直に頷いて、日々家事三昧で過ごしている。
呪術師が側においてくれることが嬉しかったし、元々家事は嫌いではないので楽しい毎日だ。
かつての警備の仕事とは違ってあまり筋力を使わないから、その分自己トレーニングをしなければならなかったが、それも些細な問題だった。
書斎は概ね片付いたが、片隅の小さい机に墨染めの上着がのっているのに気がついた。呪術師の忘れ物だろう。
身の細い呪術師は寒がりでこういう上着を手放さない。届けようと手に取ろうとした所で、ふわりと土にも似た薬草の香りが立った。
「(この香り、先生の……)」
フラフラと無意識に机上の上着に顔を寄せてしまう。
深く息を吸うと、まるで呪術師の胸に包まれているようだった。
「(ダメだ、こんなこと)」
そう思いながらもベルトを緩める手を止められない。
「(いけない、ダメだ)」
しかしそこはとっくに反り返り、先走りの淫蜜を零し始めている。
後ろめたさをそのままに、指先で蜜の溢れる先端をくるくると撫でると腰に戦慄が走る。
「ううっ」
女の手首ほどもある茎をゆっくり握り込む。
香りに集中して、目を閉じて呪術師がどうやって触ってくれたかを思い出そうとした。
亀頭を縦に潰し、溢れた淫蜜で全体を愛撫して、裏筋を人差し指でなぞってから根本を絞る。
「くっ」
最初は恐る恐るだった行為も、鼻先をくすぐる愛しい人の香りもあって、どんどん激しさを増していく。
次第に音は濡れ、くちゅくちゅと部屋に響いた。
「んっ、はぁっ……」
淫魔に取り憑かれた後遺症か、男は前だけでは達する事ができない。
後孔へも手を伸ばし、ぐちゅぐちゅかき混ぜだす。
すっかり柔らかく解れたそこは、男の太い指を簡単に受け入れてキュウキュウと切なさそうに吸い付いた。
いつの間にか溢れた蜜液が後孔から滴り、掃除したばかりの床に染みを作る。
呪術師の長く細い指を思い出して悲しくなるが、甘い疼きに指はどんどん激しく動かされる。
「せん、せぇっ、先生っ」
脳裏にあの時の声が蘇る
『よしよし、その調子だ』
『いい子だな、沢山出しちまいな』
『そうだ、声を抑えるな』
低く鼓膜をくすぐる声は男の腹の奥にズッシリ響き、甘い疼痛を呼び覚ます。
呪術師の薄い唇が男の耳の直ぐ傍で囁く度、男の理性のタガは1つづつ外されて、どんどん裸にされていくのだ。
いくら強請っても口づけ1つよこさないくせに、どれだけ懇願しても服すら脱いでくれなかったのに、呪術師は男の心をすっかり奪っていった。
きっかけがあの治療だからなんだというのか。
この気持も体の疼きも偽物だと言われて、男は凍えるような思いに涙を零す。
「ううっ、せんせ、せんせい」
自分の手とはあまりにも違う呪術師の手が恋しい。
乾いた冷たい、けれど力強く男を支えて撫でてくれるやさしい手でこの身を暴いて欲しい。
固くなった乳首をつまみ上げて、項に噛み付いてほしかった。
「あっ、はあっ……」
前の手を激しく前後に動かしながら、もう片方の手で後孔をいじり続ける。
長さが足りない。
太さに焦がれる。
まだ目にしたこともない呪術師のもので胎を貫かれたい。
悲鳴をあげてもやめないで、なすがままに乱暴に。
指ではどうしても届かない場所が疼く。
なんとも物足りなくもどかしいが、それでもなんとか達せそうだった。
あと少し、そう思った時
パリン!
何かが壊れる音がした。
花瓶でも倒してしまったかと思って慌てた男が目を開けると。
そこには巨大な無色透明の魔物、スライムが皮膜を広げて半裸の男を飲み込もうとしているところだった。
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