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掠める片鱗

それが何故、打ち負かされてしまったのか。 一体誰に、何の目的で、どのような話がなされていたのか。 詳細が見えない、どっぷりと闇に浸かっているかのように片鱗すら探れず、現段階ではスタート地点にさえも到達出来ていない。 情報収集に長けている有仁であれば、何か新たな真実に辿り着いているかもしれなかったが、今は言葉を掛けるのは(はばか)られた。 考えても仕方がないと分かっているのに、押し寄せるように様々な憶測が飛び交い、拒絶すればする程に考え事が増えていく。 「真宮さん、大丈夫ですか……?」 眉間に皺を刻み、思考の迷宮をあてもなくさ迷っていると、不意に隣から声を掛けられて顔を上げる。 見ればナキツが顔を曇らせており、何か言いたそうだけれども言葉が見つからない様子で、ただただ此方を気遣うような視線を注いでいる。 「そんな顔すんな。俺は大丈夫だ」 不安がらせるような表情をしていた自分に問題があるのだが、己にも言い聞かせるように大丈夫だとナキツに告げて、鳴瀬もきっと大丈夫なのだと無理矢理にでも思い込もうとする。 「実際大したことねえかもしんねえしな。慌てて駆け付けたら暢気に寝てるっつうことも有り得る」 「そうですね……。そうであればいいと、俺も願っています。大丈夫ですよ、真宮さん。きっと」 いくら奮い立たせたところで、焦燥感は拭えない。 早く顔を見たいと思う反面、少なからず怖さも付きまとっている。 俺はこんなにも弱かったかと、不意の報せを受けてから落ち着かぬ鼓動を感じながら、ぐっと拳を握り込む。 あれから何分過ぎ去ったか、やがて病院らしき建物が視界に入ってくると、有仁は携帯電話を片手で操作し、耳に押し当てて誰かと話を始めている。 そうしてすぐにも数字の羅列が聞こえ、それが病室の番号であると理解するのに時間はかからなかった。 もうすぐ状態を知ることが出来る。 電話をしながら振り向いた有仁に、改めて何処の部屋にいるのかを聞かされて、いよいよ目的地へ辿り着くのだと悟る。 唇を強く引き結び、対面の時を間近に控えてとうとう一台のタクシーが敷地へと入っていく。 気になることは山積みであったが、一目でも顔を見ないことには何も始まらないし、何も知り得ない。 とうに覚悟を決めたはずなのに躊躇していると、気が付けばタクシーが入り口の前で停車しており、有仁が勢い良く降車している姿が視界に飛び込んでくる。 「真宮さん」 先に降りていたナキツが車内へと顔を覗かせ、しっかりとした声で呼び掛けてくる。 強い意思を持った目で此方を見つめ、手を差し伸べている。 「ああ。悪い」 情けないと自分を叱咤しながら、見向きもせずに前だけを見つめている運転手を尻目に、暫くぶりに外の空気へと触れる。 何処までも高い空、広く澄み渡る世界の下で、気持ちが晴れることはないまま歩みを進めていく。 傍らで気遣うような視線を向けているナキツにも気付かず、何も言えないまま共に黙して入り口へと向かっている。 「こっちッスー!」 すると、いつの間にかいなくなっていた有仁が院内から出てきており、早く早くとでも言うように両手をヒラヒラと上下に振っている。 ナキツが傍らに寄り添う一方で、有仁はテキパキと段取りを組んで動いており、病室への最短ルートをすでに確認しているようであった。

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