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悪童の集い

「ハァ~……」 炭酸飲料を喉に流し込み、盛大に溜め息をつく。 「なァに溜め息なんかついてんだよ。悩みがあんなら聞いてやろうかァ?」 紙コップを机上に置いてから視線を向ければ、向かい側の席にはエンジュが座っており、相変わらず上機嫌に笑みを浮かべている。 両者を隔てるテーブルには、ハンバーガーやらポテトやらが所狭しとトレイに並べられ、そういえば俺何しに来たんだっけと改めて溜め息が出そうになる。 「悩みの種なら目の前にいるんすけど」 「あ? それって俺かァ?」 「以外に誰がいるんすかねえ。こんなところで仲良くハンバーガーなんか食ってる場合じゃないんすけど。しかも二人きりでって、どういうこと!?」 「そりゃ、お前。いつまでもあそこに居たって退屈だからだろうが」 「ええ……、それでなんで俺まで連れてこられたんすか? 一人で行けば良くない?」 「なんでって、テメエ俺の相棒だし」 「組みたくて組んだんじゃねえ~! なに当たり前のこと聞いてんだみたいな顔しないで!」 頭を抱えて嘆けば、向かいからは陽気な笑い声が聞こえてくる。 「まさかゴーグル野郎と仲良く飯食う羽目になるなんて、何が起こるか分かんないッスね……」 「ハハッ、確かになァッ! まあ、仲良くやろうぜ」 豪快に笑い飛ばされ、また頭を抱えたくなる。 目の前には、トレードマークのゴーグルを額に掲げたエンジュが居り、先程からポテトを摘まんでいる。 俺コイツと戦ったんだよなあ、と確かめるように胸中で吐露するも、そんな事があったとは思えない和やかな空気が流れている。 釣られてポテトを摘まんで、素直に美味しいとは感じても、いやそんな場合じゃないだろと我に返る。 ナキツや芦谷、真宮の動向が気に掛かるも、目前の危険人物からも目を離せず、何から手を付けたらいいのかと思案する。 一応は手を組んでいるからか、今のところ金髪の青年からは敵意を感じず、呆れるくらい暢気に食べてはまったりと過ごしている。 マジでコレどうしたらいいわけ……? 俺は今なにを求められてんの? 幾度となく頭を悩ませても、たぶん考えるだけ無駄だろうことは薄々感じ取っていた。 「ハァ……。咲ちゃん、どうしてるかなあ。あんなところに置き去りにしちゃってマジで不安」 「あ? 大丈夫だろ。ヒズルいるし」 「それが一番不安なんすけど!? アイツ何考えてるかわかんねえじゃん!」 「ハハッ、そりゃ確かにな! 俺もアイツが何考えてっかわかんねえわ!」 「わかんねえのかよ! うっ、ますます不安だ。ごめん、咲ちゃん……。ナキツと上手く合流出来てるといいけど……」 そしてまた溜め息を吐き、暫く止まりそうにない。 敵陣ともいえる場所で一人になる事態は避けたかったが、エンジュに強引に連れ出されたせいで芦谷と離ればなれになってしまい、あれからまだ連絡も取れていないので心配が募る。 ああ見えて咲ちゃん、結構ぼ~っとしてるからな。 気になる~! めっちゃ気になる~! 連絡取りてえ~! 眉根を寄せて悶々と悩むも、目の前に居られると迂闊な事も出来ず、一つ一つの言動が慎重になる。 頬杖をつきながら窺えば、彼は特に仲間を気にしていない様子であり、先程から話題にすら上がらない。 信用しているのか、それとも興味がないのか判断出来なくて、掴みどころのない青年を見つめても重要な部分は見透かせないでいる。 「でもな~……、合流してもちょっと心配か」 ぼそりと呟いて、ナキツは今どうしているだろうかと思い浮かべ、アイツ大丈夫かなあと憂いを帯びる。 やっぱ銀髪野郎が居たからかなあ、アイツらしくなかった。 そうしてナキツを探しに出ていった真宮を見送ったのを最後に、何故かこんなところで彼と油を売っている。 いやだから俺は暢気にハンバーガー食ってる場合じゃないんすよ……。 拳を震わせて噛み締めてもエンジュには空振りするばかりで、連携がとれるとは到底思えない。 こんな中途半端に飛び出してきて良かったのだろうかと考えるも、恐らく、いや間違いなく良くはない。 どうしようもないのでまたポテトを摘まみ、食べては飲むだけの時間が刻々と過ぎており、マジでコレ今なんの時間? と考えたところで意味はなかった。 「アンタは良かったんすか? 俺らと手ェ組むことになって」 気を取り直して、背凭れへと身体を預けながら、ハンバーガーを頬張る男へと探るように声を掛ける。 行動を制限されているなら、今この場で出来ることをやるしかない。 男を眺めていると、すぐにも視線が合って微笑まれ、本当に漸やヒズルとは一線を画す存在であると感じる。 それだけに読みきれず、未だにどのような人物であるかを測りかねており、ここで出来る限りの情報を引き出さねばと思う。 「いいんじゃねえの? 大勢のほうが楽しいだろ」 「いや祭と勘違いしてないすか……」 「お前らこそどうなんだよ。よくあんなことされて手ェ組もうなんて思えるよなァ。自分で言うのもなんだけどよ、信用できねえぞ?」 「それはまあ、承知の上ッスよね……。こんな時でもなきゃ、お前らなんかと手ェ組むなんてマジで願い下げッスから」 あんなこと、という言葉には鳴瀬との一件が隠れており、時間が経とうとも易々と許せることではない。 だからこそ仲良く手を組むなんてごめんなのだが、そうはいかない事情もある。 そして協力することで新たな問題も浮上しており、どれから片付ければいいのかと頭が痛くなる。 今のところ一番心配なのは、やっぱナキツかなあ。 真宮さんも心配だけど、そう簡単に銀髪野郎の好きにはさせないだろうし。 思考を巡らせて仲間を気に掛け、これからどうするべきかと考える。 「つうか、いつまでこんなところでのんびり過ごしてりゃいいんすか?」 「追加すっかな」 「おい聞け」 「そう焦んなよ。身体動かしてえのは分かるけどよォ、がっつくとなァ失敗すんぞ?」 「なんで俺が諭されてんの……? 筋肉ゴリラかと思いきや意外に冷静なのがムカつくんすよね……」 忌々しげに視線を向けながら炭酸飲料を口にすると、エンジュは相変わらず楽しそうに笑っている。

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