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悪童の集い
「それにしても……、ほもがエロい事する店かあ。想像もつかないッスね」
「お、興味あんのかァ?」
「そういうわけじゃないすけど、関わる以上気にはなるっていうか。アンタは店行った事あるんすか?」
「仕方なくな。アイツに鉢合わせたらダリぃからもう行かねえ」
「摩峰子さんすか? いいじゃないすか、美人なんだし。何がそんなに嫌なんすか」
「嫌なもんは嫌なんだっつうの。あ、そこの奴らに何人か会ったことあるぜ?」
「マジ!? どんな感じ?」
思わず身を乗り出し、エンジュの顔を見つめながら目を輝かせ、先を促す。
「どんなって、普通」
「そんなんで納得出来るか! もっとこう、具体的なビジュアルプリーズ!」
「あァ? めんどくせえ」
「自分から話振っといてひどくないすか!?」
「だったら自分で見てみろよ。確か……、なんだっけ。ああ、イズムっつうから。店」
「イズム……? ふうん、それが店の名前なんすね」
検索なら任せろとばかりに携帯電話を取り出し、軽快に指を滑らせながら調べてみると、すぐにも目当ての店が現れる。
ずらりと並ぶ面々の姿に釘付けとなり、食い入るように眺めながらつい手が止まり、暫しの時を黙りこくってしまう。
「あ? どうしたァ? 気になる奴でもいたか?」
「お……、男の子がイッパイいるッス……。え、こんなに?」
「ンなの当たり前だろ。野郎買う店なんだから」
「いや、それはそうなんすけど……。女の子みたいに可愛い子がいっぱいいるのかと思いきや、殆どはなんか、普通に、男の子なんすね……」
「だから言ったろ? 普通だって」
「会ったことあんのってどの子なんすか?」
手招きしながら前のめりになると、エンジュも身を乗り出して机上に肘をつく。
携帯電話を傾け、彼からも液晶が見やすいようにして、キャストの一覧を露わにする。
傍らの様子を窺うと、エンジュは大人しく見下ろしながら画面に指を触れさせ、上へ下へと移動しつつ誰かを探している。
「あ~、コイツ。と、コイツ。あとコイツもだな」
「えっと……。龍妃 に、雛姫 に、柘榴 と……」
「おう、つい最近会ったぜ」
「凜々しい感じと、可愛い感じと、綺麗な感じッスね。最近っていうと、今回の件で会った感じすか?」
「だな。呼び出し食らって、連れて行かれた先にいたわ」
なるほど、と呟きながら、再度示された三名へと視線を注ぐ。
龍妃という青年は、どことなく真宮を彷彿とさせるような雄々しさを放ち、顔立ちも整っていて男らしい。
そして鋭い視線からは勝ち気な性格が窺え、体付きを見ると腕っ節も強そうに思える。
対して雛姫は、女の子と見紛うような可憐さを纏っており、愛らしい容貌をしている。
しかし詳細を追っていくうちにタチ専と知り、信じられないような気持ちで可愛らしい顔を眺め、俺は何も見なかったと思いながら移動する。
そうして辿り着いた柘榴からは大人びた印象を受け、品の良い佇まいに視線を奪われるも、何だか振り回されそうだなあとも感じてしまう。
「みんなこういう可愛い感じかと思ったんすよねえ。雛姫ちゃんみたいな」
「可愛いかァ? 俺はこういう奴は信用できねえ」
「え、なんで? こんな可愛い子に会ったらにこにこしちゃうッス」
「テメこういうのがいいのかァ……? マジか。センスねえな」
「なんで急にそんな軽蔑したような眼差し向けられなきゃなんないんすか……」
「だったらうちのアレ、テメエにやるよ」
「アレってどれ」
「金髪クソ野郎」
「いや誰!? あ、金髪……」
「俺じゃねえわボケ」
理不尽に頭部を小突かれつつ、なんなんすかと口を尖らせながらも指を滑らせ、面々を眺めていく。
「つうか、人数多いッスよね。これ全然手ェ回んなくないすか?」
「大体の目星は付いてるとかなんとか言ってたような気ィするけどわかんねえ」
「適当……。ちゃんと話聞いてきてほしいんすけど……、期待するだけ無駄ッスね……」
ハァ、と何度目かの溜め息を漏らし、店舗紹介のページを閉じる。
それを機に身を寄せ合っていた両者は離れ、再び背もたれへと身体を預けて向き直る。
いやあ……、なんか新しい扉開いちゃったな……。
馬鹿みたいな感想を胸裏で呟きつつ、これから実際に彼らに会う機会があるかもしれないと思うと、正直どんな顔で接したらいいか分からない。
何とはなしにポテトを摘まみ、無造作に口へと放り込むとすっかり冷め切っていたが、考え事に忙しいせいであまり気にならない。
「つうかよォ、店に潜入して客引いたほうが早ェんじゃねえの?」
「え、それって……、誰が?」
「真宮とか?」
「ダダダダメッスよ!! 何言ってんすか!!」
「案外客呼べそうな気ィするけどなァ? でもそうするとどっちだろうなァ」
「いやいやいや、やめてほしいッス。此処にナキっちゃんが居たらアンタ刺されてるッスよ」
「ハハハ、マジかよ。物騒だな。名案だと思ったんだけどなァ~」
「真宮さんに身体張らせるとか有り得ねえから! 大体そっちの問題なんすから、銀髪野郎とかいるっしょ!」
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