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悪童の集い
「お偉方 なあ……。お前よォ、アイツどう思う?」
思わぬ質問を投げ掛けられ、不意打ちに噎せそうになる。
「どうって……、急になんなんすか?」
真意を読み取ろうとエンジュを見つめるも、彼は相変わらず笑みを浮かべている。
「アイツと何回か会ってんだから、思うところもあんだろ?」
「思うところって言われても……、そういう質問はアンタらにこそ投げ掛けたいんすけど」
「お、何が聞きてえ」
「銀髪野郎……、いや、漸て何者なんすか?」
正直なところ、まともな答えが返ってくるとは思っていない。
しかし今、自分よりは遙かに深く関わっているだろう男を前にして、問わずにはいられなかった。
何処からやって来て、どういう経緯で加わって、どのように彼等を掌握したのか。
素直に白状するとは思えなかったが、特に動揺は見られないエンジュを慎重に窺いつつ、彼が口を開くのを静かに待つ。
「さあな、よく知らねえ」
「は……?」
「ンだよ、その期待外れって言いたげなツラはよォ」
「いや……、マジで期待外れだったからがっかりもするっていうか……。もう少しまともな回答を期待したッス……」
「そもそも興味ねえしなァ、俺は他人の事なんて。どうでも良くねえか? アイツが何者だろうと」
「あ~……、確かに。アンタはそんな感じするッスね……。唯我独尊で周りを振り回すタイプ……」
「あ~? 何か言ったか?」
「何でもないッス~! ところで漸との付き合いは長いんすか? 興味なくてもそんくらいは分かるっしょ」
「大してねえよ。ある日突然、金髪カマ野郎が連れてきた」
「だからその……、さっきからちょいちょい出てくる金髪のそれ誰なんすか……」
「どうでもいいだろ。アイツの話なんかすんじゃねえよ、胸クソ悪りぃ」
「理不尽……」
露骨に不機嫌な顔をされ、それ以上の追求は出来なくなる。
だが整理すると、エンジュの仲間なのだろう一人が、漸をチームに連れてきたらしい。
元から知り合い? て感じでもないか。
つい思案を巡らせながら、ポテトを摘まみつつ飲料を口に含み、謎多き漸について考える。
偶然か、目的があって近付いたのか、考えれば考える程に選択肢ばかりが増え、頭を悩ませるだけ時間の無駄だなと早々に諦める。
「お宅の王子様は、一体何がしたいんすかねえ。本当に悪意がないのか怪しいっつうか」
「ンなもん俺に聞いたところで分かるわけねえだろ。聞く相手間違えてんだよ」
「アンタが一番うっかり喋ってくれそうなんすけどね……。ハァ。もう俺達に関わるのは、これっきりにしてほしいッス」
「なんだよ、怖じ気づいたのかァ?」
「いやいや、まさか。アンタらに関わるとマジでろくな事がないんで。俺達はもっと、のんびり有意義に暮らしたいわけなんすよ」
「ハッ、どの口がぬかしてんだ。テメエらだって、俺らと大して変わんねえだろうが」
「そりゃ心外ッスね」
うんざりとした表情で視線を逸らし、何とはなしに窓の外を眺める。
夜更けでも街中は活気づき、若者が多く行き交う様子を視界に収めながら、頬杖をついて暫し会話が途切れる。
漸に比べれば、エンジュの内面はまだ読み取りやすく、狡猾な計算をするタイプではない。
しかしだからといって、信用するには値しない。
彼は漸の仲間で、かつては鳴瀬とも友好関係を築きながら、彼を無下に見捨てている。
思い出して密やかに胸クソ悪くなるも、表面上には出さないように努め、ちらりとエンジュへと視線を向ける。
「なんで俺のこと見てんすか……。気持ちわる」
「なァに考えてんのかと思ってよ」
「別に何も考えてないッスよ。早く号令の一つでもかけてくんねえかなあと思って」
「確かに暇だよなァ。そのへんで狩りでもすっか」
「いや、なんて? コンビニ行くくらいの気軽さで物騒なこと言わないでもらえないすか!?」
「そのへん歩いてりゃ、絡んでくるカモなんていくらでもいんだろ」
「いやいやいや、騒ぎ起こしてる場合じゃないんすけど!?」
「よっしゃ、そうと決まれば行こうぜ~!」
「ちょ、聞けって!!」
元気に立ちあがるエンジュを見上げ、差し伸べた腕は空しく宙を舞う。
ハァ……、マジでコイツと気が合わないどうしよう助けて真宮さん。
深い溜め息をついてから立ち上がり、エンジュが散らかした分まで仕方なく片付けながら、今後のことについて頭を悩ませる。
店内へと視線を向ければ、まばらではあるが席が埋まっており、思い思いの時間を過ごしている。
二人分のトレイを持ってゴミ箱に近付くと、当たり前にエンジュはもう外へと出ていて、待ちくたびれた様子で店内を振り返っている。
「何とか手綱握るくらいはしないとなあ。いや無理ゲー過ぎない……?」
見るからに狂犬を前に、乾いた笑いが込み上げてくる。
すでに心が折れそうな自分を奮い立たせながら、ゴミを片付けてトレイを置き場に収めると、憂鬱な気持ちで店を後にする。
一応待ってくれていたらしい大柄な青年の後ろ姿を見て、何度目かの溜め息が自然と零れていく。
いやあ……、やっぱ俺自信ねえや……。
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