323 / 347

血と洗礼 3

「今はァ、協力して立ち向かわないとダメでしょ? 真宮ちゃん。俺達仲間なんだから」 諭すように語り掛ければ、案の定彼は不機嫌そうに睨み付けてくる。 「仲間だと? 反吐が出るな。そろそろ黙れよ、テメエは」 「またそうやって噛み付くんだから。俺は真宮ちゃんの緊張を解してあげようとしてるだけなのに」 「誰が緊張してるだと」 「俺と二人きりになってからずっと気ィ張ってるじゃん。そんなに怖い? まあ、無理もないか」 暗に告げれば、彼の眼孔が更なる鋭さを放つ。 暫く見つめ合っていたが、薄闇の向こうから近付く気配を感じ、殆ど同時に視線を流す。 「あ、いたいた~!」 動向を窺えば、目が合った途端朗らかに手を振られ、小柄な人影が駆け寄ってくる。 「待たせちゃった? ごめんね」 手を合わせて謝られ、口を閉ざす真宮の傍らに立つと、見覚えのある彼に言葉を紡いでいく。 「いいや、全然。今来たところだから気にしないで」 笑顔で語り掛ければ、目の前に佇む人物が安堵したように微笑みを漏らす。 「そっか、ありがとう。今日はよろしくお願いします! あ、彼見ない顔だね!?」 挨拶を終えれば、興味は見慣れない人物へと移り、視線を注がれた真宮が困惑したような表情を浮かべる。 「へえ~、なかなかいい男だね。ねえ、お名前は?」 「……真宮だ」 「真宮さんて言うんだ~! 下のお名前は?」 「……凌司」 「かっこいいね~! 僕は雛姫(ひなき)っていうんだよ! よろしくね!」 初対面とは思えない気安さで雛姫が近付き、ぎこちない彼の手を取って微笑む。 早速目をつけられたようだが、当人は気付いていないだろうし、控え目に愛想笑いを浮かべている。 話には聞いていたものの、いざ目の前にすると勢いに気圧され、やがて困り果てた真宮の視線が注がれるのを感じる。 「どうしたの? 困った顔して」 「どうすりゃいいんだよ……」 「もちろん、仲良くするんだよ」 微笑を浮かべれば彼は眉根を寄せ、どうしたらいいのか分からないような顔をしている。 「ところで今日の約束はどうなってるのかな」 たじろぐ真宮に助け船を出すつもりも無いが、話題をすり替えれば雛姫が視線を向けてくる。 「さっき着いたみたい。連絡きたからさ」 「そうなんだ。じゃあ、そろそろ向かった方がいいかな」 「そうだねえ、残念。もっと凌司くんとお喋りしたかったんだけどなあ」 「随分と彼の事が気に入ったんだね」 「うん! 好みだから!」 「あとでまたゆっくり話せるよ」 雛姫が嬉しそうに腕に抱き付くと、真宮がまた困惑したような表情を浮かべる。 目で訴えられるも、何だか可笑しくて放ってしまい、そうしている間にも雛姫からの質問責めに律儀に答えている。 何となく真宮の態度がぎこちないのは、此方を警戒しているからなのだろう。 「は~! いい男に挟まれて最高の気分! 仕事なんて放り出して遊びに行きた~い!」 雛姫が歩き出すと、自然と彼の両側に立ち、上機嫌な手に腕を取られて引き寄せられる。 「俺も。このまま手放すのは惜しいって思うよ」 「え? 何だか、前に会った時と雰囲気違うね?」 「それってどういう意味で? 良いほうに捉えていいのかな」 触れる手に指を絡めると、敏感に察知した雛姫から声が上がり、構わずに笑みを浮かべる。 「この気障野郎。そんな奴の言う事なんか真に受けんなよ。ろくな事になんねえからな」 雛姫の視線を浚っていると、それまで黙っていた真宮がたまらず声を上げ、冷たい一瞥を寄越される。 「真宮ちゃんてば嫉妬? 可愛いね」 「そんな安い挑発には乗らねえ。俺は雛姫に言ってんだよ」 「え!? 僕そういう乱暴な態度キュンときちゃう! もう一回呼んで!?」 「え……? いや……、悪い。つい……」 「え~! 何で謝るの~!? 僕の為に言ってくれたんでしょう!?」

ともだちにシェアしよう!