326 / 347

血と洗礼 6

顎に指を添えながら、雛姫が考え込むような素振りを見せる。 「あんまり仲が良くねえとか?」 「う~ん、そんな事はないと思うんだけどね。結構付き合い長いっぽいし」 「そうか……。アイツと長い付き合いが出来るなんて、ある意味尊敬するな……」 許枝を思い浮かべているらしく、苦虫を噛み潰したような顔で真宮が唸る。 「僕としては、凌司くんと許枝さんの関係も気になっちゃうけど」 「何にも面白い話なんてねえから気にすんな」 「そうやってすぐ否定するところがさ~! 俄然気になっちゃうよね! ねえ、漸くん!」 話を逸らそうとする真宮に、興味を抱いた雛姫が首を突っ込み、同意を求めるように声を掛けてくる。 「このまま押し切るのは厳しいんじゃないの?」 「うるせえな、だから何にもねえっつってんだろ」 「そんな風には見えないけど。何か後ろめたい事情でもあるわけ?」 「ねえよ、あるわけねえだろ」 「じゃあ、何なんですかァ」 エレベーターを待つ間、雛姫と結託して真宮に迫ると、彼がばつの悪そうな表情を浮かべる。 「う……、何だお前ら急に。ズリィぞ」 「まさか凌司くん……、許枝さんとそういう関係とか!?」 「あ、そういうの伝わらないよ? はっきり言ってやらないと。彼、鈍いから」 案の定真宮は、雛姫の推測に疑問符を散りばめており、真意に辿り着けてはいないらしい。 そんな彼に、見るに見かねて助け船を出せば、途端に真宮が慌てたように声を荒らげる。 「なっ、そんなわけねえだろ!」 「コラ、大きな声出しちゃダメ」 「あっ……、いや、だから……、アイツに会う度一緒に来いって言われるんだよ。それだけだ!」 咎めれば、真宮が辺りを見回してから声を潜め、観念したように真実を吐露する。 「え? それって……、仲間になれって事?」 「そうだよ。まあ、どういうつもりで言ってんのかは知らねえけどな。ただの軽口かもしれねえし」 「え~! でも会う度に言ってくるって事は本気なんじゃん!? うわあ、凌司くんてすごいんだねえ」 「どこがだよ。だからなるべく会いたくねえんだよ、うるせえから。ココがアイツのとこって知ってたらもうちょい考えたんだけどな……」 腕組みをしながら、小声で思い悩む様子が窺え、彼の意外な一面を知る。 雛姫といえば、面白い話を聞いたとばかりに目を輝かせ、真宮から更なる話題を引き出そうとする。 腕を引っ張り、子供のようにせがんで揺さぶると、待ちかねていたエレベーターがようやく辿り着き、真宮が振り払ってさっさと歩き出す。 「も~! 超面白い話持ってるじゃん! もっと教えてよ~!」 「もう、ねえって! あ、お前、この話は絶対誰にもするんじゃねえぞ」 「え~、どうしよっかなあ。こんな面白い話、絶対摩峰子姉も食い付くだろうし」 「雛姫!」 「え~、もう。分かったよ~、しょうがないなあ」 「それと、お前もだ! 漸!」 「了解」 にこやかに快諾すれば、真宮が信じられないという顔で見つめてくる。 「何? 聞こえなかった?」 「お前そんな事言って絶対喋るんだろう……」 「言わないって。せっかく快く了解したのに、そんな事言うなんて酷いなあ。大体、それ喋ったところで俺が得する事なんてある?」 「それは分かんねえけど……、う~ん……信用できねえ」 疑念の眼差しを向けられるも、意にも介さずあしらえば黙り込み、それでも納得がいかないのかじっと見つめられる。 「アハハ! 漸くん、よっぽど信用ないんだ!」 「それはマジでそうだ」 扉が閉ざされ、動き出した箱庭の中で雛姫が笑うと、すかさず真宮が加担して指し示してくる。 「アイツの言う事は信用すんなよ!」 「凌司くんて、漸くんの事よく知ってるんだね~! 仲いいもんね!」 「ハァッ!? お前! 何をどう見たらそうなるんだよ、目ェ覚ませ!」

ともだちにシェアしよう!