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血と洗礼 6
顎に指を添えながら、雛姫が考え込むような素振りを見せる。
「あんまり仲が良くねえとか?」
「う~ん、そんな事はないと思うんだけどね。結構付き合い長いっぽいし」
「そうか……。アイツと長い付き合いが出来るなんて、ある意味尊敬するな……」
許枝を思い浮かべているらしく、苦虫を噛み潰したような顔で真宮が唸る。
「僕としては、凌司くんと許枝さんの関係も気になっちゃうけど」
「何にも面白い話なんてねえから気にすんな」
「そうやってすぐ否定するところがさ~! 俄然気になっちゃうよね! ねえ、漸くん!」
話を逸らそうとする真宮に、興味を抱いた雛姫が首を突っ込み、同意を求めるように声を掛けてくる。
「このまま押し切るのは厳しいんじゃないの?」
「うるせえな、だから何にもねえっつってんだろ」
「そんな風には見えないけど。何か後ろめたい事情でもあるわけ?」
「ねえよ、あるわけねえだろ」
「じゃあ、何なんですかァ」
エレベーターを待つ間、雛姫と結託して真宮に迫ると、彼がばつの悪そうな表情を浮かべる。
「う……、何だお前ら急に。ズリィぞ」
「まさか凌司くん……、許枝さんとそういう関係とか!?」
「あ、そういうの伝わらないよ? はっきり言ってやらないと。彼、鈍いから」
案の定真宮は、雛姫の推測に疑問符を散りばめており、真意に辿り着けてはいないらしい。
そんな彼に、見るに見かねて助け船を出せば、途端に真宮が慌てたように声を荒らげる。
「なっ、そんなわけねえだろ!」
「コラ、大きな声出しちゃダメ」
「あっ……、いや、だから……、アイツに会う度一緒に来いって言われるんだよ。それだけだ!」
咎めれば、真宮が辺りを見回してから声を潜め、観念したように真実を吐露する。
「え? それって……、仲間になれって事?」
「そうだよ。まあ、どういうつもりで言ってんのかは知らねえけどな。ただの軽口かもしれねえし」
「え~! でも会う度に言ってくるって事は本気なんじゃん!? うわあ、凌司くんてすごいんだねえ」
「どこがだよ。だからなるべく会いたくねえんだよ、うるせえから。ココがアイツのとこって知ってたらもうちょい考えたんだけどな……」
腕組みをしながら、小声で思い悩む様子が窺え、彼の意外な一面を知る。
雛姫といえば、面白い話を聞いたとばかりに目を輝かせ、真宮から更なる話題を引き出そうとする。
腕を引っ張り、子供のようにせがんで揺さぶると、待ちかねていたエレベーターがようやく辿り着き、真宮が振り払ってさっさと歩き出す。
「も~! 超面白い話持ってるじゃん! もっと教えてよ~!」
「もう、ねえって! あ、お前、この話は絶対誰にもするんじゃねえぞ」
「え~、どうしよっかなあ。こんな面白い話、絶対摩峰子姉も食い付くだろうし」
「雛姫!」
「え~、もう。分かったよ~、しょうがないなあ」
「それと、お前もだ! 漸!」
「了解」
にこやかに快諾すれば、真宮が信じられないという顔で見つめてくる。
「何? 聞こえなかった?」
「お前そんな事言って絶対喋るんだろう……」
「言わないって。せっかく快く了解したのに、そんな事言うなんて酷いなあ。大体、それ喋ったところで俺が得する事なんてある?」
「それは分かんねえけど……、う~ん……信用できねえ」
疑念の眼差しを向けられるも、意にも介さずあしらえば黙り込み、それでも納得がいかないのかじっと見つめられる。
「アハハ! 漸くん、よっぽど信用ないんだ!」
「それはマジでそうだ」
扉が閉ざされ、動き出した箱庭の中で雛姫が笑うと、すかさず真宮が加担して指し示してくる。
「アイツの言う事は信用すんなよ!」
「凌司くんて、漸くんの事よく知ってるんだね~! 仲いいもんね!」
「ハァッ!? お前! 何をどう見たらそうなるんだよ、目ェ覚ませ!」
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