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血と洗礼 7

無邪気に笑う雛姫へと、慌てた素振りで真宮が否定の言葉を投げ掛ける。 壁際に佇み、腕を組みながら様子を窺いつつ、目的の階に辿り着く時を静かに待つ。 時おり視線を向ければ、神妙な面持ちで肩を揺さぶる真宮が映り込むも、雛姫といえばまるで真剣に受け取っていない。 その後も必死の説得を試み、しかし雛姫は笑うばかりで真意は伝わらず、そのうち頭を抱えた真宮が恨めしそうに振り返る。 「何、笑ってんだよ」 「え? 笑ってねえけど」 「笑ってただろうが、腹立つな!」 「え~、ずっと背ェ向けてたのに随分と俺の表情に敏感じゃん。そんなに気に掛けてくれてんだ」 無防備に近付いてきたので顎を掴めば、案の定怒った真宮に振り払われる。 ますますからかわれるだけだろ、と思えば早速雛姫に仲を疑われ、賑やかな青年が墓穴を掘りながら火消しに追われている。 「凌司くん、おもしろ~い!」 「俺は面白くねえ! さっきの撤回しろ!」 「さっきのってどれ~? 凌司くん、可愛い! 漸くんと仲良し! 食べちゃいたい!」 「全部だ、全部!!」 「やだ~! だってホントの事だもん! あ、そうだ! 番号教えてよ!」 「いやだ!」 「なんで~!? ひどい、凌司くん! 僕のこと嫌いなの!?」 「うっ、誰もそんなこと言ってねえ!」 「じゃあ、いいよね! 僕もっと仲良くなりたいもん!」 勢いに気圧され、余程扱いに困ったらしい真宮が、傍らにやって来て肩を押してくる。 「なあに? 楽しく喋ってたんじゃなかったの?」 笑みを浮かべて見つめれば、眉根を寄せた真宮がお前が行けと言わんばかりに視線を投げ掛けてくる。 「ごめん。真宮ちゃんてば恥ずかしいみたい」 雛姫へと詫びながら、何とはなしに真宮の腰を抱くように擦れば、傍らで彼が肩を震わせたように感じる。 さっさと離れてしまったので確かめようもないが、雛姫の視線を追う限り、やはり気に掛かる態度ではあったらしい。 「着いたみたい」 僅かな沈黙の後、再び晴れやかな声が辺りへと響き、華やいだ笑顔で雛姫が声を上げる。 「あ、そうだ。コレ渡しておかないと」 目的の階へと着いたエレベーターが音を立てて開き、雛姫が思い出したように衣服を探る。 「はい、どっちが持ってる?」 7階に降り立ち、幾分か声を潜めた雛姫が差し出した物はカードキーであった。 彼がこれから訪ねる部屋の鍵であろう事は明らかであり、答える前に傍らへと視線を向ける。 「真宮ちゃんが持てば?」 「それは……、別に構わねえけど。お前に言われると何かな……」 「無くさないでよ?」 「うるせえな、無くすかよ」 揶揄するように笑えば、面白くなさそうに口を尖らせながらも素直に鍵を受け取る。 「それじゃ、行くけど……、コレ何もなかった場合、君たちに最後まで聞かれちゃうんだよね」 階下へと降り始めたエレベーターの前で佇みながら、雛姫が気まずそうに顎を掻く。 「最後……?」 「そういう事になるね。でも君、タチなんでしょ?」 頭上に疑問符を散りばめているだろう真宮は放り、目の前で恥じらいを浮かべる雛姫に微笑みかける。 「うん! 抱かれたくなったらいつでも言って! どうせ聞いてたら平気じゃいられないだろうし」 ばつが悪そうにしていたかと思えば、自信に満ち溢れた表情で手を振られ、どうやら先程の言動は演技であったらしい。 「でも、たぶん大丈夫。獲物は釣れてると思うから。何かあったらすぐ来てよね! 二人でいい感じになってたらダメだからね!?」 軽く手を振ると、釘を刺すように言い放つ雛姫へと、真宮が何事か言い返している。 律儀に否定したところで何にもならないが、気が済むまで黙って見守っていると、雛姫が楽しそうに手を振って去っていく。 「お前さァ、大真面目に言ったって無駄だって。ああいう手合いはさ」 「だからってお前との仲疑われて黙ってられるかよ……」 「そうやってムキになればなる程怪しくなっちゃうのにさァ。可愛いねえ、真宮ちゃんは」 「お前な……」

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