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血と洗礼 8
睨まれても意に介さず、歩を進めて視線を向ければ、佇む雛姫の肢体を捉える。
一室の前で立ち止まり、暫く待つと徐に開いた扉に彼が迎え入れられていく。
「行ったか」
「雛姫か?」
「そういう事」
見送ってから口を開けば、近付いてきた真宮に声を掛けられ、視線を通わせる。
「さてと。忘れちゃいそうだし、真宮ちゃんに渡しとくか」
気乗りしない様子で、面倒臭そうに衣服の物入れを漁ると、目当ての品物に指先が触れる。
取り出して差し出せば、まじまじと見つめてから彼が受け取り、困惑した視線を投げ掛けられる。
「耳、付けといて」
自分の耳を指し示しながら見つめれば、イヤホンを手にした彼からは気が進まないという表情が窺える。
「これって……」
「なァに気まずそうな顔してんの。早く付けねえと手遅れになってるかもよ?」
笑みを湛えながら自身も身に付け、小型の受信機を取り出して早々に傍受を開始する。
「何でそんな躊躇いなくできんだよ。流石は悪人だな。やり慣れてる」
「おかしなこと言うなあ、真宮ちゃんは。これから人助けしようって時に」
「ただの盗み聞きじゃねえか、こんなの」
「アイツどういうセックスすんだろ。ねえ、真宮ちゃん。気になんない?」
「お前……」
「そんな睨まなくてもいいじゃん。寧ろ普通にヤッてくれたほうが平和って事だし」
「それは……、まあ……。いやでも複雑だ」
「勃っちゃったら手ェ貸してあげるから安心して?」
「ふざけんなよ、マジで」
不機嫌そうに眉を顰めてから、ようやく腹を括ったらしい真宮が片方の耳へとイヤホンを取り付ける。
それを確認してから周囲を見渡すと、どうやら真っ直ぐに伸びる通路の中間地点に居るらしく、後にも先にも多くの扉が点在している。
出歩く者の姿はないが、いつまでも突っ立っていては悪目立ちするので、場所を移動するべく真宮を伴って歩き出す。
「どこ行くんだよ」
「目立たない場所」
「あんまり離れると……」
「大丈夫だって。真宮ちゃんてば心配性なんだから」
「そんなんじゃねえ」
「どっか部屋でも借りれば良かったかなァ。まあ、そうなると、肝心な時に出てこれなくなっちゃうかもしんねえけど」
「テメエとなんか入らねえから安心しろ」
「怖がってんの? かわいい」
「いい加減にしろ」
苛立つ彼を余所に、通路の途中で分岐点を見つけ、足を向ければ立ち並ぶ自動販売機が視界へと広がっていく。
「何か飲む?」
「悠長に休憩してる場合か」
「冗談だって。真面目ちゃんだなァ、真宮ちゃんは」
「ハァ……、お前といると疲れる。早く終わってくれ」
「そう? 俺は楽しいけど」
にこやかに微笑むと、盛大な溜め息と共に不満げな表情の真宮が映り込む。
通路に突っ立っているよりは、奥まった場所で待機している方が都合良く、わざわざこのようなところに立ち寄る者など関係者以外にはまずいないだろう。
ひとまずは此処で、室内の様子を窺いつつ時間を潰し、退屈な一時を過ごす事になる。
「煙草吸えば? 吸いたいんでしょ」
「こんなところで吸えるか」
「へえ、意外といい子ちゃんじゃん。感心」
「何だと思ってんだ、お前は。馬鹿にしてんだろ」
「別に? 吸いたいんじゃねえのかなァって、気ィ遣ってあげただけ」
「お前に気遣われるとか裏があるとしか思えねえ」
「ひどいなァ、そんな事ねえのに。人の善意は素直に受け取らないと」
「一番信用ねえお前が言うな」
壁に凭れながら視線を向ければ、相変わらず不機嫌な真宮が居心地悪そうに文句を並べている。
会話を続け、一方で耳を傾けた先からは室内でのやり取りが聞こえており、事が起こるまでには多少の時間を要するだろう。
「なァんかお話してよ、真宮ちゃん。退屈だから」
「なんでそんなに偉そうなんだ、お前は……」
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