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血と洗礼 15
微笑を浮かべるも、心中は穏やかではない。
目前では、冷たい雨に晒されながら、身の程知らずの輩が複数人倒れている。
鬱々とした空は暗く、分厚い雲が月を隠し、肌寒い風が雨で冷えた身体を通り過ぎていく。
人通りはなく、ホテルから男を追い掛けているうちに、大通りからは離れてしまった。
やましい事をするには絶好の場所であり、一体いつから目を付けられていたのだろうか。
「あ。お前、逃げんなって」
振り返れば、怖じ気づいた男が腹這いで逃げており、溜め息を吐きながら襟首を掴む。
無駄な抵抗を封じ込め、そのまま地べたを引き摺って移動を試みれば、黙ってはいられない生き残りが飽きもせずに襲い掛かってくる。
「うわあ!」
「ハァ……。いちいち、うるせえ。黙ってらんねえのかよ、お前は」
盛大な悲鳴にうんざりとしつつ、拘束の手を解いてから彼等に向き直ると、三者三様の技を掻い潜りつつ複数人の相手をする。
真っ先に飛び込んできた輩の攻撃を受け流し、次いで殴り掛かってきた男の拳を避けてから掴み掛かると、押し退ける反動で身を翻しながら後続の刺客へと蹴りを入れて追い返す。
息つく間もなく繰り出される拳を避け、次いで懐へ入り込もうとした輩の腕を掴んで投げ飛ばし、後に続いた気配へと痛烈な回し蹴りを叩き入れて濡れた路面に転がしていく。
それでもしぶとく起き上がって駆け出そうとする男を蹴りで沈め、何度でも這い上がってくる刺客に咄嗟に身を屈め、覆い被さってきた反動で後方へと投げ飛ばす。
「暇じゃねえって言ったよな……。どうしてくれんの、コレ」
雨に濡れた前髪を掻き上げると、水分を含んだ上着を脱ぎ捨て、物言いは静かながらも苛立ちが滲み出る。
しかし、そんな事で退いてくれるような物分かりの良い連中ではなく、再び立ち上がった者共を相手に何度でも黙らせる。
そうして混戦に身を投じる最中、死角から飛び込んできた一撃に一瞬反応が遅れ、痛みを感じる間もなく雑兵を片付ける事に集中する。
しつこく襲い掛かってきた輩を蹴り、ようやく立ち上がれないくらいに痛め付けたところで、現状を把握するように腕へと手を伸ばす。
「お前……。見物してたんじゃねえの?」
患部を擦ると、切れた袖から血が染み渡っており、熱を孕みながら脈打つような痛みが込み上げてくる。
視線を向ければ、それまで高見の見物を決め込んでいた男が佇み、手にはナイフが握られている。
「それ、人の玩具で何してんの?」
「自分には使った事がないだろう。どうだ? 切れ味の程は」
「あ~……、素人にしては頑張ったほうじゃねえの」
「そうか。ならもう一発いくとするか」
雑兵の一人に突き立てた刃が、いつの間にかリーダー格の男の手に渡っている。
わざわざ抜いてきたとは鬼畜な野郎だ、と薄笑みを湛えるも、溢れ出る血はとどまる事を知らずに腕を伝い落ちていく。
鋭利な痛みが身体を苛み、今や文字通りの劣勢へと立たされている。
素人が振るう刃なら乱戦の最中だろうが容易に避けられたが、目の前の男は違う。
すんでのところで躱してこの状態なのだから、避けきれなかった場合はいよいよ腕が使い物にならなくなっていたに違いない。
予定外に痛手を負い、鮮血を滴らせる無様な姿に、暗鬱とした感情が腹の底から顔を覗かせる。
「こんな真似していいわけ……? それとも、俺に会いたがってるって奴は、生死は問わない?」
「なるべく生きているほうがいいだろうな。だが、多少の傷くらいは大目に見てくれるだろう」
「へえ……、そっか。ますます言いなりになる気持ちが失せた」
「そんな気持ちがあるようには見えなかったが、気のせいか。今ならまだ間に合うぞ。こうべを垂れれば許してやる」
「そういうのが趣味なわけ? 気色悪ィな」
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