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Zwei

性質は違えど、双方ともに黒を基調としている艶やかな雰囲気を湛え、これまでに出会ったことのないような類いであると感じる。 銀髪の青年に負けず劣らず端正な顔立ちをしており、上着と薄手のシャツは色合いは異なるも黒く染め上げられ、同系色のジーンズがすらりとした長い足を引き立たせている。 系統は分かれるも、二人ともかっちりとした装いをしており、それぞれに危うげな魅力を滲ませながら各々にすっかりと馴染んでいる。 黒髪の青年が傍らを通り過ぎ、結局のところ一言も交わさぬまま靴音だけが響いており、暫くの間は何も考えられずに立ち尽くす。 鮮烈な印象を与えられ、彼等は一体何者であるかを考えようとしても、全てに確証を得られず分かるはずもない。 けれども此処に居たということは、鳴瀬と何らかの関わりを持っているという何よりの証拠であり、初めて見る顔ぶれにわき上がる疑問は尽きない。 初対面でいきなりお前らは誰だと問い質すのも気が引けるが、ハッと我に返ってからいてもたってもいられず方向転換し、鳴瀬の顔も見ぬまま来た道を足早に戻っていく。 解決へと繋がる糸口を握っているとは限らない、それでも見知らぬ人間である以上はきっと何か自分には無い情報を持っているに違いないと思い、目立って仕方がないであろう彼等の姿を探して視線をさ迷わせる。 鳴瀬とは随分と毛色の違う人物であり、両者とも独特の空気感を持ち合わせており、ますます彼等との接点が気になっていく。 居れば一目で気が付くであろう姿を捜し歩き、焦りにも似た気持ちであちらこちらを見渡すも、目当ての人物に出会えないまま出入口が近付いてくる。 もっと早くに行動を起こしていればと後悔しても、こうなってしまっては最早自分の力ではどうすることも出来ず、小さな溜め息が唇から漏れ出ていく。 また会えるかもしれないし、もう二度と会えないかもしれない。 有力な手掛かりを取り逃がしたような感覚に陥りながら、険しい顔付きでそのまま外気に触れようと歩を進め、夜の帳が下りた世界に足を踏み出す。 先程よりも冷えた風が身を過ぎ行き、肌寒さを感じながら外壁に背を預けると、脳裏に焼き付けるように一人一人の顔を思い出し、鳴瀬との関連性を考えずにはいられない。 一番に有り得そうな可能性としては、鳴瀬のチームに属している者という回答だが、勝手な想像であるだけに相当当てずっぽうな考え方だ。 若しくは群れとの関係はない友人という線もあるけれど、思考を巡らせたところで埒が明かないことは分かりきっている。 暫しの時を腕組みし、瞳を閉じて物思いに耽るも、やがて何かを思い付いたかのように携帯電話を取り出し、指を滑らせながら目当ての人物を選び出す。 そうしてから耳に当て、何度目かの呼び出し音を経て聞き慣れた声に鼓膜をくすぐられ、此方も唇を開いて言葉を紡ぎ出す。 「よォ、悪いな突然。今いいか?」 『もちろんですよ。どうしましたか、真宮さん』 通話の相手はナキツであり、心地好い低音が丁寧に言葉を並べ、先を促すように間が空けられる。 どのような言葉から告げるべきかと考え、伏し目がちに頭の中を整理していきながら、ゆっくりと唇を開いていく。 「ああ、実はな……。今、鳴瀬のところに来てるんだけどよ……、見ねえツラがいてな。ナキツ、お前銀髪の男に心当たりはないか?」 『銀髪の男……、ですか』 「ああ。若しくは……、首に墨入れてる黒髪の男……、だな」 一人で考えていても迷宮から出られそうになく、一度整理する為にも情報共有を兼ねて報告し、相手からの言葉を待ちながら沈黙する。 涼やかな風が通り過ぎる度に、(はじ)色の髪がさらりと揺れて肌を掠める。 自動車が行き交う音を遠くに聞きながら、時おりぼんやりと彼方で淡い光を放っている街灯へと視線を向ける。 『どちらにも心当たりがないですね……。すみません、お役に立てなくて……』 「お前が謝る必要なんかねえよ。俺も初めて見る顔だった……。アイツら、一体なにもんなんだろうな」 『こちらでも色々と探ってみます。何か知っている人が見つかるかもしれませんし……』 「ああ、そうだな。他の奴等にも言っておいてくれ」 『分かりました。真宮さん……』 「ん? なんだ」 『くれぐれも……、気を付けて下さいね』 「お前もいちいち心配性だな」 『真宮さんだからこそですよ』 「へいへい、分かったよ。お前もな……」 相変わらず心配性なナキツから、お決まりとも言える言葉を紡がれながら、有り難く頂戴して優しげな笑みを浮かべる。 それと同時に、やはりあそこで彼等を取り逃がしたのは痛かったと改めて実感し、不甲斐ない自分に苛立ちを募らせる。 縁があればまた会えるかもしれないが、それは現時点ではなんとも言えないことであるし確証がない。 通話を終え、静かに携帯電話を穿いていたジーンズの物入れへと忍ばせ、考え込むように顔を俯かせてから暫しの後、再び出入口を通って鳴瀬の病室へと向かっていく。 速足で突き進み、静寂を知らない思考を振り払いつつ、鳴瀬の顔を一目見ようと歩を進める。 次は必ず捉えてみせると胸に誓い、また会えるとも限らないけれど再会はあると言い聞かせながら、すでに通い慣れた廊下を迷わず歩き続ける。 邂逅から廻り出す歯車が、決して安寧への未来を紡いでいく保証はないと覚悟をしていながらも、今は全ての事象に追いすがっているしかないのだ。 生まれいずるは破滅か興隆(こうりゅう)か、今はまだ誰もその先の物語を知らない。 ぐっと拳を握り締め、自然と険しい顔付きになってしまうも、そんなことを気にしてもいられない。 病室への道のりを妙に遠く感じながら、気が急いている自分を落ち着かせようとするも、なかなか上手くはいってくれない。 気持ちばかりが焦りを募らせ、物事を思い通りに運ばせられないでいる。 彼はまだ眠りの世界をさ迷っているのだろうか、開け放して出てきていたことを今更になって思い出し、急に不安感が覆い被さってくる。 段々と先を急いで足の運びが速さを増し、鳴瀬の姿を求めて目当ての部屋を目指す。

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