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Zwei

「そんなの決まってるッス! そこにナキッちゃんがいるから~!」 嬉しそうな笑みを浮かべ、背面からギュッと抱き付いたまま一向に離れず、愉快でたまらないとばかりに声を上げると、溜め息を漏らすナキツの反応を嬉々とした様子で窺っている。 ナキツといえば、一連の流れを未だに呑み込めないではいるものの、十中八九有仁が発端であろうことは容易に想像出来ているので、どうしたものかと困った表情を浮かべながら視線を下げ、密着している青年を見つめている。 二人は本当に仲が良く、と言ってしまえばナキツあたりが否定するかもしれないけれど、なんだかんだで息の合ったコンビである彼等は、日頃からよく行動を共にしていては色々な話をしているようであった。 主に有仁がナキツを振り回しているようではあるが、見た目から性格まで全く異なる青年たちの戯れを眺めていると、いつだって自然と笑みが溢れていた。 「おい、もうその辺にしとけ。ナキツが困ってんだろ」 一騒動もいつの間にか収束し、甘えている有仁を宥めているナキツを見つめながら、やれやれといった様子ではあるものの愛情が込められている笑みを湛え、一区切りつけさせようと声を掛ける。 同時に此方を見つめ、有仁は満面の笑みですんなりとナキツから離れ、一目散に目の前へと駆け込んでくる。 人であることは当たり前なのだが、段々と耳やら尻尾やら生えていてもおかしくはない上に、あらぬ幻覚が今にも見えてしまいそうな気がしてきて、改めて犬のような奴だなと感じる。 まとわりついてきた有仁を小突きつつ、視線を向けるとようやく平穏を取り戻せたナキツと目が合い、微笑を湛えて軽く頭を下げられる。 それに笑みを浮かべて応え、賑やかで温かな雰囲気に包まれている室内は、ゆったりとした時間を刻んでいた。 「じゃ、今度こそ帰るッスわ。あんま真宮さんに迷惑掛けんなよ~?」 「裏切り者とは口聞かないッス!」 「ハハハッ! 拗ねてやんの、可愛い~!」 「うっせ! 早く帰れ!」 「はいはいっと。んじゃ、またな~!」 相も変わらずなやり取りを見届け、とどまっていた面子が再び足を踏み出すと、別れの挨拶を告げてから有仁へと軽口を叩き、ころころと変わる表情に一同が笑い声を上げる。 そうして今回は歩みを止めず、引き戸の側で立っていたナキツに手を振りながら病室を去ると、すぐにも姿は見えなくなっていた。 「よォ、ナキツ。タイミング悪かったな」 「そうですね……。有仁には困ったものです」 「え、なに俺のせい!? ホントはまんざらでもないくせに~!」 「そんなわけないだろ。まったく……、お前の相手は疲れるよ」 人数が減ったこともあり、一気に静けさを増していた室内にて佇みながら、すでに疲労感で一杯のナキツに改めて挨拶をすると、綺麗な顔立ちをした青年から一身に視線を注がれる。 一方の有仁は、此方とナキツを交互に見てから不満そうに声を上げて拗ねるも、言動とは裏腹に全く堪えていない様子であり、結局のところはにっこりと笑って受け流すのであった。 「鳴瀬……、騒がしくして悪かったな。調子はどうだ?」 有仁の頭を力任せに撫で、帽子がずれたことにより視界を遮られてあたふたしている間に、鳴瀬の傍らへと移動して声を掛ける。 何も聞こえず、何も見えておらず、何が行われているのか知りもしない鳴瀬は、相変わらず深い眠りの世界にて拘留されている。 丸椅子に腰を下ろし、いつになったら言葉を交わせるのであろうと思いながら、傷だらけの鳴瀬の顔をじっと見つめる。 視界を取り戻した有仁が、部屋の隅から丸椅子を持ってきて隣に置くと、静かに腰を下ろして同じように視線を向ける。 ナキツも暫くは立ったまま鳴瀬を見つめ、やがて同様の椅子を持ち寄って有仁の傍らへと身を置くと、携えていた袋の中に手を入れる。 「りんごでも食べませんか? 美味しそうだったので、此処に来る途中買ってきたんです」 「食う食う! 俺りんご大好き!!」 取り出されたのは色付いた林檎であり、途端に有仁が目をキラキラと輝かせて釘付けになり、今にもかぶりつきそうな勢いでナキツの手元を見ている。 「へえ、いいな」 備えつけの引き出しを開け、鞘に収められた果物ナイフを取り出して渡す。 此処を訪れていた誰かも同じように果物でも食べていたのか、いつの頃からか置かれていることを知っており、ナキツもどうやらそれを当てにして林檎を持ってきたようであった。 「ありがとうございます。すぐに剥くので、少し待っていて下さいね」 ナイフを受け取り、刀身を引き抜くと片手で林檎を持ち、するすると器用に皮を剥き始める。 隣では有仁が感心したように手を叩き、おおと歓声を上げている。 さらりと艶やかな茶褐色の髪が揺れ、上品な顔立ちをしている青年は自然と絵になり、器用に手先を動かしながら皮がどんどんとぐろを巻いていく。 「鳴瀬さ~ん、起きるなら今ッスよー! 今ならりんごありまーす!」 内緒話でもするように両手で口元を覆い、鳴瀬を眠りの世界から釣り上げようと有仁が囁き、まさかの林檎だけで目を覚まさせようと画策している。 もちろん冗談で言っているのは分かっていたが、もしもそれで目を覚ましたら面白くて仕方がないだろうなと思い浮かべ、有仁に視線を向けて笑みを湛える。 ナキツもくすりと笑いを溢し、手元から視線を逸らさぬまま滞りなく皮を剥いていき、瑞々しい果実が着実にベールを脱いでいく。

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