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Zwei
「ホントに銀髪ッスね~! しかも超綺麗なお兄さんじゃないすか~!」
一気に場が賑やかになり、二人が現れてくれたことに少し安堵しつつ、元気に駆け込んでくる有仁を目で追う。
漸も近付いてくる有仁を見つめており、整った顔立ちに笑みを湛えている。
「真宮さん、ココにいたんすねー! 全然戻って来ないから探しに来たんス!」
「そうだったのか。そんなに時間経ってたか?」
「結構経ってるッスよ! まさか件 のお兄さんと一緒にいたとは驚きッス!」
駆け足で正面に移動してきた有仁が、漸と此方を交互に見つめながら捲し立て、身振り手振りを交えている。
歩いてきたナキツも追い付いて、話している有仁の隣で立ち止まり、やはり交互に見つめて何事かを考えているようであった。
「此処で偶然会ったんだ。な?」
促すように漸を見ると、彼は静かに微笑みながら頷いてみせる。
「君のお友達かな……?」
「ああ。有仁とナキツだ」
「そう。初めまして、僕は漸。よろしくね」
有仁とナキツを交互に見つめ、ふんわりとした雰囲気を纏 いながら自らの名を明かし、にこりと微笑みかける。
ナキツも漸を見つめながら微笑を湛え、軽く頭を下げて応える。
有仁も満面の笑みで目を合わせると、ヨロシクッス! と元気に挨拶を返していた。
「もしかして、鳴瀬の見舞いに来たのか……?」
「うん、そうなんだ。彼の病室に向かう途中で、君のことを見掛けてね。気になっていたから、また会えて嬉しかったよ」
「そうか……」
どうやら鳴瀬の病室に向かう途中で、偶然にも椅子に腰掛けて休憩している姿を見掛けたらしく、此処に立ち寄っていたようであった。
それにしても、出会っていきなり額に口付けをしてきたり、あまりにもストレートに気になっていると伝えてきたり、一体この男は何を思ってそういった言動に出ているのかがさっぱり分からない。
なんと反応していいのか迷い、表情を隠すように珈琲を飲んで目を逸らし、物腰は柔らかいが結構強引な男のような気もしてくる。
「漸さんは、鳴瀬さんとどういう関係なんスか? まさかヴェルフェの人間だったり……?」
腰に手を当て、かねてから気になっていた事柄を単刀直入に問い掛け、漸へと視線が集中する。
有仁とナキツが現れたことにより、すっかり振り回されていた思考は落ち着きを取り戻し、すべらかな銀髪の青年に意識を向ける。
「ヴェルフェ……。ああ、鳴瀬のチームのことだね。話にはよく聞いていたけど、残念ながら僕はそこの人間ではないよ。鳴瀬とは、友人なんだ」
足を組み、膝に手を添えている漸の表情が僅かに曇ると、鳴瀬の姿を思い浮かべるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
見ず知らずの者の言葉を簡単に鵜呑みにするわけにもいかないが、どうやら鳴瀬のチームとは関係がないようであり、友人であることを告げられる。
痛々しい鳴瀬の姿を思い出しているのか、憂いを帯びた瞳は何処か一点を見つめており、そんな漸の様子を捉えていた一帯が静寂に包まれていく。
「時おり顔を合わせて話をするような……。何の変哲もない、いい友人。そんな彼と……、久しぶりに会う約束をしていたんだ」
漸の話に耳を傾け、徐々に明るみになっていく鳴瀬との間柄を知り、一様に黙ったまま続きを待つ。
鳴瀬の性格を思えば、交友関係が広いのも当然のことであるし、多くの人物に慕われ、愛されていても何ら不思議なことではない。
自分達の知らない友人がいてもおかしくはないし、こうして鳴瀬の現状を知った上で駆け付けてくれていることを嬉しく思い、きっと同じ気持ちを抱えているのであろうと感じる。
「結論から言うと、鳴瀬は約束の場所に来なかった。なんの連絡も無いなんて、彼に限って有り得ないよね? その上連絡も取れないし、家にもいない。あの時は心配したよ……」
「そうだったんですか……。でも、よく此処に鳴瀬さんが居ると分かりましたね」
「ああ……、ヒズルのお陰だよ」
「ヒズル……?」
聞き慣れない名前を耳にして、疑問を浮かべながら漸の顔を見つめていると、彼は引き続き丁寧に詳細を明かしていく。
「君は会ったことがあるよね。ほら、あの時……」
「あ……、アイツか。黒髪で、首に刺青の……」
「そう、彼がヒズル。鳴瀬を通じて知り合ったんだ。彼のお陰で、鳴瀬を見つけることが出来た……。そういえば」
そこで一旦言葉を切り、何かを思い出したように顎に手を当てて思案している漸を見て、一体どうしたのだろうかと思いながら継がれる言葉を待つ。
「ヒズルは……、鳴瀬と同じチームに入っている。ヴェルフェの人間だよ。だから……、手詰まりだった鳴瀬の行方も知ることが出来た」
「え、それマジッスか! ヒズルって奴が鳴瀬さんのチームにいるんスね!」
「ああ……。でも彼も、鳴瀬がどうしてあんな目に遭ったのかまでは、知らないようだったけど……」
八方塞がりの現状を打破出来るかもしれない、蜘蛛の糸のようにか細い一筋の活路ではあるが、ようやく見つけることが出来た。
咄嗟に見上げると、有仁とナキツも真剣な眼差しで此方を見つめており、言葉を交わさずとも頷くだけで、互いの意思を通わせる。
ヒズルの居所を突き止めることが出来れば、事態はより大きな動きを見せる。
漸には事情を知らないと言っていたようではあるが、本当に何も把握していないとは限らないし、何らかの情報は握っているはずなのだ。
「俺達ちょっと急用思い出しちゃったんで、先に帰るッスー! 真宮さん、また後で! 漸さん、またね!」
「俺もこれで失礼します。またお会いしましょう」
あまりにもあからさま過ぎて何かを疑われそうな勢いではあるが、お構い無しに有仁が挨拶もそこそこに慌ただしくこの場を立ち去っていく。
ナキツも丁寧な言葉遣いではあるが、有仁と同じように気が急いている様子で立ち去り、駆けていった後を追い始める。
突然のことに漸は驚いた表情を見せ、一体どうしたのだろうかと不思議そうに二人を見送ると、少し困ったように此方を見つめて微笑む。
さてこの場をどう取り繕えばいいのやらと、一緒に立ち去れば良かったかと思っても後の祭で、静寂に取り残されて思考を巡らせる。
「行ってしまったね。突然どうしたのかな……?」
「さあな……。一気に静かになっちまった」
「そうだね。君の友人なだけあって、太陽みたいにキラキラしていて、明るい子たちだね」
「そうか……? 騒がしいだけだろ」
なんだかまた気恥ずかしいことを言われるも、構わない振りをしてちらりと漸を見てから、すっかり冷めてしまった珈琲を飲む。
「お前は……、鳴瀬が何でこんな事になったと思う」
「さあ……、分からないな。でも……、あんな惨い仕打ちを受けなければいけないようなこと、彼は絶対にしていないよ。それは君にだってよく分かっているよね。あまりにも、酷い……」
「ああ……、そうだよな」
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