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Zwei

先程と同じように額に手を当て、段階を上げて今度は嫌いだと申してみれば、それでも漸は微笑を絶やさずに言葉を返してくる。 全く懲りていない様子であり、不服ながらも延々と手の平の上で転がされており、どうしたら大人しくしてくれるのだろうかと目眩がしてくる思いだ。 唇からは自然と深い溜め息が漏れ、相変わらず頬は染められて見せられず、情けなくて仕方がないが最早成す術も見当たらない。 「君は……、誰が鳴瀬を追い詰めたのかを探しているのかな……?」 顔を俯かせ、肌へと触れる柔らかな髪の質感を感じながら、気を取り直そうと暫し目を瞑る。 額に手を添えたまま、ひとまずは落ち着こうと群がる雑念を払い除けるも、そんなにも簡単に冷静さを取り戻せるのなら最初から苦労などしていなかった。 相変わらず悶々と抱え込み、院内の喧騒を遠くに聞きながら口を閉ざしていると、傍らから柔らかな声を掛けられて目蓋を開く。 顔を上げて視線を向けると、変わらぬ微笑を湛えている漸と目が合い、紡がれた言葉を心中で反芻してみる。 「……ああ」 暫し間を空けて、掛けられた言葉から現実を思い出し、複雑な感情を滲ませながら返事をする。 つい今しがたまで頬を赤らめ、調子を狂わされていたやり取りが嘘であったかのように、鳴瀬の名を紡がれたことで急速に心が冷えていく。 「成果の程は……?」 穏やかに問われ、視線を交わらせてから静かに首を振り、上体を起こして背凭れへと身を預ける。 漸から視線を逸らし、正面を向いてあてもなく様相を視界に収め、微かな溜め息と共に言葉を選び取っていく。 「今のところは上手くいってねえな……。良くも悪くも鳴瀬のチーム……ヴェルフェが、何かしら知ってるはずだと思って探してるんだけどよ……。なかなか尻尾を掴ませてくれねえんだよな。ヴェルフェの奴らとは、今までろくに絡んだこともなかったからな。今更ツケが回ってる」 未だに紙コップを握り締めていたことに気が付き、言葉を紡ぎながらゆっくり立ち上がると、自動販売機の脇に備えられているごみ箱へと近付いていく。 すでに原型をとどめず、すっかり潰れてしまっていた紙コップを手に、プラスチックケースのゴミ入れへと投げ捨てる。 振り返れば漸に見つめられており、気遣うような視線を向けられていて照れ臭く、困ったように笑んでしまう。 窓から外を眺めてみれば、陽光降り注ぐ世界が広がっており、何処までも目映いばかりの活気で充ち溢れていた。 「それでも君は……、尻尾を掴んで姿をも捉えるまで、決して諦めないんだろうね」 「当然だ。地の果てまで追い掛けてやるよ」 「頼もしいな。君に目を付けられたら大変そう」 「悪さしてなきゃ何にもしねえよ」 「それもそうか、安心したよ。ねえ……、そんなにも鳴瀬を傷付けた犯人を追い求めるのはどうして……?」 先程まで居た場所へと戻って傍らに腰掛けると、背凭れに身を預けながら正面を眺め、紡がれた言葉を聞いて視線を向ける。 「どうしてって……、お前は気にならねえのか? 大事なダチがあんな目に遭っちまって……。許せねえだろ」 どうしてと聞かれ、戸惑いの表情を浮かべつつも言葉を選び、努めて平静を装いながら回答をする。 何故そのようなことを聞くのだろうと思うも、珍しく漸のほうから視線を逸らされてしまい、横顔から心情を読み取るのは困難であった。 「もちろん、気になるよ。誰が何を思って鳴瀬をあんな目に遭わせたのか……。紐解けるものなら今すぐにでも……、全てが知りたいと思う」 「それならなんで……」 あのようなことを紡いだのかと、わき上がる疑問を消化出来ないでいる中、白銀の髪を持つ美しい青年へと視線を注ぐ。 いつしか笑みは失われ、何処か遠くを見つめるように視線を向けており、憂いを帯びた表情で傍らに腰掛けている。 美貌の青年は押し黙り、此方もなんとなく言葉を続けられないまま途切れさせ、気まずいような居たたまれない沈黙に晒される。 鳴瀬がどうしてあんなにも痛め付けられ、未だ眠りに就いていなければいけないのか、それを知りたいと感じるのは自然なことであるし、友人であれば尚のこと事情を明るみにしたいと思う。 どのような理由であれ、これは許されない。 だからこそ力が入り、難航を極めている捜索ではあるけれども諦めず、手を引く選択肢など微塵もない。 それは同じ立場である漸も同様であろうし、彼も行方知れずの鳴瀬を見付ける為に手を尽くし、現在の再会に至っている。 やってきたことは違っても、大切な友人である鳴瀬を想う気持ちは同じであり、どうしてこのような凶行に陥れられたのかを暴き、なんとかしてやりたいと懸命に考えている。 それなのに何故、犯人を追い求めることを咎であるかのように、漸から紡がれた言葉を受け取ってしまったのであろう。 否定的とも思える台詞、闇に紛れて蠢いている真相を暴くことを良しとしていないような、そんな消極的な心情が見え隠れしているかに思えて困惑した表情を浮かべてしまう。

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