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異形
「これで何件目だ……」
眼前にて広がる光景を、苦々しく思いながら眉根を寄せ、傷だらけで倒れ伏している青年達を見つめていた。
衣服は汚れ、一様に痛々しく血に塗 れており、容赦なく叩きのめされたであろうことが見て取れる。
舞台は高架下、淡く煌めく月光に抱かれながら、全てを覆い尽くす闇夜が辺りを包み込んでいる。
「分かっている限りでは、今日だけで5件目ッスね……」
凄惨な現場を目の当たりにしていた仲間から、暗鬱とした空気に呑まれているのか声を潜めながら、先の呟きに対する回答が寄せられる。
このような惨たらしい出来事が、たった一日で何件も確認されており、把握していないだけでまだあちらこちらに転がされていそうだと感じる。
明滅する街灯の下、見せ付けるかのように惨い仕打ちを強いられたであろう者共が、束の間の眠りを得て静かに横たわっている。
一体誰に暴行を加えられ、何を意図してこのようなところで晒されているのか、未だ分からないことが多すぎて頭を悩ませている。
けれども共通しているのは、狙われているのが決まってディアルに属していない人間であり、鳴瀬の件に絡んでヴェルフェを探していた者ばかりであった。
「ナキツ~!」
閉鎖的で薄暗い空間にて、一連の騒動にはやはりヴェルフェが一枚噛んでいるのだろうかと思案し、複雑な表情で手負いの青年達を見下ろす。
そこへ、駆けてくる複数の足音が聞こえてきたかと思えば、聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返る。
「有仁……」
「よっ、ナキツ! お疲れ! そっちはどうよ!」
現れたのは有仁であり、二人の仲間を引き連れて手を振り、僅かに息を切らしている。
トレードマークの帽子を被り、膝丈のショートパンツを穿いており、チーム随一のムードメーカーである彼は、今宵も人懐こい笑みを浮かべて元気に登場していた。
「うわ~……、こっちも派手にやられてるっすねえ」
挨拶もそこそこに、意識を失って倒れている青年達に気が付くと、有仁がそろそろと近付いて身を屈める。
どうしていいか分からない様子であり、手を出してみるも触れられずに宙をさ迷い、完膚なきまでに痛め付けられている青年達を眺めている。
周囲の壁面には、随分と前に施されたのであろうペイントが各所に見られ、薄明かりの中でぼんやりと浮かび上がっている。
冷たいアスファルトの上で身を横たえさせ、まじまじと状態を確認していた有仁は眉根を寄せ、彼も現状を思い苦心している様子であった。
「これってさ……、やっぱヴェルフェの仕業かな」
「断言するにはまだ早い。でも……、恐らくな」
「やっぱ? う~ん……、にしても俺らを避けてるように思えるのは偶然すかねえ」
「どうだろうな……。偶然のような気もするし、初めから狙いを定めているような気もしてくる」
「わっかんねえな~! とりあえず、コイツらどうにかしてやんないと。いつまでもこんなところにいたら、また狙われるかもしれないし」
有仁もヴェルフェの関与を疑い、今となっては誰もが何らかの関わりがあるものとして考え、じわじわと確信に変わりつつある。
何故主軸となって動いているディアルを避け、周りの協力者を捻り潰しているのだろうか。
まだそうと決まったわけではないが、もしかしたら孤立させようと目論んでいる気さえしてきて、未だ実態を掴めないでいる現実に背筋が薄ら寒くなっていく。
「うっ……」
何かとんでもない一件に足を踏み入れたのではないかという、漠然とした不安感に覆われそうになる。
暫し立ち尽くし、物思いに耽りながらぼんやりと一点を見つめ、押し寄せる焦燥感を懸命に振り払おうとする。
そんな折、下ろしていた視線の先からくぐもった声が聞こえ、ハッと現状に引き戻されて息を呑む。
眼下で倒れていた青年に動きがあり、混濁していながらも意識が戻っているようで呻いており、微かに身動いでいる。
「おっ! だいじょぶスか!? しっかり!」
有仁が咄嗟に肩を擦り、苦しげに喘いでいる青年へと声を掛け、現世に呼び戻そうと躍起になっている。
当の青年は焦点が定まらず、暫くは宙を眺めながら低く呻いており、痛々しい姿を晒し続けている。
「うっ……、お、まえは……」
「俺はディアルの有仁ッス! 一体なにがあったんすか!? 誰にやられたんすか!?」
「ディ、アル……? うっ、アアァッやめろ近付くなァッ……! お前がいたら……また、またやられる……! もう勘弁してくれ! 俺は何もしてない知らないアンタらにはもう関わらない! 離れろ! 離れろオッ!!」
徐々に落ち着いてきたかと思えば、目前で片膝を付いて寄り添っていた有仁がディアルの者と知るや否や、途端に狂おしいほど暴れ出して手を振り払い、明らかに怯えている。
これだけの怪我をしながら、一体何処に暴れるだけの力が残っているのだろうかと思うも、なけなしの体力を振り絞ってでも逃れたい相手ということなのだろうか。
痛みすらも忘れ、圧倒的な恐怖を植え付けられている青年は身体を丸め、半狂乱になって周囲を拒んでいる。
頭を抱えて震え、有仁を拒絶している青年を見下ろしながら、内心でまただと呟く。
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