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異形
「いつまで彼を欺 くつもりだ……。よくも悪びれもせずに顔を見せられたものだな」
「いつか言ってやるさ。お前から告げてくれてもいいが」
「お前はっ……、あんなことをしておいてなんとも思わないのか? それでいて鳴瀬さんの顔を見に行ったのは何故だ! 優越感にでも浸るつもりか……!」
「勘違いしているようだから言っておくが、何も鳴瀬の顔を見る為にわざわざ出向いたわけではない」
「それなら何故……!」
「あそこに居れば……、お前たちのヘッドは必ず現れるだろう」
「なっ……、真宮さんに会う為だとでも……?」
あれだけの事をしていても、表面上からは欠片も読み取れなかったとしても、多少は情のようなものがあると信じたかったが、その想いは木っ端微塵に打ち砕かれる。
わざわざ自ら出向いたのは鳴瀬の様子を窺うわけでもなければそもそも眼中にもなく、初めから真宮が訪れると確信していた上で彼を待っていただけなのだ。
この男は危ない、この男が属している群れ共々どす黒い闇に包まれて気を抜けば呑み込まれる。
何故今になって、それこそ唐突とも言えるタイミングで真宮に着目し、顔を確認するべく病院へと出向いたのか。
「何を企んでる……」
「別に何も企んでなどいない。事態は至ってシンプルだ」
「ふざけるなっ……。あの人に何かしてみろ……、その時はお前をっ……」
「どうするつもりだ。殺すか? 俺を」
尊ぶべき存在の危機に殺気立てば、ヒズルは何処となく楽しんでいるようにも見え、淡々としていながらも会話は途切れることなく進んでいく。
「今すぐアイツに何かしようというわけではない。俺は大して、真宮に興味はないからな」
「そんな言葉を信じると思うのか……」
「信じる信じないはお前の自由だ。好きにしろ」
「はぐらかすな、ちゃんと答えろ! 一体何を企んでいる……」
「だから言っているだろう。俺は……、真宮がどうなろうと興味はないと」
真宮が絡むだけで容易に冷静さを失い、語気荒くヒズルを攻め立てれば彼はわざとらしく間を空けながら、意味深な台詞を告げてくる。
「他に……、あの人を気にしている奴がいると……?」
「いたくご執心のようだからな。今頃お前達のヘッドを捜していることだろう。それで、アイツはどうしている。一人にさせていていいのか? もう遅いかもしれないがな」
「お前……!」
「ナキツッ……! 落ち着けって!」
確証のない言葉であると頭の片隅では理解していながら、カッとなった勢いのままヒズルに向かおうとしていたところを、有仁が手を取って止めに入る。
「アイツの言ってることを真に受けるな! お前らしくねえって! いつものクールなナキツは何処行ったよ! 真宮さんは大丈夫だから! なっ? 少し落ち着こうぜ……」
「有仁……」
「ほらほら! 眉間にシワ寄ってるって! ンな顔するのは真宮さんだけで十分! リラックス、リラックス!」
「そうは言っても……」
「ナキっちゃんてば、真宮さんのことになるとす~ぐカリカリするんだから! 止めに入る俺の身にもなってほしいッスよね~!」
「悪い……」
「な~に! いいってことよー! おい! そこのヴェルフェマン! あんまり真宮さんを舐めないで欲しいッスね!」
すかさず有仁が間に入ってくれたことにより、暴走しかけていた気持ちが少しずつ落ち着きを取り戻していき、簡単にヒズルのペースに巻き込まれてしまった自分を恥じる。
芯が強く、澄んだ瞳に真っ向から見つめられ、上り詰めていた怒りが急激におさまっていき、有仁に大丈夫だと言われただけで気分が安らいでくるのが不思議であった。
心の底から謝罪を述べれば、有仁はにっこりと微笑みながら冗談めかして言葉を並べ、太陽のように燦々 と照らし出して暖かく包み込んでくる。
そして有仁はヒズルへと視線を向け、彼らしさを存分に発揮しながら堂々たる様子で対峙する。
「大した自信だな。アイツはそんなに強いのか」
「強いなんてもんじゃないッスよ! もう、けだものッスよ! ていうか野獣!?」
「有仁……。それはもう、何ていうかただの悪口だろ……」
「はっは~! まあ、つまり! お前らの好きに出来ると思ったら大間違いってことッスよ!!」
「お前たちの好きにはさせない」
フォローのしようがない言葉に思わずつっこんでしまいつつ、有仁はテレテレと帽子を擦りながら有り余る元気を惜しみ無く発揮している。
「う~ん。まあでもいくら鬼のように強く……、性格も鬼のような真宮さんといえども心配だから、ちゃっちゃと合流したほうがいいよな!?」
「お前が言ったこと、真宮さんには包み隠さず報告するからな」
「やだなあ、もう! 冗談に決まってるじゃないすか、ナキっちゃ~ん! 真宮さんてばマジ神!!」
「言うからな」
「超反省してます、ごめんマジで言わないで後生だから!!」
場の空気ががらりと変わり、端から見れば実にくだらないやり取りをしてしまいつつ、ヒズルと話している時間など無いという答えに行き着く。
ちょっとやそっとでは真宮が窮地に陥るようなことはないと分かっているが、万が一の可能性を否定することは出来ない。
伝えたいこともある、無事を確認して安心もしたい。
何よりも純粋に、側に居たい。
いつまでも此処に居るべきではないと考え、敵対勢力とも言えるヴェルフェの一員であるヒズルと視線を交わらせながら、どう立ち回るかを算段していく。
相手の実力は未知数だが、何よりもまずは真宮の元に辿り着くことが先決である為、切り抜けるには容易い状況であると考える。
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