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邂逅※

「うっ……、はぁっ、あっ……、や、めっ……」 「本当に……? こんなにグチュグチュ言わせてるのにやめてほしいの……?」 「あっ、あ、んっ……、くっ」 「やめてほしいなんて、ホントは思ってないんだろ……? だって気持ちいいもんなァ? そろそろ認めろよ、苦しくて仕方ないだろ? なァ、真宮……。そうしたら今すぐ楽にしてあげる」 「はぁ、はっ、あっ……、う、るせぇっ……、お、れは、テメェ、なんかっ……、あっ」 「まだそんな口聞けるんだ。お前も大概強情だな。自分のこといじめるのが大好きなんだなァ、真宮ちゃんは……」 「あっ、ん……、くっ」 顔を背ければ、敷布へと殴られた傷が擦れて痛むも、いちいち気にしている余裕なんてとうにない。 懸命に唇を閉ざしても、自身へと施されている愛撫によりこじ開けられ、もっともっととねだるような甘い声が制止を振り切って零されていく。 より一層の熱を孕み、切ない吐息を洩らしている唇からは、喘がされ続けて飲み込む隙すら与えてもらえない唾液が伝い落ち、敷布へと艶かしく染みを作っている。 頭で幾ら拒んでも、すでに身体は堕落しきってひくついており、過敏に反応を示しては嬉しそうに咽び泣いている。 今すぐ逃れたくて両の腕を動かしても言うことを聞かず、戒めによりギリギリと締め付けられるだけで何にも変えられず、痛々しい痕ばかりを手首に刻み付けて嘲笑っている。 「あっ、は、うっ……、やめ……、やめ、ろ……」 「なんで……? 嫌がっている割には、さっきよりもよだれ垂らして悦んでるように見えるけど……?」 「ん……、ちがうっ……、あ、やめっ、は、あぁっ……」 「さては……、無理矢理犯されている自分に興奮してるとか……? だから思ってもいないのにやめろなんて言って、ココこんなにしてるんだろ。やらしいヘッド様……」 「あ、あぁっ、ちがうっ……、お、れはっ……、うっ……」 「何が違うんだよ。気持ちいいんだろ? イッちゃいそうなんだろ……? 鳴瀬を傷付けた憎い相手にいかされそうになってんだよ、お前」 「はぁ、はっ……、て、めぇっ……」 「馬鹿だな……、お前。どうしようもなく付け入りやすくて……、浅はかで……、可愛い奴」 どのような表情を浮かべているのか確かめる術もなく、好き勝手に言われて我慢ならないのに言い返すことも出来ず、自身への愛撫を深められて解き放ちたい欲求に駆られ、いやだいやだと頭を振る。 すでに欲深い蜜はたっぷりと溢れて漸の指をけがし、尚もとどまることを知らずに吐き出されては、いやらしく伝い落ちて浅ましく快楽を貪っている。 こんな男にいいようにされて、果ては今にも達せられそうなところまで追い込まれ、尚も勝手を許して息を荒くしている。 こんなことをしている場合ではないのに、この男を今すぐ叩きのめしてやらなければいけないのに、この状況はなんだ、自分は一体なにをしているのかと気が遠くなりそうで、絶対に受け入れられない苦しみから未だに逃れることを許されず、執拗に追い詰められて肉体も精神までも徐々に蝕まれていく。 「こんなこと誰にも言えないね……、真宮。二人だけの秘密」 「あ、はあっ、は、なせっ……、あ、やめっ……、あ、あぁっ」 「そろそろ限界だろ……? 一層後戻り出来なくなれよ。ほら……、いけよ」 背筋をぞくぞくとおぞけにも似た感覚が駆け巡り、恐ろしく優しいけれど、冷たさを孕んだ声音で語り掛けられながら、より一層戻れない淵へと立たされて今にも突き落とされてしまいそうだ。 やめろ、離せと力無く繰り返したところで実を結ばず、込み上げる衝動を騙そうとしても限界があり、少しでも気を許せば今にも快感に押し流されて欲望を撒き散らしてしまいそうで、苦しくて辛くて無駄な抵抗であると思い知らされていても大人しく身を委ねるなんて死ぬほどに嫌で、喘ぎながらも弱々しく拒絶を繰り返す。 爪を立ててぐりぐりと抉られ、痛みよりも快楽が増すばかりであり、だらしなく開かれた唇からは隠しきれない媚びた声が後を絶たない。 ちがう、自分はちがう、こんなことに快楽を感じているなんて嘘だ、やめろとどれだけ胸の内で叫んでも、しとどに溢れ出る白濁が容赦無く現実を、知りたくもなかった己の一面を突き付けてくる。 「気持ち良くいけたら、もっといいことしてあげるよ……? 真宮」 「あっ、ん……、はぁっ、あ、も……、やめ、あ」 「真宮……」 「あ、うっ……、よぶなっ……、あっ」 漸の手から逃れようと身動いでも、易々と阻まれて激しさを増していく愛撫に、息も絶え絶えに最早紡いでいるだけの拒絶を発し、最後の砦がゆっくりとこじ開けられようとしている。 きっと解き放たれたら気持ちが良いという淫らな欲望が、そのような展開を望んでいないはずなのに頭の片隅で囁き始め、黙らせようと叱咤しても止められず、堰を切って勢い良く押し寄せてくる波を防ぐことなんて出来るはずもなかった。 「はぁ、あっ、ん……、や、めっ、あ、あぁっ、んんっ……!」 怒涛のように込み上げてくる衝動を抑えきれず、執拗に弄られて熟れきった自身からは解き放たれた白濁が勢い良く飛び出していき、腹部をいやらしくけがして彩っている。 ビュルビュルと欲望が撒き散らされ、抗い難い快感に敗北して力を失うも、感じ入る声がしっかりと唇からは溢れ出ている。 「あっ……、はあ、ん……」 「いっぱい出たね……。溜まってたんだ……?」 「はぁっ……、あっ」 満足そうに掛けられる声を何処か遠くに聞き、暫くは何も考えられずに色気を孕む吐息を繰り返し、力無く身を横たえていることしか出来なかった。 今だけは視界を奪われている状況は好都合であり、盛大に散らされているであろう欲深い証を目にしなくて済んでおり、それがせめてもの救いであった。 漸とも視線を合わせずに済み、いつまでも現況に甘んじているわけにはいかないと思ってはいても、今は何も双眸に映し込みたくはなく、また見られたくもなかった。 我慢し続けた分、一気に解き放たれたことで反動も大きく、ぐったりとしながら喧嘩をしている時よりも遥かに多くの体力を浚われてしまい、身体が重くて仕方がない。 勢いこそ衰えても暫くは溢れ出る蜜を止められず、自身からは延々と欲望に塗れた白濁が生み出され続け、辺りへと零されてけがしていく。 何もかもが、嫌になってきた。

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