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邂逅※
何も考えられないまま、暫くはぼんやりと天井を見つめ、荒く繰り返される呼吸を耳にする。
視界に収めているようでいて、茫然自失の状態では何ものも映り込んではおらず、涙で濡れている視線をただただ向けているのみである。
汗ばむ身体は上気し、熱に浮かされてふわふわとした心地に包まれており、まるで自分ではないような、何処か他人事のようにも思えてきてしまう。
「まだ終わりじゃない」
しかし、形の良い唇から紡ぎ出されるたった一言で現実へと引き戻され、悪夢にはまだ続きがあるのだと否が応にも思い知らされてしまい、嫌な予感にサッと血の気が引いていく。
「まだ俺……、イッてないから」
柔らかにそう告げられて、思えばまだ漸が内部で息づいており、未だ繋がり合うそこからは然程も熱が失われてはいない。
達したばかりではより一層過敏に反応してしまい、僅かに動きがあるだけでも声を抑えられず、その上で自身へと指を這わされてはいよいよ自制心が崩壊していってしまう。
「う、あァッ……! や、めっ……、も、で、きなっ……あっ!」
「そんな可愛いこと言うなよ。もっといじめてやりたくなるだろ……?」
「あ、あぁっ……! さわっ、な……っ、う、んんっ……!」
「何度でもイケばいい。時間はたっぷりあるんだからな……? そうやって何度も何度も繰り返せば……、そのうちお前から欲しがるようになるよ。真宮……」
「あ、うっ……、や……、い、やだっ……。お、れはっ……、おれはっ……、あ、あァッ」
「お前がどんな顔してチームの奴等と一緒にいるのか……、そのうち会いに行ってやるよ。どんな風に騙してるのか、俺が見てあげる」
例え許しを請おうとも行為から逃れられるはずもなく、白濁を垂らしてヒクついている自身へと容赦の無い愛撫を施され、先をぐりぐりと指で弄られてたまらず手を出すも容易く阻まれてしまい、再び奥へ奥へと熱が押し進められていくことに気付いて何もかもがおかしくなりそうであった。
いやだ、いやだと幾度となく繰り返していても、達したばかりだというのに弄られて悦びに充ち溢れている自身からは、尚も欲深い蜜がだらしなく垂れ流されてはこれがお前の本性なのだと突き付けてくる。
制止に構わずぐじゅぐじゅと扱かれ、奥へと打ち付けられる度に拒絶の言葉が脳内から排除されていき、やめろ、やめろと嘆き苦しむ声が常しえの闇に堕ちていく。
それと同時に、耳を傾けてはいけない声が何処からか聞こえてきたような気がして、たまらず顔を背けて頭を振る。
もう、見たくない。
聞きたくない、知りたくない、知られたくない。
もう、やめてくれっ……。
これ以上……、これ以上、されたらっ……、お、れはっ……、もう、自分をっ……。
「なっ……、で、こんなっ……、こ、とっ……、あっ、あっ、はぁっ」
「なに……? 理由が欲しいの? なんて言ってあげたら喜ぶの?」
「うっ、あ、はぁっ……、ち、がっ……、ん、んんっ!」
「そんな言葉はもういらない。なあ、気持ちいいだろ……? 真宮。今は他になんにもいらない。ほら……、簡単だろ?」
「あっ……、はっ、はぁっ、んんっ……!」
すでに何度か欲を吐き出しているというのに、快楽に敏感なそれからはまたもドクドクと涎が滴り始め、触れられる刺激にびくりと身を震わせながらもしっかりと感じ入っている。
とうに言葉になどならず、なんにも考えさせてもらえぬまま一層激しく攻め立てられ、砂糖菓子のように甘く蕩けるまじないが最後の追い込みとばかりに脳裏へと刷り込まれていく。
散々に紡ぎ出されたやめろという言葉も、ちがう、はなせというありとあらゆる拒絶を表す台詞を封じ込められ、後に残されるのは先ほど掠めていったあまりにも魅惑的で取り返しのつかない感情、ただそれだけであった。
「あっ……、う」
やめろっ……、言うな、黙れ……!
「真宮……」
唐突に静寂が襲い掛かり、つい先程まで狂おしいくらい攻められていたことが嘘のように動きが止まり、中途半端な状態で投げ出されて瞬時に戸惑いを感じてしまう。
そんなことを、感じる必要などないはずなのに。
まだ足りないとばかりに身体は熱を欲しており、快楽を中へと注がれたくて疼き高ぶり、いやらしい行いを好んで待ち望んでいる。
望んでいる……?
うそだ……、いやだ、ちがうっ……、おれは……、おれは、そんなこと……。
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