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蠢くもの〈第二部〉

「いた。アイツらだ」 視線の先には、三人の男が立っている。 賑やかなゲームセンターの一角にて、立ち並ぶUFOキャッチャーの前へと陣取りながら、気取られないよう細心の注意を払いつつ顔を覗かせる。 まさか見られているとは夢にも思わない連中は、上機嫌にカーレースゲームへと興じようとしており、下品な笑い声が嫌でも耳に入ってくる。 「どうしよう……、灰我(はいが)くん」 間に一人が立って見守り、二人が腰掛けてハンドルを握っている様子を忌々しげに睨み付けていると、傍らから声を掛けられて視線を向ける。 「どうするも何も、決まってんだろ! やっつけるんだよ!」 見るからに気弱そうな少年におずおずと言葉を紡がれ、重い空気を振り払うようにハキハキと切り返す。 「おい、灰我。ホントにやるのか……?」 「あったりまえだろ。なんだよ、今更怖じ気付いたのか?」 「いや、そういうわけじゃないけどさ……。ただ、いざ本人達を目の前にすると、ちょっと緊張してくるっていうか……」 気弱そうな少年以外にも三名が固唾を呑んで見守り、私服姿ではあるものの一様にあどけなさが残っていることから、彼らはまだ年端もいかない学生であろう。 「大丈夫だって! 絶対に上手くいくから! 俺のこと信じてよ!」 標的の動向を探りつつ、いまいち不安を拭いきれないでいる面々へと努めて明るく振る舞うと、絶対に上手くいくから信じろと自信満々に声を聞かせる。 視線を交わらせ、改めて決心するかのように全員で頷き合うと、再びUFOキャッチャーを盾にしながら彼らの様子を窺うことにする。 あらゆる音色で溢れ、平日の夜にもかかわらず多くの人が束の間の安寧に浸っており、様々なゲーム機を前にして誰もが楽しそうに過ごしている。 本来であれば、そのうちの一人としてガンアクションゲームでもしながらはしゃぎたいところではあるが、そうは出来ない事情があった。 景品には目もくれず、周囲に怪しまれないようあからさまな行動は控えつつ、大声で騒ぎながらカーレースへと洒落込んでいる面々を視界に収め続ける。 派手な髪の色と装いをし、明らかに自分達よりも年上で背も高く、見るからに不良と呼ばれる存在であろうことが窺える。 観戦している一人を挟み、二人はハンドルを右へ左へ回しながら順位を競い合っており、憎らしいほどに今この時この瞬間を謳歌している。 くっそ、アイツら……! のんきに遊びやがって! 胸の内で悪態をつきながら、腹立たしいことこの上ない彼らの言動に注目し、時おり周りにも意識を向けてその場へととどまり続ける。 そうしているうちにゲームを終えたらしい三人組は、暫くは其処へと留まって愉快でたまらないとばかりに談笑し、やがて何かに気が付いた様子で一斉に視線を向けると、ニヤニヤと揃いも揃って下卑た笑みを浮かべながら足を踏み出していく。 「ねえねえ、キミ達さァ~。ちょっと金貸してくんない?」 ざわめきなど耳に入らないほど集中し、息を潜めながら彼らの動向を目で追っていると、両替機の前で数名の少年が財布を取り出しているところであり、三人組は薄気味悪い笑みを湛えながら取り囲むようにして近付いていく。 か弱い少年達に比べれば遥かに大きく、がっしりとした体型をしている青年達に退路を絶たれ、慣れた手付きで人目につかない場所へと哀れな贄が誘導されている。 「キミたちはさァ、マガツっていうチーム知ってるかなあ? 俺らさァ、そこのメンバーなんだよね」 「もちろん、聞いたことくらいはあるよな? この辺じゃ、俺らとまともに張り合えるチームなんかないぜ」 「そんなマガツのメンバーに会えるなんて、君らラッキーだよね。本物だぜ? 握手してやろうか」 暗がりへと連れ込まれ、さも仲良く遊んでいますとでも言いたげにゲーム機の側で陣取り、無垢な少年達を見下ろしながら三者は饒舌に言葉を紡いでいる。 どうやらマガツというチームに属しているようであり、その名を聞くや否やサッと顔色を変え、少年達は声も出せずにこくこくと怯えた様子で頷いている。 自分達を前にして恐怖を滲ませている姿を見て、三人組はこれ以上ないくらいに満足そうな笑みを浮かべており、優越感に浸りながら少年達と相対している。 どれくらい強いかは定かでないが、紡がれている台詞が真実であるならば、他にも大小様々なチームが存在しているのであろう中でもかなりの実力を有しているのだろうか。 けれどもまず、どのようなチームがどれだけ蔓延(はびこ)っているのかすらよく分かっていない者にとっては、いまいちピンとこない話であった。 「でさァ、さっきも言ったけど。俺らお金無くて困ってんのね。だからさ……、金貸してくんない? 有り金全部」 「マガツに恩を売るなんて箔が付くぜ?」 「断る理由なんかねえよな? 俺達あのマガツだぜ?」 どのだよ! と内心でツッコミを入れつつ、今は行く末を見守るしかない状況に歯噛みしながら、やがて少年達が暗い面持ちで財布を差し出す現場を目の当たりにする。 気持ちとしては、今すぐやめろと割って入りたい。 しかし想うだけではどうにもならず、強くなれるわけもなく、ここで後先考えず突撃するにはあまりにも分が悪い。 「サンキュー。マジ助かる」 「お、結構入ってんじゃん」 「いい心がけだな。これからも仲良くしようぜ」 躊躇いもなく財布を奪い取り、無遠慮に中を物色してお目当ての紙幣を問答無用で抜き取ると、思っていたよりも金を持っていたことにいたく満足している。 ニヤニヤと終始薄気味悪い笑みを貼り付け、単なる入れ物と化した財布をもう用は無いとばかりに投げ付けると、何事も無かったかのように少年達へと背を向けて歩き去っていく。 尻の物入れから自分の財布を取り出し、すでにどれほどの金を奪っているのであろうか不明な中へと、新たな紙幣を当たり前のように捩じ込む。 相変わらず下品な笑い声を響かせながら財布をしまい、マガツというチームに所属しているだけで何がそんなにも偉いのか、彼らは尊大な態度で自信満々に歩を進めており、進路の邪魔になる客は容赦無く蹴散らしている。 「アイツらっ……」 金銭を毟り取られた少年達は、悔しそうな表情を浮かべてはいるものの取り返しに行くほどの勇気はなく、呆然と立ち尽くしたまま空しい時を過ごしているしかない。 僅かすらも罪の意識は芽生えず、思うがままに悪行の限りを繰り返している三人衆は、鼻歌混じりに我が物顔で店内を闊歩していくと、やがて出入口へと近付いていく。 どうやら場所を変えるつもりでいるらしく、遊ぶ金を手に入れて上機嫌な三人組はゆったりと歩いていき、次なる獲物を探し求めながらゲームセンターを後にしていく。

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