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蠢くもの
「ん……? なんだろ、あそこ」
周囲の灯と、月明かりによって煌々と照らし出されている場所が目に留まり、なんとなく気になって近付き、足下の石などを注意深く見つめてみる。
「これってもしかして……、血じゃないよな……」
赤黒く何かが付着しているような気がしてならない石がいくつも転がっており、あの時はこんなの無かったよなと自問自答しながら覗き込み、やっぱり血なの? 血なの? ともう、気が気でない。
「誰かココで喧嘩してる……。なんだよ、やめろよっ……」
こんなところで大乱闘したの誰だよと思いつつ、お願いだからそいつらが今ココに来ませんようにと祈りながら佇み、やがて荒々しく囲いが開かれたのであろう音が辺りへと響き渡る。
「こんな所に逃げ込むなんてバカじゃねえの~?」
「お前もう逃げられねえぞ」
「焦って逃げ込むにしても、もうちょっと他にあったっしょ~」
薄暗い闇の向こうから、一様に下卑た笑みを浮かべているのであろう者共が、さてどうやって遊んでやろうかと揺るぎない優位を振りかざしている。
焦ってココへと飛び込み、判断を誤って窮地へと陥り、孤立無援であると信じて疑わないようだ。
一体何処まで頭が悪いのだろう、こんな奴等に借りがあるなんて一生の不覚である。
「じゃあ、とっとと奪い返せば? 単細胞くん」
彼等からははっきりと見えるだろうが、こちらからは闇に紛れてよく見えず、それでもマスクの下で精一杯の笑みを湛えながら言葉を紡ぐ。
ザッ、とゆっくり歩みを進めている音が聞こえ、バレてはいけないからと辿り着いてからも一切いるかどうか確かめないようにしていた為に、仲間達が無事に来てくれているのかも分からない。
もうこうなったら神頼みでもなんでもして、皆が配置についていることを願うしかない。
「調子に乗ってんじゃねえぞコラァッ!」
「テメエぶっ殺してやる!!」
「死ねやコラァッ!!」
唸るような怒号と共に、ダッと地を蹴り駆け出した者達が見え、緊張がピークに達する。
其処を越えられたら、助けは未だ辿り着いていないことを意味し、そうしたらどうしよう終わりだと血の気が引くも信じるしか道がない。
「うおっ!」
「いって、なんなんだよ!」
すると、今にも足場を潜り抜けようとしていた彼等が急に体勢を崩し、無様に地へと転んでしまう。
視界が悪いのもあるが、目前の少年しか眼中になかった彼等には前しか見えず、其処を越える直前でピンと張られた縄の存在に気付くはずもなく、仲良くお互いを巻き込んでくず折れてしまう。
「よしっ!!」
それを機にメンバーが揃っていることを確認し、良かったと内心安堵しながらガッツポーズをし、畳み掛けるように鉄パイプを手にして駆け込んでいく。
三人組はすぐさま起き上がろうとするも、唐突に辺りから一斉に叩かれ始めては思うように動けず、わけも分からないまま悲鳴を上げている。
それぞれに隠れていた友人達も鉄パイプを手にし、反撃されてはたまらないと必死に三人衆へとぶつけており、すぐに辿り着いた灰我も加わって救いようのない悪をこらしめていく。
「やめっ、やめろ! いてえっ!」
制止の声になど耳を貸さず、不良なんて存在そのものが悪であり不要であり、こんな奴等がいて喜ぶ者など誰もいない、消えてほしいと世間は思っているとそう感じている。
不良なんて、チームなんて、どれだけの数がいようとも皆同じであり、どうせこの者達と同じように恐喝傷害喧嘩に暴走、ありとあらゆる犯罪行為に手を染めて今も何処かで誰かを不幸にしているに違いない。
「イテェッ! もう勘弁してくれっ、うぐっ!」
「俺らが何したって言うんだよ!」
「ぐっ……! テメエらゼッテェ殺してやる!」
今まで自分達がしてきたことを棚に上げて、堂々と耳を疑うような台詞を紡げてしまうあたりが、馬鹿で愚かで救いようのない社会のゴミだと思わずにいられない。
お前達のような人間さえいなければ、世の中もっと平和で笑顔が絶えず、大勢の人が幸せに暮らしていける。
お前達さえいなければ、お前達みたいな暴れることしか脳のない不良などという存在さえいなければ。
「はぁっ、はぁっ……」
「倒したか……?」
「まさか死んだりしてないよね……?」
「これくらいで死ぬわけないだろ」
神々しき月のもと、無我夢中で鉄パイプを振りかざして叩き、叩き、何度も繰り返していくうちに三人衆からは言葉が途切れていき、やがて気を失ってうんともすんとも言わなくなる。
それを見て自然と手が止まり、恐る恐る覗き込みながら息をしていることを確認し、やがてカランと音を立てて鉄パイプが地へと転がっていく。
「や、やった……。倒した……」
「うん……。僕達でも、できた……」
息を切らしつつも、彼等を倒せたという事実にまだ半信半疑ながらも喜びが滲み、アッサリと戦いに勝利することが出来て若干拍子抜けしている。
見た目から醸し出されるイメージに騙されていただけで、不良なんてみんな群れているだけで弱いのではないのかと思えてくる。
一人では力がないから徒党を組み、自分達を強く見せているだけで、実際はこんな年端のいかない少年達にいいように叩きのめされている。
確かゲームセンターで聞いていた話だと、マガツとまともに張り合えるチームなどないと言っていた。
その最強であろうチームのメンバーが今、ゴミとして地べたで身を横たえさせている。
「なんだ……、簡単じゃん。不良なんて大したことないんだ……。コイツらみんな弱いじゃん」
これで強いというのなら、他のチームだって大したことない。
まだ整わぬ呼吸を繰り返し、怖かったけれどもすんなりと事が運んで満足し、おまけに驚くくらい弱い不良を前にしてうっすらと笑みを浮かべると、こんな奴等に少しでも怯えた自分が恥ずかしくなってくる。
それと同時に、もっと遊びたいという無邪気で残酷な欲求が、胸の内から顔を覗かせてくる。
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