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蠢くもの

「ねえねえ、皆。今日で終わりなんて、もったいないと思わない?」 「ん? どうしたんだよ、灰我」 「不良はアイツらだけじゃないんだぜ? もっともっといっぱいいるし、今も何処かで誰かが金取られたりしてるかもしれない」 「ん、そうだな。マガツっていうチームがあるくらいだし、まだまだ不良は沢山いるよな」 「だからさ、俺達で少しずつこらしめていくんだよ! アイツらみんな大したことないし、今日みたいに慎重にいけば絶対大丈夫だ!」 瞳を輝かせ、何かとても楽しい遊びを思い付いたと言わんばかりに面々を順に見つめ、これからも続けていこうよと提案する。 「そんなに何度も上手くいくかな……。すっごく強い奴がもしかしたらいるかもしれないし……」 「もう、考え過ぎだよ! アイツら見たろ! 全然大したことないって! みんな同じ! 俺達が不良を退治することで、ゲームセンターの奴等みたいな目に遭う人を減らせるんだぜ! そりゃもう起こったことには何も出来ないけど……、俺達が動くことで少しでも変えられるはず!」 「うん……、悲しい思いをする人を減らせるかな」 「うん、絶対に! だからさ、もっともっと不良を退治してこうぜ!」 初めは乗り気ではなかった少年も、灰我の言葉を聞いて少しずつ心変わりしていき、これ以上の被害を多少なりとも防ぐ力になれるのならと賛同する。 いらないものを世の中から捨て去ろうとしているだけであり、そこには罪悪感など微塵も存在してはいない。 だってこれは、正しい行いなのだから。 「アイツらの真似するわけじゃないけど、なんか名前決めない?」 「名前か~。いいなあ、何にする?」 「う~ん……、なんだろう」 不良とは違う、チームとは違う、自分達は正義の名の下に活動していくのであって、これから相手にする奴等は悪そのものであり、踏みつけられるだけの存在なのだ。 真面目に学校に通っているし、塾にも行って勉強しているし、未来には膨大な選択肢と希望で満ち溢れている。 それに比べて非行に走っている奴等はどうだ、自らが無能で何の努力もしようとしない堕落な人間であることを棚に上げて威張り、暴力で黙らせることしか出来ない哀れで実際は何の力も持っていない無価値な存在である。 そんな奴等がどれだけ倒れていこうとも、感謝されるだけで自分達を責める者なんて誰もいないだろう。 ゴミが片付けばそれだけ街が綺麗になり、人々の心もより一層晴れやかになっていく。 「今は5人しかいないけど、皆で呼び掛けてもっと人数増やしていこうよ!」 「お、それいいね。多ければ多いほど心強いしな」 「そしたら有名になっちゃうかも?」 きっと不良を潰してやりたいと思っている人は他にもいるだろうし、実は大したことがないと知れば労せず加わってくれるだろうし、良いストレス発散場所にもなるに違いない。 名前を考えながら友人達の会話を聞き、確かにそのうち有名になって不良チームたちに一目置かれる存在になってしまうかもしれないなあと想像して、それはそれで面白いかもと思う。 名前だけが知れ渡っていき、メンバーの正体を知る者は誰もいないだなんて、なんだか最高にかっこいいなとわくわくしてくる。 「あ! 思い付いた!」 「え、なになに? 教えて」 どんな名前がいいかなあと考えていたらふっと降りてきて、パァッと更に表情を明るくしながら楽しそうに声を出すと、皆が一斉に目を輝かせて食い付いてくる。 今までのどんなことよりも楽しくて、充実していて、適度なスリルを味わえる遊びに誰もが夢中になっている。 「(むくろ)って、どう!?」 「うんうん、いいかも~!」 「お~! いいけど、なんでそれ?」 仲間達に伝えると好感触で、これからの活動に期待しながら楽しそうに賛成するも、どうしてその名前にしたのかと素朴な疑問を投げ掛けられる。 「え~? だってさ」 タッと二、三歩先へと躍り出て振り返り、夜の世界にはおよそ不釣り合いなあどけなさを湛えている少年は、ご機嫌な様子で声を出しながらニコッと無邪気な笑みを見せる。 「なんかかっこいいじゃん!」 つられて全員が楽しそうに微笑んで、記念すべき夜が更けていく。 新たな群れが産声を上げていることを誰にも悟らせぬまま、無邪気であるが故に留まることを知らない残酷さを孕んで、辺りには子供らしい屈託のない笑い声が響いていく。 その表情は明るく、足取りは軽やかであり、先ほどまで鉄パイプを振りかざして袋叩きにしていたようにはとても見えなかった。

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