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vibrant
暫くはエンジュと戦っていたようなのだが、不意に金髪の青年が何者からか呼び出しを喰らって戦線離脱せざるを得なくなり、有仁を残して名残惜しそうにしながらもその場を後にしていったらしい。
有仁にとっては、思わぬ幸運に恵まれて体力の消耗を防げたようだが、邪魔が入らなければエンジュはきっと決着がつくまで続けていたに違いない。
バトルが楽しくて仕方がないという言葉を聞いて、敵であるにもかかわらずついつい好感を持ってしまい、いつか顔を合わせた時には喧嘩してみてえなあと思ってしまう。
そのような考えをすぐにも見透かされ、向かいでは有仁が呆れた表情を浮かべながらもケーキをつついており、そういえばなんとなくゴーグル野郎と雰囲気似てるかもなんて呟いている。
「も~っ! 喧嘩大好きにも程があるッスよ! そんなんだから生傷絶えなくてナキっちゃんがハラハラドキドキしちゃうんすよ! ほらほら! ナキツからも何か言ってやってよ! あんまり心配させんなってさあ!」
次なるケーキへと狙いを定め、ぱくりと食べながらなんだか責められており、ナキツも同じ意見だろう何か言ってやれとばかりに息巻いている。
委ねられたナキツは口を閉ざし、なんとなく傍らへ視線を送ってみると青年からも目を向けられたので、何も言わずにフッと微笑んでみせる。
品の良い顔立ちをした綺麗な青年は、少し照れたように頬を染めて視線を逸らしてしまい、ごまかすようにティーカップを手に取って紅茶を飲んでいる。
「確かに、真宮さんのことはいつでも心配ですけど……。でも、真宮さんが楽しめるなら……、喧嘩が好きでもそれでいいかな……」
「お~い、ナキっちゃん!? 真宮さんの笑顔に瞬殺されてんじゃねえよ! 自分大事にしろって言ったばっかだろ~! 騙されてるから! うっとりしてないで戻ってきて~!!」
「ナキツもこの通り、喧嘩していいってよ」
「言ってないッスよ、断じて~! なに最高の笑顔見せてんすか! 喧嘩にうきうきし過ぎでしょ!」
ビシィッ! と指を差されるも何処吹く風で、とにかく先日のヴェルフェとの一件でディアルが崩れることがなかった状況に安堵し、負傷者はいるけれども誰の心もへし折られなくて本当に良かったと思っている。
だからこそこうして、暢気な会話を交えつつ笑い合うことが出来、次なる時の為に態勢を立て直すことも可能にしている。
苦境に立たされていた鳴瀬の身体もだいぶ良くなっており、まだ入院を余儀無くされてはいるものの元気に退屈だとぼやいていて、ちょくちょく顔を見に病院へと出向いている。
それでもなんとなくヴェルフェについて壁を作っている為かチームに触れるような話題は互いに振らず、毎度他愛ないことで笑い合う時を過ごしている。
きっと鳴瀬なりに何かを感じ取って、話を振らないようにしているだけかもしれないが。
「あ、そういえばもう知ってるッスか?」
想いを巡らせてぼんやりとし、相変わらずケーキを美味しそうに食べている有仁を視界に収めていると、何事か思い出したらしく突如として顔を上げてくる。
次いで話されてもなんのことだかさっぱり分からず、ナキツと視線を通わせて揃って首を傾げていた。
「最近、骸っていうチームが何処からかいきなり現れたらしくて、方々を荒らし回ってるみたいなんスよね~」
「骸……? へェ、初めて聞く名前だな。お前知ってたか?」
「いえ……、初耳ですね。相変わらず情報が早いな、有仁は」
「へへっ、任せろ~! んでんで、何やらランダムにあっちこっちのチームの奴を襲ってるようなんすよね~」
考えるように視線を逸らし、もぐもぐとケーキを食べる行いはやめずに話を続け、頭の中で整理しながら骸についての情報を開示してくれている。
大小様々なチームが点在しているが、骸という名は今までに聞いたことがなく、以前から存在している群れでは確実にないだろう。
突如として現れ、チームに属している者を叩いて回っているようなのだが、一体何処から生み出された者共なのであろう。
あちらこちらを片っ端から襲っているようだが、もしかしたら全てのチームを巡るつもりでいるのだろうか。
「……うちの奴等は?」
「まだ誰も襲われてないッス!」
「つうことは……」
「そろそろ来そうな予感大ッス!!」
「……俺のところに来ねえかな」
「ちょっ、どんだけ襲われたいんすか」
聞けばまだディアルは無傷そのものであり、得体の知れない骸の脅威には今のところ晒されていない。
だがいずれやって来るであろうことは明白であり、誰を目当てに姿を現すかは分からない。
それならばいくらでも相手になってやるから狙われないだろうかとつい思ってしまえば、案の定有仁からは呆れるような声が上がり、そんな中でもケーキは引き続き順調に減らされている。
「ヴェルフェにも行ってねえんだよな……?」
「そのようッスね!」
「どちらを先に狙ってくるかによっては、今後の展開が大きく変わりそうですね。俺達にとっても、……恐らく骸にとっても」
骸がどれほどのチームであるかは不明だが、ヴェルフェに手を出せばまず確実に無事では済まされず、平然と未だに活動を続けてはいられないと考える。
そうするとやはりまだヴェルフェにも危害を加えていないと読むのが正しく、だがディアル同様にすでに狙いを定めて後は行動に移すのみなのかもしれない。
ヴェルフェとディアル、どちらを先に攻めるかによって骸の命運も恐らくナキツが言う通り大きく変わってくるであろう。
骸は強いのかもしれない、方々を荒らし回っているくらいなのだから、きっと自信を持って暗躍しているに違いない。
だがしかしヴェルフェは、強さと共にあらゆる負の印象を纏うような群れであり、一度でも手を出せば獲物を見付けたとばかりに牙を剥いて襲いかかる。
別に正体不明のチームを心配してやる義理はないのだが、ヴェルフェにだけは先を越されたくない為に、どの道どちらかに潰される運命を背負う集団であるならば、この手で潔く終わらせてやりたいところではある。
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