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vibrant

「まあ、元々大したチームじゃなかったッスけど、それにしたって尋常じゃない潰され方ッスよね~」 オレンジジュースを飲みながら暢気に話し、気が付けば目の前からチョコレートケーキの存在が跡形も無く消えており、もう食ったのかよと思わず戦慄する。 まだまだケーキは色鮮やかに鎮座しており、相変わらず視線をさ迷わせながら楽しそうに選んでいて、よくもまあそんなに甘いものばかり食べられるもんだよなあとぐったりしてくる。 マガツという無名に程近いチームが潰されたところで、例え憎きヴェルフェによって手を下されていたとして何の感慨も浮かばず、あくまでも一報告として受け入れ、有仁も然程重要な案件であるとは思っていないようだ。 数え切れない程の群れが日夜大小様々に生まれては消えていく現状で、何処が潰されたなどという話は日常茶飯事であり、マガツという弱小チームが消え失せたところで本来ならば気にするような事実でもない。 そこにヴェルフェが関わっているかもしれず、そして現場があまりにも凄惨であったことから有仁によって話題に取り上げられているだけであり、マガツという下劣な集団自体には大して価値も無い。 あんな奴等と対等に見られては不愉快なだけであり、一緒にされては迷惑な話である。 「とにかく名を売りたくて必死のようでしたからね。自分達とまともに張り合えるチームはいないと触れ回っていたそうですよ」 「ハッ、何を根拠にそんなこと言ってやがったんだか。潰されちまった今では全てが(むな)しく聞こえるな」 「まあ相手にされてなかっただけあって、やっぱ大した実力もないにわかチームだったんすね~。そんなんだから善良な市民に偉そうな態度とってたとか聞くッスけど、そんなの許されないッスよ! 出来ることなら俺がこらしめてやりたかったッス!」 憤りながらもケーキからは離れず、苺のミルフィーユにしっかりとフォークを差し入れており、あまりにも不一致な言動に呆れてしまうのは致し方ないことだと思う。 その食欲は一体何処から湧いてくるのかと謎に思いながらも、少なくなってきた珈琲を飲みつつ有仁と向かい合い、暫しはマガツの話題で持ちきりになる。 つまらない愚行に手を染めているくらいなのだから、実力も大したことではないのだろうと分かりきってはいたが、本当にその通りであったのだという現実に期待外れもいいところである。 それでも群れに属さず、このような世界を知らない者からしてみればマガツと言えども脅威であり、実際方々で好き放題を繰り返して幅を利かせていたと聞く。 目の届く範囲で起こっていたならば助けられるが、流石に彼等の行動を逐一把握しているわけでもなければどのような面子を揃えていたかも分からず、これまで多くの人間が何かしらの被害に遭っていたと聞いている。 全ては助けられず、自陣に直接的な被害を及ぼさなければ自ら手を出していく理由も無く、外道の群れと分かっていながらも気に入らないからといった文句だけで早まった行動をとるわけにはいかない。 自分が何者であるか理解しているからこそ、短絡的な想いだけで仲間を巻き込み、もしかしたら窮地へと陥る可能性もあるかもしれない事態を呼び込むわけにはいかず、陥れられた者達からしてみれば残酷であってもマガツだけをわざわざこらしめる為に出向く道理は何処にも無かった。 「ケーキ超美味いッス……」 「良かったな……。お前のお陰で、俺はケーキが嫌いになりそうだ」 「なんでなんすかァッ! こんなに美味しいのに、ほらほらほらァッ! 一口だけでも食べてみたら絶対心変わりするッスよ! ほら、真宮さん! 食べて食べて!」 「おい、やめろ! 無理矢理食わそうとすんなっ! お前が食ってるの見てるだけで十分過ぎんだよ!」 「真宮さんの意地っ張り! なんで俺の言うこと聞いてくれないんすかァッ! ケーキちゃんも超寂しがってるッスよ! 真宮さんに食べてもらえなくて!」 「食わねえからな! 情に頼ろうったってそうはいかねえぞ! 食わねえ! 食わねえったら食わねえ! 絶対に食わねえ!!」 「もう! この頑固者~! そんなの許されないッス! 食べてもらうまでは絶対に此処から出さないッスからね~!」 「上等だテメエッ……、引き摺ってでも連れ出してやるからなァッ……!」 「あの……、二人とも……、落ち着いて下さい。相当目立ってますよ……」 ケーキを食べる食べないで揉めているうちについヒートアップしてしまい、周りになど目もくれず有仁とバチバチ火花を散らしていたのだが、傍らから少々恥ずかしそうに告げられた台詞を聞いてハッと我に返る。 同時に周囲の様子が一気に視界へと映り込み、あらゆる視線が注がれていることに気付いても全てが手遅れであり、ああもう此処から逃げ出したいと柄にもなく弱気になってしまう程度には恥ずかしさで死にそうになる。 有仁も照れた様子で頭を掻いているものの、それほどダメージを負っているようには見えず、寧ろ愛嬌を振り撒いて手まで振り出す始末なので図太い。 「綺麗なお姉さん達に見つめられて照れちゃうッス! ケーキ超美味しいッスね~!」 なんて近くの女性客に声を掛けながらなんだか仲良くなっており、やめろこれ以上傷を抉るなと外へ視線を向けつつ額に手を添えて溜め息を漏らす。 「今日は災難ですね。有仁に振り回されて、その上恥ずかしい思いまでしてしまって」 「今日もだ、今日も……。くそっ、俺としたことが……、有仁に乗せられて熱くなっちまった……」 なるべく顔を見られないように頬杖をつき、窓へと顔を向けながら水が入っているコップを引っ掴んでゴクゴクと飲む。 変に目立ってしまって初めこそナキツも恥ずかしそうにしていたものの、今はなんだか嬉しそうに現状を楽しんでいる様子であり、傍らからひしひしと視線を感じているものの到底振り向けないでいる。

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