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vibrant
強い口調で語り掛けられ、ぐっと押し黙りながら視線を合わせるもどうしていいか分からず、疑念を晴らす方法が見つからないでいる。
未だ根深く心を縛り付けている理由など、口が裂けても言えるわけがない。
あろうことか憎きヴェルフェのトップと関係を持ち、初めこそ無理矢理であったものの最終的には地に堕ちてしまったなんて、そんな情けない事実を明かせるはずがなければ知られたくもない。
だが、目前で視線を合わせている青年は強敵であり、些細な変化ですら見逃してはもらえない。
「ホントに……、何もねえんだ。お前が気にするようなことは何も……」
「真宮さん」
「俺のことはいいから、お前はもう少し自分に目ェ向けろ。お前は少し、自分をぞんざいに扱うところがある」
「真宮さん以上に、他に優先することなんて、何も……」
人を気に掛ける優しさも結構だけれど、もう少し自分を優先させてやれと暗に含めば、ナキツは不服そうに視線を逸らして拗ねたような態度を見せる。
もう少し気を付けなければ、もっと意識して過ごさなければ簡単に感付かれてしまい、更なる疑惑を生み出しかねない。
多少なりとも気を逸らせたことに安堵しつつ、だがここからどうしたものかと思考を巡らせていく。
疑いは完全には晴れておらず、それでも先ほどよりは冷静に頭を働かせられるようになっており、周囲のざわめきもはっきりと耳に届いている。
「それに……、一番無茶ばかりしているのは真宮さんですし、真宮さんこそもう少し自分を大事にして下さい」
「うっ……、墓穴掘った……」
「あれだけ単独での行動は控えろと言っておきながら、自分はいつだって単体で暴れまわっているじゃないですか。そんな自分にこそもう少し目を向けたらどうなんですか。大体……」
「あ~……、悪かった。俺が全部悪かったから、こんなところで説教始めんのやめてくれ……」
何やら変なスイッチを押してしまったようであり、突然のお説教が始まったかと思えばあれこれと挙げられて窮地に陥っており、あのまま漸との一件に迫られるのも困ったものだがこれはこれで胸に刺さる。
身を案じてくれるのは有難いけれど、どうにもナキツは心配をし過ぎている傾向がある。
それだけ普段の自分の行いから安心感を得られないと言われればそれまでなのだが、悪いことをしてしまっているなと罪悪感にちくりと胸が痛んだ。
「真宮さん……」
「なんだよ。今度はなんの説教だよ」
優しそうな顔して怖い奴だぜ……、と次なるお説教に警戒しながら返答すると、ナキツは相変わらず複雑な表情を浮かべて視線を注いでいる。
お前にそんな顔させてばっかりだな……、不安がらせているのは俺か……。
「いつも言っていますけど……、無理はしないで下さい。ディアルをまとめている以上、貴方だけは倒れるわけにはいかない」
「ああ……、分かってる。無茶すんのも程々にする」
「本当に分かってるんですか、真宮さん……」
「な、なんだよ。そんな怒んなよナキツ……、可愛い冗談だろ……」
こんな時に冗談なんかいらねえよとばかりに低く声を漏らされ、まずったと思いながらも次第に場の空気が和やかなものになっていく。
告げて問題ない事だけは明かしていたものの、隠している容量のほうが実際には多い。
知られたらきっと、これまで通りではいられなくなる。
そしてそれを容易に想像出来ていながらも、隠すことで何事も無かったかのように仲間と顔を合わせ続けている自分は殊更情けなく、惨めで、淀んでいる。
手放せるわけがない、この心を落ち着かせてくれる居場所から、脱け出したいなんて思えるはずもない。
いつまでも唇を閉ざし、やましいことを隠しながら仲間と向き合う卑怯な自分から目を背けつつ、今宵もチームとの一時を過ごしている。
腹にドロドロとした暗闇を飼いながらも、それを見られることは頑なに拒否したまま。
「まっみやさ~ん! ナキっちゃん!」
微妙な空気に包まれながらも払いのけられずにいると、突如として明るく元気な声が後方から聞こえてきて、振り向けば満面の笑みを浮かべている有仁が立っていた。
「おう、有仁」
「休憩中ッスか~! 見ててくれたすか、ライブライブ!」
「ちゃんと見てたし、聴いてたぜ。お前のダチなだけあって、いいセンスしてるよな」
「ふふ~ん! でしょでしょ~! 真宮さんにそう言ってもらえて、俺も嬉しいッス!」
嬉しそうに、そして楽しそうに身振り手振りを交えている有仁を見て、自然と笑みが零れていく。
そこへ、何人かの仲間が気付いて歩んできており、一気に賑やかさが増す。
先ほどまでの、ナキツとの間にもたらされていた空気はもう何処にもなく、助かったと思うべきかもしれない。
ちらりと隣へ視線を向ければ、何事も無かったかのように有仁達と会話をしているナキツが映り込み、心中では一体何を考えていることであろう。
「他の奴等は?」
「や、知らねッス。女の尻でも追っ掛けてんじゃないすかね~」
「とか言って、お前らも追っ掛けてたじゃないすか。俺、見てたッスよ~! さっきあそこで、むぐぐっ!」
告げ口しようとしている有仁がサッと面子に口封じされると、手で覆われて満足に喋ることが出来なくてジタバタしている。
そんな光景に笑い、誰もが楽しんでいる様相を眺めながらふと周囲へと意識を向け、当然のように見知らぬ顔ばかりが視界に飛び込んでくる。
そんな中で、行き交う人波の中に見付けた存在を、一度は通り過ぎてからハッとして視線を戻す。
当たり前のように楽しんでいる姿ばかりが目につく中で、その者だけは異質な空気を纏いながら佇んでおり、薄暗い場所にて煙草を咥えている。
周囲の者と比べて背が高く、黒髪で冷淡とも思える眼差しをしており、表情から内面を窺い知ることは至難の技である。
無表情に佇み、此処からではよく見えないけれども恐らく首筋には、揺らめく炎のような刻印が入れられているのであろう。
程無くして、彼は視線に気付いたのか顔を向けると、表情は変えないままおもむろに片腕を上げてみせ、淡々と手招いてみせる。
言葉は無くても、こっちへ来いと言っていることは明白であり、すぐにも乱れそうになる自分を押さえ込んで平静を装う。
其処に立っているのはヴェルフェのヒズルであり、相変わらず何を考えているのか分からない双眸が、人波に紛れながらもじっと見つめている。
やはり顔を合わせてしまうのかと苦々しく思ったところで仕方がなく、何故か今ヒズルから呼び出しを喰らっている。
こんなところでテメエと話すなんてふざけんな、とは思うも無視するのもなんだか癪であり、同時にヒズルが此処に居るということはあの男もこの箱庭の何処かに居るのかと思ってしまい、沸々と荒々しい感情が足下からずるりと這い上がってくる。
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