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vibrant

「俺が此処に居るってよく分かったね。通じ合ってるのかな……?」 「テメエとなんか死んでもゴメンだ。ヒズルに会ったんだよ。ンで、テメエに会って行けって……」 「ヒズルが……? ふ~ん、なあに企んでんだろうなァ。アイツ……」 隠す必要もないので素直に答えれば、余裕を湛えた笑みを浮かべていながらも目だけは凍り付いているかのようで、冷ややかに何処か一点を見つめて謎多きヒズルの言動に思考を巡らせている。 そこに信頼関係と呼べるものは、果たして存在しているのだろうか。 何から何まで自陣とは違うヴェルフェに、険しい表情で佇みながら銀髪の青年と相対し、自分は一体こんなところで何をしているのだろうかと思う。 あれからどれくらい時間が過ぎているのか、そろそろ戻らなければ仲間が不審に思うだろうし、こんな場面を見られたら新たな騒動に発展するとも限らない。 「それ……、まだ消えないんだ?」 早く戻らなければと考え、だが彼を相手にどうやったらすんなり離れられるのだろうかと思っていると、掛けられた言葉に気が付いてハッとし、次いで視線が手首に注がれる。 わざわざ確かめなくても彼にはお見通しのようであり、まだあの夜を引き摺っている手首を見つめて満足そうに微笑み、ゆっくりと漸が近付いてくる。 さらりと美しい銀髪を揺らし、品の良い容貌におよそ似つかわしくないピアスは、今宵も変わらず左の眉尻にかけて収まっている。 暗色のスーツを身に纏い、ゆったりとした足取りで迫ってくる姿が見えているのに、名案が浮かばなくて棒のように突っ立っていることしか出来ないでいる。 「寄るなっ……」 「なんで……? また我を見失って、恥ずかしい姿見られちゃうのが怖い……?」 「テメエッ……」 「あんなにもいやらしいヘッド様が、今夜は此処に何の御用……? まさか本当に俺に会いに来てくれたとでも言っちゃう……?」 「そんなわけねえだろ……。他に用でもなきゃテメエが出入りしてる場所になんか来ねえ」 「ヘェ……? そんなに俺が怖いのか、真宮」 「なにっ……?」 「また食べられちゃいそうで心配……? あんなに気持ち良さそうにえろい声出してたくせに」 たまらず殴り掛かれば、漸の手によって易々と阻まれてしまい、目前にて彼は薄ら笑いを浮かべている。 諦めきれずに力を込めるも、漸の実力は嫌という程に思い知っており、一度捕らわれた拳を顔面に命中させるなど不可能であった。 苦々しく睨み付け、苛立ちを隠しもせずに拳を下げようとすると、不意にその腕を取られてハッとする。 包帯が巻かれている手首を見つめ、一体何をするつもりなのかと警戒心を剥き出しにするも、彼は構わずに顔を近付けてきたかと思えば唇を触れさせてくる。 未だ戒められていた証が疼いている其処へ、包帯の上からいとおしそうに口付けをし、最後には手を舐められてぞくりとする。 「離せ! 何やってんだ、テメエ……!」 「ホントお前……、呆れるくらい詰めがあめえのな。こんなに簡単に捕まってどうするんだよ。それとも内心では、俺にヤられることを望んでるってわけ? マジでご立派なヘッド様だよなァ……、今日は誰と一緒に来たの……?」 「テメエには関係ねえっ……」 「勿体ぶらないで教えてよ。可愛い可愛い舎弟達と一緒に来たの……? この腕をどう言い訳して、どんな顔で、ディアルのヘッドなんかしてるわけ? 教えてよ、真宮……」 間合いを詰められたと察した時には全てが遅く、正面から首を捕まれて一気に力が抜けていき、やめさせようと腕を掴んでも全く埒が明かない。 いやらしく親指を滑らせ、僅かな刺激でもたまらず頬が染められていき、カァッと全身が熱くなっていく。 空いている手が顔を這い回り、逃れようとしても容易く顎を掴まれて視界一杯に彼が映り込んでくる。 「やめっ、んっ……! ふっ、はぁっ、ん、んんっ……」 止められるはずもなく、首を捕らえられたまま唇を重ねられ、易々と口内には漸の舌が侵入してくる。 弱点を突かれていては、強く出ることも叶わず好き放題に荒らされており、わざとらしく唾液が絡み合う音を発しながら蹂躙されていく。 こんなこと二度と許しはしないと思っていたのに、何故またしても自分はいいようにされて、敵対しているはずの男とけがらわしい行為に及んでいるのだろうか。 「えろい顔……。もうヘッドなんてやめて、俺のところに来れば……?」 「はぁっ、な、に言って……」 「俺なしじゃいられなくなってるだろ? あれから毎日、俺のことだけ考えてくれてた……? なァ、真宮……?」 「う、るせぇっ……、いい加減に離れろっ……」 「相変わらずつれない奴……」 やっとのことで口付けから解放され、荒く呼吸を繰り返していると突拍子もない言葉を紡がれて頭が痛くなり、ますますこの男が何を考えているのかが分からずうずもれていく。 尚も迫られ、どうしてこのような展開になってしまったのか全然分からず、こういう時どうしたら上手く逃れられるのか何も思い浮かばない。 「そういえばさ……、真宮のところにももう伝わってる?」 「何がだ……」 「骸っていう楽しそうな玩具のこと……」 不服ながらも頬を撫でられたまま、至近距離で微笑んでいる青年から紡がれた台詞は予期せぬ内容であった。 全く予想していなかっただけに少々驚くも、彼が知っていて何らおかしいこともなければ当然であり、ヴェルフェにもすでに骸の一件は伝わっているのであろう。 「お前らのところにもまだ来てねえのか」 「真宮ちゃんのところにも……?」 「ああ……」 「先にどっちへ手ェ出してくるのか楽しみだよなァ……。ヴェルフェが先なら、潰しちゃうけど問題ないよね……?」 「……マガツにしてやったみてえにか」 「マガツ……? なんだっけそれ」

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