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vibrant

「そろそろ返して頂けませんか」 調子を狂わされ、またしても漸の独壇場へと引き摺られ掛けていると、何処からともなく声が聞こえてくる。 咄嗟に振り返ると、居てはならない人物が表情を硬くして佇んでおり、一瞬何が起こっているのか状況を呑み込めなかった。 「ナキツ……」 背筋を冷たいものが流れていくようで、我に返ってようやく漸の手から逃れるも、次へと生み出されていく混乱はとどまることを知らないでいる。 このような場所で、あからさまに人目を避けて誰と会っているのかと思えば、敵対しているチームのトップと仲良く顔を突き合わせ、あろうことか手なんて握られている。 なんて言い訳をするつもりだ、飽きもせずまた言い訳をするのか。 何か言わなければいけないのに思い浮かばず、ナキツへと視線を向けたまま立ち尽くしており、あってはならない状況に直面して凍り付いている。 「これはこれは……、まさかこんなところでナキツくんにお会い出来るとは」 「奇遇ですね。こんなところで貴方にお会い出来るなんて、不愉快過ぎて吐き気がします」 言葉を紡げずに突っ立っていると、漸とナキツが勝手に会話を始めてしまい、剣呑な空気をこれでもかというほどに帯びている。 特にナキツから漸へと発されている敵意が尋常ではなく、後方から注がれている怒りの感情をひしひしと肌で感じ取る。 日頃は穏やかで、柔らかな雰囲気を身に纏っているだけに差が激しく、顔立ちの美しさも相俟って余計に迫力を増している。 何か言わなければと思っているものの、すっかり蚊帳の外に放り出されているような現況であり、割って入っていけるほどの隙間が見当たらない。 戸惑いばかりが身を焦がし、何も出来ずに固まっていることにも構わず、漸とナキツは視線を交わらせたまま一歩も譲らない。 「相変わらず綺麗だね、ナキツくん」 「気安く呼ばないで頂けますか。貴方と仲良く会話を楽しむつもりなんて毛頭ないので」 「怖いなァ……、そんなに睨まないでよ。取り付く島もねえじゃん。ちょっと話してただけだろ? そんなに怒ること……?」 「貴方なんかと一緒なのが問題なんですよ。どのツラ下げてうちのヘッドに気安く触れているんですか。油断も隙もないですね」 火花が散りそうな最中で立ち尽くし、ますます険悪な雰囲気になっていく会話を聞かされながら、二人の間に挟まれてなんとも気まずい。 一切聞く耳を持たず、漸の言葉を容赦無く切り捨てていくナキツからは、つい先ほどまでの柔らかな印象など微塵も感じられず、口調にも棘がある。 それでも漸には然して効果を発揮していないようであり、口では怖いと言いながらも始終笑みを浮かべており、相手の出方を窺っては現状を楽しんでいる。 やはり時間が経ち過ぎていたのか、他の仲間もやがて此処を嗅ぎ付けるのではないかと思うと、更なる騒動へと発展しそうで生きた心地がしない。 招いているのは自分であり、何をやっているのだと今更後悔しても遅く、すでに取り返しのつかない現実が眼前にて広がっている。 「ナキツくんに嫌われちゃったことだし、名残惜しいけどそろそろ行こうかな。またね、真宮……」 暫くナキツと視線を交わらせた後、珍しく漸が折れて大人しく引き下がり、微笑みながら別れを告げられる。 答えなど初めから求めていないのか、言い終わるや否や一歩を踏み出していき、すぐにも傍らを通り過ぎていく。 拍子抜けしてしまうくらいにアッサリと立ち去っていく後ろ姿をなんとも言えない表情で見つめ、銀髪の青年は尚も構わず歩き続けている。 ナキツから鋭い眼差しが注がれ、漸からも視線が向けられているのかは見えず、そんな二人の距離が次第に近付いていく。 「なあ、ナキツくん」 固唾を呑んで見守っていると、擦れ違い様にナキツが声を掛けられて肩に腕を回される。 何を仕掛ける気だと咄嗟に身構えると、漸はナキツへと顔を寄せて何事か話をしているようだ。 「どうして真宮は、いつまでも手首を隠しているんだと思う……?」 何を話しているのか聞こえず、困惑している視線の先では漸の手がするりと離れていく。 何事か耳打ちされたナキツは、サッと表情を変えて傍らにて佇んでいる青年を見つめており、漸がどのような顔をしているかまでは確認出来ない。 しかし一瞬ではあるが、唇には笑みが浮かべられているように思え、彼はナキツから離れると再び歩き出し、振り返りもせずに淡々とその場を後にしていく。 不服ながらも漸の後ろ姿を見送っている間に、ナキツが考え込むように、複雑な表情を湛えながら包帯へと注いだ視線には気付かず、暫くは遠ざかっていく青年の靴音だけが響いている。 「ナキツ……」 「大丈夫ですか、真宮さん」 「ああ……。その、悪い……」 「それは、何に対して謝っているんですか……?」 「……アイツと、会ってたこと……」 「初めから彼と会うつもりだったんですか?」 「違うっ……。そんなわけねえ……」 「はい。そうだったら承知しませんよ」 そう言って、いつも見慣れている柔らかな表情を浮かべ、ゆっくりと歩を進めてくる。

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