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断罪者

人波を掻き分け、周りへと気を配っている余裕もなく突き進み、いつしかクラブを飛び出していた。 凛と、澄んだ空気が火照った身体を取り巻いていき、落ち着きを無くしていた思考へと降り注ぐ。 何も考えられず、以前に何も考えたくないと拒んでいて、とうに冷静さなんて失っている。 どうしてこんな事態に陥ってしまったのか、自分でもよく分からない。 想定していた以上に複雑さを増して絡まり合い、頭を悩ませる状況へといざなわれてしまい、自分は一体これからどうしたらいいのかと途方に暮れている。 「クソッ……」 涼やかな風に身を撫でられ、クラブを離れて当てもなく歩き始めてみたものの、この足は何処へ辿り着こうとしているのだろう。 行き交う人の群れへとうずもれ、煌めく街の灯を視界に収めながら歩き、微かに呟かれた悪態が喧騒に紛れて消える。 はっきりと聞こえていたのに、ナキツの制止を無視してしまった。 今頃行方を探しているかもしれない、本当に俺は勝手なことをしてばかりだな。 傷付いた表情を浮かべ、ナキツの姿を脳裏に過らせてしまい、また手間取らせてしまったと後悔しても遅い。 元を辿れば、悪いのは自分なのだ。 「そうだ……。悪いのは、俺だ……」 全て、全てがそうだ。 俺は何の為に、再びあの男と顔を合わせた。 憎き銀髪の青年を思い浮かべ、何ものにも揺らがない鋭い双眸と、湛えられている笑みが思い起こされていく。 そうして言われた、俺が怖いのかという台詞に腸が煮えくり返る。 そんなはずはない、対して持っている感情は怒りでしかない。 それなのにどうして、面と向かって紡がれた言葉に僅かでも動揺してしまったのだろう。 「違う……。そんなはずねえ……」 俺は、怖いのか……? 漸によって、彼と対面することによってもたらされる何かに、まだ事が起こってもいないうちから怯えているのか。 すでに漸と交わされた忌まわしき夜により、選択を誤ればナキツも、有仁も、ディアルという大切な居場所ですらも自らの手で粉々に打ち砕いてしまう恐れがある。 それだけでも生きた心地がしないというのに、漸と会えば更なる災厄を植え付けられるのではないかと思い、無意識の内にヴェルフェのトップに対する恐怖へとすり替えられているのだろうか。 あの男に会わなければ、潰すことも出来なければヴェルフェを壊滅させるなんて夢のまた夢だ。 俺は何をやってる、こんなところでふらふらしてる場合じゃねえのに。 決してそんなつもりではなくても、漸やヒズル、ヴェルフェというチームから距離を置きたい心が見透かされ、どんどん築かれる罪の量が増えていく。 彼等と、特に漸と関わりたくないのは、仲間に知られたくない一夜を握られているからであり、明かされるリスクを少しでも避けたかった。 だが、事はすでに起こりかけており、今にも壊れようとヒビが入っている。 「早く……、アイツを……」 潰さなければ、何を企てようという気も起きなくなるくらい、徹底的に。 暗がりに引き摺られていく思考が、またしても漸に捕らわれて離れない現実に気付かず、居もしない相手を想って支配されている。 身体だけでは飽き足らず、思考までもを奪っていく敵対者は、今頃何をしていることであろう。 縺れて絡まる考えを整理するだけでも難題で、着手するのも嫌になりながら歩を進めていき、成すべきことをも見失いかけている。 「何処だ……、此処」 そうしている間に、何処かへと立ち入っていたらしく、足を止めて辺りを見回す。 街灯が点在し、仄かに照らされているヶ所を見つめながら、どうやら公園にでも迷い込んでいたらしいと納得する。 木々が生い茂り、緑豊かな園内は広く、夜である為に視界は良くないけれど、きっと昼間は大勢の人で賑わう場所なのであろう。 刺激を求めて危うい光を放っている街中と違い、現在はさざ波の如く静かで研ぎ澄まされた空気が漂っており、いつの間にこんなところまで来てしまっていたのだろうと思う。 またナキツの説教が……、なんて先ほどまでの事も忘れてつい過らせてしまうと、何かを察して辺りへ鋭い視線を向ける。 「……なんだ?」 目を凝らすが、このような状況ではよく見えない。 つい今しがたまで頭を悩ませ、脆さを滲ませて項垂れていた様相が嘘のように、五感を研ぎ澄ませて強き双眸を周囲へと滑らせている。 何か違和感がある。 よく見えねえが、何かいる。 息を殺して潜んでいる気配を察し、まだ確定してはいないにしても絶対に何かがいる。 此処じゃ不利だな、と思って再び歩き出し、最大限に警戒を強めて隙を作らず、灯りの多い場所へと移動を開始する。 そうして僅かに聞こえた物音に、複数であろう彼等も後を追っている気配を感じ取り、気が付いていない振りをして静かに歩いていく。 流石に正確な数までは把握出来ないが、かなり気合いを入れて狩りに来ているようであり、そこかしこで息を潜めている気配が感じ取れる。 わざわざこんな時に狙ってくれるとは、なんて有難い奴等だろう。

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