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断罪者
「いてっ! 懲りねえ奴等だなっ……」
矢のように放たれていた攻撃は止んだが、それでも時おり数ある中の一撃が当たっており、たまたま顔にぶつかってきたそれを掬い上げることに成功する。
僅かに鼓膜を震わせる程度の音と共に、何が此の身を散々なまでに狙っていたのだろうかと視線を下ろし、掌に包まれていた物を見る。
それは本当に小さく丸みを帯びて今にも転がり落ちてしまいそうであり、先ほどから降り注いでいた地味な攻撃の正体はこれかとようやく悟る。
「人をマトにして遠くから楽しみやがって……」
掌で転がっていたBB弾を強く握り込んでから、もう用は無いと地へ放る。
エアガンを所持している者が大勢居るようであり、闇に紛れてBB弾を撃ち、行く手を阻みながら反応を楽しんでいたらしい。
こんな回りくどいやり方ばっかしてねえで……、正面から来いや!
と説教の一つもしてやりたくなるが、贄の証が刻印されていた衣服を放り投げてからもしつこく、あわよくば当ててやろうという目論みが絶え間無く射出されている。
そこへ、後方から何やら足音とは違う気配を察し、少々息が上がってきている最中で振り返る。
流れるように走行している音と、うっすらと見えてきた複数の姿に目を凝らし、どうやら新たな追っ手に狙われているようだと理解する。
相変わらず顔を隠し、正々堂々という言葉を知らぬ者達が、今度はスケートボードに乗って今にも追い付こうとしている。
「ったく……、次から次へと忙しい奴等だな!」
まだまだ遊びたくて仕方がない少年達が、片足で地を蹴りながら器用に体勢を保ち、スケートボードに乗って猛然と追跡している。
狂おしいほどに車輪を回し、地を駆け抜けながら次第に距離が狭まっていき、流石に振り切るのは難しいと観念する。
先を行く灰我を追わなければ見失ってしまう。
だが、まずは執念深く追ってくる者共から戦意を削ぎ落としてやらなければ、満足に先導者を捕らえるなど出来やしない。
ゆっくりと考えている暇はない、そうしている間にも追っ手との道のりはぐんぐんと迫り、今にも此の身を捉えようとしている。
有利に事が運んでいると思われている状況で、手足を置いて頭だけが行方を眩ますなんて考えられない。
それならば今、この現状でやる事はたった一つだと勢い良く振り返り、間髪入れずに逆走して迫り来る者達へと自ら向かっていく。
当たり前に素手での勝負には踏み切れないようで、各々の手には鉄パイプが持たれており、時々鈍く光を放ちながら叩きのめす瞬間を待ちわびている。
そんな物に頼っているうちは、其の手で何を打ち倒そうとも本当の強さなんて得られない。
「そんなに遊びてえなら相手してやるよ。少しだけな……!」
まさか自ら飛び込んでくるとは思っていなかったのか、突然の場面展開に一瞬動揺の色が窺えるも、すぐにも態勢を立て直して突進してくる。
じっとしているのは性に合わないので、武器を手にしていようが関係なく駆け込んでいき、獰猛な眼差しには彼等の姿が獲物として映り込んでいる。
唇には笑みが彩られ、勢いを殺さずに荒々しく風を切っているスケートボードが、ガッと鈍く音を立てながら間近に迫る。
殆ど同時に辿り着こうとしていた少年二人が、此の身を破壊せんと鉄パイプを振り上げ、左右からぶんと叩き付けようとしてくる。
行動を先読みし、背を丸めて体勢を低くすると拳を握り、隙だらけの腹部へと思いきり一撃を捩じ込んでやる。
それだけで二人の少年は、いとも容易くバランスを失ってスケートボードから踏み外し、音を立てながら地面に叩き付けられてしまう。
同時にくぐもった悲鳴が漏れ出し、乗り手を失ったスケートボードはすぐにも行くべき道を見失い、転げて鼓動を止めていく。
取り落とした鉄パイプへとすかさず手を伸ばしていたので、危険な代物を届かないところへと放り投げてしまえば、木々の生い茂る暗闇からうめき声と共に何かに当たった音が聞こえてくる。
え? と不思議に思いながらも足を踏み出し、物音のした方向へと躊躇いもせずに近付いていけば、程無くして一人の少年が天を仰いで横たわっている現場に遭遇する。
「おいおい……、どんな運の持ち主なんだよ」
どうやら当てもなく放り投げていた鉄パイプが、物陰に潜んでいた少年その一へとクリーンヒットしていたらしく、星を散らしながら倒れ込んでいる。
手には銃のようなものが握られており、一目見てBB弾を撃ち込んでいた者の一人であると察し、この野郎と思いながらもイイ物を発見したと悪戯心が芽生えてくる。
辺りを見渡せば、当然のことながらすっかり灰我の姿は無く、一から行方を追わなければと苦虫を噛み潰すも、此処には頭の居所を知っているであろう手足が大勢いる。
ガッと、またしても聞こえてくるスケートボードの存在に顔を向け、どんな面白い玩具なのか試してみようとエアガンを拝借し、片を付けてやろうと先を見据える。
よくもまあこんなにも次から次へと思い付くものだと、様々な手段を用いて向かってくる勢いには敬意を表し、周囲への警戒を怠らずに新たな挑戦者が辿り着く時を待つ。
片手で軽快に振り回してエアガンを弄び、構える者によっては本物と見紛うほどの精巧な造りをしており、一体何処でこんなものを手に入れるのやらと溜め息を漏らす。
すっと片手を上げ、銃を構えている先では標的が懸命に向かって来ており、薄暗い中ではなかなか照準が定まらない。
だがそれがまた面白くて、容易く事が運んでしまってはつまらないと目を細め、迫り来る相手を捉えて集中する。
力まず、ただ一点のみに狙いを定め、必ずやって来るであろう好機をじっと待ちながら、息を殺して捕食者の目をぎらつかせる。
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