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断罪者
「よし……、やるか!」
わくわくとした様子で身構え、躊躇いもなく突っ込んでくる二人から目を離さず、どちらから仕掛けてくるか冷静に見極める。
駆け込んできた者の内、竹刀を手にしている男が先陣を切り、最初の相手が瞬間的に決まる。
竹刀の長さを生かし、携えて走ってきた男との距離が詰まる前に、素早く横に振って繰り出された一撃から身を屈めてやり過ごす。
長い得物の扱いに慣れているのか、すぐにも体勢を立て直して映り込んだ人物から、次なる手が此の身を狙って放たれる。
ヒュンと風を切り、器用に左右へと振り回しながら迫られ、すれすれで避けて後退する。
攻撃が途切れたところですかさず拳を繰り出せば、相手は背を丸めて避けながら竹刀を構える。
それを見て瞬時に足を狙われていると察し、飛び上がった直後にビュンと竹刀が空を切る。
着地してお返しとばかりに足払いを試みるも、軽やかに宙を舞って竹刀を構えており、素早く横へと移動して一撃を回避する。
「おもしれェ……」
ぞくぞくと、背筋を這い回っていく感覚には覚えがある。
たまらないスリルに晒されて胸が高鳴り、油断しようものなら此の身を酷く打ち砕き、無事では済まされない状況に立たされている。
それでも楽しくて仕方がない、もっともっと追い込めばいい、幾らでもこの手で切り開いてみせる。
固唾を呑んで見守られている中で、控えていたもう一方の男が動きを見せ、繰り出されてきた拳を視界に捉える。
渾身の一撃を掌で受け、同時に蹴りまで喰らわせてきたので片足を上げ、止めながら右ストレートを狙うも手で受け流される。
瞬時にお互い離れて仕切り直し、試すように連続で拳を叩き込むと、相手は的確に両手を使って防いでおり、それなりに心得がある者らしい。
だからこそ武器には頼らず素手で挑んでくるあたり、如何に己の体術に自信を持っているかが窺える。
何処までついてこられるか測るように速さを増し、防がれた後に直ぐ様顔面へと拳を叩き入れると、相手は焦りをちらつかせて腕を上げ、すんでのところで難を逃れる。
それで終わらせるつもりはなく、怯んだ相手の腹部へと放たれた膝が命中し、低く呻きながら前屈みになる。
顔を上げる瞬間を狙い、腰を捻って間髪入れずに頬へと肘をお見舞いし、とどめに一方の手が相手の顎を捉えると、下から突き上げてアッパーカットが綺麗に決まる。
言葉にならない声を洩らし、立っていられずによろめいて倒れ、一帯の空気が急速に張り詰めていくのを感じる。
戦闘不能に陥っている姿を見て、竹刀を携えながらまだ挑むつもりでいるらしく、器用に振り回して襲い掛かってくる。
負けられないという気迫に晒されて心地好く、鋭く此の身を掠める度に空気の震えを感じ、激しく求められて舌を見せて笑う。
息つく暇もなく繰り返される攻防に、周囲はただただ何も出来ずに眺めているばかりであり、すっかり呑まれて魅せられている。
執拗に突かれる一手を避けながら後退し、ゆっくりと決着をつけたい気持ちではあるのだが、そうもしていられないことは重々承知している。
まずは竹刀をどうにかしなければ話が進まないなと思い、手を考えながら攻撃を避けて後退りしていると、不意に何かを踵で踏みつけてしまい、足を滑らせて体勢を崩してしまう。
「くっ……!」
ギリギリで突きをかわし、無様に転がる展開からは回避出来ても、足元がふらついて片膝をついてしまい、眼前にはもう男の姿が迫っている。
繰り出される一撃を避けている暇はない、素手で受け止めるには代償が大きい、下手をしたらこの状況で満足に拳を振るっていられなくなる。
刹那で思考を漁って術を探し、視界に映り込んだものに気が付くと咄嗟に手を伸ばし、攻め込んできた破壊力のある突きを受け止め、ビリビリと衝撃が両手に伝わってくる。
「危ねえっ……」
幸運にも瞳に映り込んできた対象は、地に伏せて乗り手を待ち焦がれていたスケートボードであり、考えている時間もなく引っ掴むと眼前へ掲げ、顔面を狙ってきたエグい一撃から身を守る。
今回ばかりは危なかったと肝を冷やすも、スケートボードから手を離して一旦身を引き、突っ立っている男が手にしていた竹刀を掴むと、力任せに引っ張る。
前のめりになる男の懐に潜り込み、腹に一発重たい拳を叩き入れてやると、ぐえと呻いて竹刀を取り落とす。
腹を押さえて倒れ込み、身悶えている様を見つめて立ち上がり、何も言わずに辺りへと視線を向けて見ると、一斉に焦りを浮かべて得物を握り締めている。
「さてと……、どうする? まだ続けるか?」
拳を鳴らしながら笑い掛け、一歩も動けないでいる少年達を視界に収め、さてどうするかと思案する。
気持ちとしてはまだまだ暴れたいところだが、流石に揃えられている人数を相手にするのは手間が掛かり、そんなに猶予は無い。
素直に灰我の居所を吐いてくれることを願い、声でも掛けてみようかと唇を開くと、何処からかバタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。
「真宮さーん! 見っけ!!」
まさかまた新手か、と思いながら視線をさ迷わせると、聞き慣れた声が鼓膜へと滑り込み、駆け付けてきた者達の正体を知る。
「有仁!」
「探したッスよ~! ちゃんと見つけた俺のこと、後で褒めてくれないと拗ねるッスよー!」
取り囲んでいた少年達が一様に顔色を変え、迫り来る集団を前に見る間に動揺し、一人が逃げ出したの機に一斉に駆け出していく。
「あ、おい!」
声を上げても安定の無視で、少年達は我先にと必死の形相で駆け抜けていき、後に続いて見慣れた顔触れがそれはもう楽しそうに追い掛けていく。
待て待てー! なんて微笑ましい感じで声を掛けながらも全力疾走しており、彼等を逃がしてやる気は塵ほども無いようである。
大多数の面々が暗がりへと消えていき、目前には有仁を初めとした数人が足を止め、視線を注いでいる。
その中にナキツの姿を見付けて、安心していいのか、だが気まずいことには変わりないので視線は合わせられず、複雑な想いに囚われながら立ち尽くす。
「つうか……、なんで裸なんすか。服どこやっちゃったの、真宮さん」
「カラーボールぶつけられたんだよ……」
「ぶはっ! それで脱ぎ捨てたんすか! なんかよく見たらびしょ濡れだし、相当遊ばれたんすねウケる! あ、痛い! 痛い痛い! 冗談ッスよ真宮さん許してえええ! 俺まだ、この世に未練が~!!」
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