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断罪者
一連の苦労も知らずに笑い始めたので、とりあえず無言で近付いて腕を回し、がっちりと首を絞めて身動き取れなくしてやる。
もう一方の手で拳を作り、頭へと押し付けながらぐりぐりと半回転させれば、二重の苦しみに耐えられず悲鳴が零れ出す。
「ったく、大袈裟な奴だな。そんなに騒ぐほどのことでもねえだろ」
「いやいやいや真宮さん、自分の力量ちゃんと理解してるッスか!? 俺の可憐な首なんてすぐポッキーンて折れちゃいますよ!」
「ふ~ん……。じゃあ、試してみるか?」
「キャー! 助けてナキツー!」
生意気にも口答えしてきたので、拘束しながら状況も忘れて脅かしてやると、すかさず有仁からは魔法の呪文が解き放たれる。
ナキツ、という名前にすかさず反応してしまい、有仁が驚いてしまうくらい即座に身を離し、自由を与えてやってからハッと我に返る。
何やってんだ……、あからさま過ぎんだろ……。
やってしまったと後悔しても手遅れであり、ますます気まずさを植え付けてしまう現状に辟易しながらも、未だ視線すらまともに合わせられないでいる。
「お前らも骸の制圧に加わってくれ。俺はアタマを追う」
口を挟む隙を与えず、無理矢理に話題を現在やるべきことへと変えていき、早くこの場所から離れたくて仕方がない。
それでもつい気になってしまい、話の途中で密やかにナキツの様子を窺って見ると、腕組みをして静かに佇みながら何事か考えているようである。
視線は注がれておらず、目が合わなくてほっとしているはずなのに、言い表せない複雑な感情も持ち合わせていて不思議に思う。
故意に視線を逸らされているように感じて、気にしてるのか……?
そんなもん、俺だって目ェ合わせられなくて逸らしてんだろ……、おあいこじゃねえか……。
言い聞かせてもやはり気になってしまうのは事実であり、このままではいけないと冷静な思考を取り戻そうとする。
今やるべきことを考えろ、と胸中で語り掛け、骸をまとめている灰我という少年を探さなければと改めて目的を明確にする。
「あ。そういえばさっき、物凄い勢いで駆け抜けていく少年Aを見掛けたんすけど」
そろそろ行動を開始しなければと思っていた時、側に立っていた有仁から何かを思い出したかのような声が洩れ、まさしく標的であろう人物の目撃情報が開示される。
「間違いねえ。そいつがアタマだ」
此処に来る途中で見掛けたのであろう少年といえば、灰我以外には考えられない。
偶然とは言え、姿を目にしていた事態に運が傾き、大体の方角だけでも知ることが出来れば、かなり捜索範囲を限定出来ると思う。
「ふむふむ。なんとなく気になったんで、今ディアルの青年Bを張り付けてるところッス!」
「え……?」
「尾行させてるんすよ。ま・み・や・さん!」
「ま……、マジかよ有仁……」
僅かな手掛かりでも掴めれば万々歳と思っていたのだが、今夜の有仁はいつにも増して有能であった。
灰我を見掛けていただけで終わらず、なんと現在ディアルのメンバーに後を追わせていると言うのだから驚いて狼狽えてしまう。
「マジッスよ~! ねえねえ、真宮さん! えらい? えらい? 褒めて褒めて~!」
「でかした、有仁! えらい! お前はえらい!」
やれやれ……、といった様子で面々に見守られていることにも構わず、今回ばかりは素直に有仁へと飛び付いて、とてつもない成果を上げてくれた褒賞として頭なでなで攻撃を喰らわせる。
有仁は大層満足そうに笑っており、えへへと照れながらも素直に喜びを表している。
「この先を暫く行くと階段があるんす。とりあえずはそこを目指して下さい。青年Bには俺から連絡入れとくんで!」
にしし、と歯を見せて屈託無く微笑んでいる有仁から、次なる目的を提供される。
状況は目まぐるしく変動し、今こうしている間にも事態が大きく揺れ動き、自陣にとって不利益を被る流れにいつ転じるとも分からない。
動くなら、早いほうがいい。
ひとまず有仁との戯れは一旦終了とし、それぞれの持ち場を目指すべく、足を踏み出して暫しの別れを告げようとする。
「俺も一緒に行きます」
当たり前に単独行動をするつもりでいたのだが、有仁から離れて何かしらの言葉を掛けようとしていた時に、全く予期せぬ意思を紡がれて思考に一瞬遅れが出る。
一体今何を言われたのかと反芻し、いちいち誰からの台詞か確認する必要もないくらい、声の主なんてとうに分かりきっている。
聞き慣れた声に鼓膜を揺さぶられ、視線を滑らせた先ではすらりとした体躯の青年が佇んでおり、現在は真っ直ぐに此の身を見つめている。
柔らかな月光に包まれ、さらりとした茶褐色の髪は艶を帯びて輝き、綺麗な顔立ちをしている青年をより美しく引き立たせている。
行動を共にしたいと自ら申し出たのは、ナキツであった。
「ん、なに。ナキっちゃんてばそっち行く?」
「ああ。別に問題ないよな」
「おうおう、了解! 真宮さんのことヨロシクッ~!」
お前らなに勝手に話進めてんだよ……。
とは思うものの、今度は此方が口を挟む隙もないくらいに淡々と、そして軽やかに話が進んで決着する。
せ、せめて誰かもう一人くらい来いよ……、と心の中で訴えてみたところでささやかなる抵抗にすらならず、どうしてか一緒に行動しようとしているナキツの真意を推し量れない。
何故急にそのような気持ちへと至ったのか不明であり、ただでさえ気まずさを抱え込んでいるというのに、二人きりの行動で冷静な思考をいつまで働かせられるだろうか。
すでにもう、動揺させられて大混乱に陥っており、何か言わなければと思っていてもなかなか言葉にならないでいる。
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