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断罪者
「お前らみてえなガキが、なんでこんな事してんだ。子供がうろついていい時間じゃねえぞ。こんなつまらねえ事は今夜で終わりにしろ」
「なんだよ、偉そうにっ……。不良のくせに説教かよ……、そんなこと出来る立場なのかよ! お前らはもっと悪いことしてるくせに!!」
「あ? 悪いこと……? なんだよ、それ」
やはり噛み付いてくる。
異常なほどに不良という存在へと怒りを燃やして、貫くように睨み付けてくる。
もっと悪いこと、と言われて気に掛かり、何やら事情がありそうな感じがして問い掛けるも、興奮してなかなか言葉に出来ない様子である。
単なる遊び心を切欠に集いし群れと思っていたが、どうやらそれだけでは無いような気がしてきて、灰我を見つめながら思考を働かせる。
「お前らだって……! 金巻き上げたり暴力振るったりしてるんだろ! そんな奴が偉そうに説教なんてすんなよ!」
「俺は……、俺達はそんなことしねえよ」
「嘘だっ!! お前の言うことなんて信用出来ない! どいつもこいつもみんな同じだろ!! そんなクズどもを退治して何が悪いんだよ!!」
尚も喰って掛かり、聞く耳なんて持たず一方的に悪者と決め付けられており、考えるように暫しの間を空けてナキツと視線を合わせる。
「キミは……、過去に不良、と形容されるような人物と何かあったのかな」
柔らかな口調で語り掛けられ、灰我がちらりと上を向くとナキツと視線がかち合ってしまい、直ぐ様プイとそっぽを向く。
「俺達は、キミが思っているようなチームじゃない。彼が統べているチームが、そんなことするわけがない。だから、キミに危害を加えようとも思っていないし、キミの仲間にもそんなに手荒な真似はしていないはずだよ。ただ、どうしてこんなことをしているのか、その理由をきちんと聞かせてもらえないかな」
ゆっくりと穏やかに、灰我の緊張を解きほぐしていきながら話し掛け、徐々に落ち着きを取り戻させようとする。
先ほどよりは幾分か収まり、大人しくナキツの声を聞きながら口を噤んでおり、今では拗ねたような表情を浮かべている。
「マガツっていうチームの奴等に……、金取られて……」
「マガツ……」
ぽつり、と紡ぎ出された言葉を拾い、記憶に新しい名前を聞いてナキツと視線を交わらせる。
「アイツら……、色んなところでカツアゲしたり、万引きさせたり、暴力振るったりして好き放題だった……。あんな奴等……、絶対に許せなかった」
「そうだったのか……」
まさか少年の口からマガツが出てくるとは思わなかったが、それにより不良に対する憎悪に納得がいく。
彼等によって植え付けられたイメージに支配されており、全てのチームが同様であると灰我は盲信している。
だから不良と呼ばれるような者達へと憤り、全てを拒絶して噛み付いてくるのだと理解する。
「でも、俺達は泣き寝入りする奴等とは違って、ちゃんとマガツから金を取り返した」
「へェ……、やるじゃねえか」
「マガツとまともに張り合えるチームなんていないって、アイツら言ってた」
「そんなこと言ってやがったのか。それは聞き捨てならねえな……」
とは言え、今ではもう存在すらしていないチームなのだが、そのようなことを言われていたとはなかなか面白くないものである。
「そんなチームの奴をボコボコにしてやったんだ。不良なんてホントは一人じゃなんも出来ない弱い奴等だからつるんでるんだろ。そんな奴倒すのなんて簡単だ。悪い奴はみんないなくなればいい!」
「それで、お前らが正義の味方面して狩りを楽しんでるってわけか。自分達は正しいことをしているんだと言い聞かせて、お前らも好き放題に痛め付けてるわけだ。マガツ以外の奴等は、お前らに何かしたのか……? 今は単に、面白い遊びを見つけてただはしゃいでるだけなんじゃねえのか。なあ、答えろよ灰我……。俺が納得する言葉で」
一帯を巡っていた空気が変わり、突如として言い表せぬ冷えを生み出していき、灰我は気圧されて唇を閉ざす。
事の発端はマガツであり、折れない心で真っ向から勝負を挑み、金銭を取り戻した経緯については何を言う気も無いのだが、その後は一切褒められない。
許せない気持ちは分かるし、自分でもそのような輩を見掛けたら黙ってはいられない。
だが今の彼等は、憎い不良をこらしめることを隠れ蓑にして、刺激的な遊びに溺れて楽しんでいるだけにしか思えず、当初の主旨からは大幅に踏み外しているのではないかと思う。
「なんだよ……、なんか文句あんのかよ! あんな奴等どうなったって知ったことか! どうせ迷惑しか掛けないクズじゃん! 俺達に選ばれて寧ろ幸運に思えっての!」
瞬間、頬をはたく音が辺りへと響き、暫しの静寂が漂っていく。
灰我は、何が起こったのか一瞬分からなくなるも、すぐにジンジンと頬が痛み出し、じわりと目尻に涙が浮かぶ。
「なんだよっ……、なにすんだよ! やっぱりお前だって、すぐ叩くじゃん! 不良なんてみんな偉そうで調子に乗ってて大嫌いだ! お前らなんか消えちゃえよ! 俺は悪いことしてるなんて思ってない!!」
「いい加減にしろ」
静かだけれど、怒気を孕んだ声に灰我は口を閉ざし、頬の痛みと感情の高ぶりで瞳を潤ませている。
「灰我……、目ェ覚ませ。今のお前は……、マガツと、お前が憎んでいる不良と何が違うんだ。お前らのやってることなんて、端から見たらマガツなんかとそう大差ねえぞ」
「違う……! そんなわけねえだろ! あんな奴等と一緒にすんなよ!」
「お前が望まなくても、現実にはそうなんだよ」
「ち、違う……。俺は、あんな奴等と違う! 絶対に違う!」
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