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断罪者

力一杯に否定を繰り返しながらも、戸惑いを隠し切れずに狼狽えており、不安げな瞳がすがるように此の身を見上げている。 嫌っている不良と大差ないと言われ、余程堪えたのか今にも溢れんばかりの涙を湛えており、先ほどまでの強気な態度がなりを潜めていく。 「お前らは無防備過ぎる。今までは上手くやってこれたのかもしれないが、そんなもん運が良かっただけだ」 静かに、優しく諭すように語り掛けていきながら、灰我の肩へと手を添える。 事が上手く運んでいたのは、偶然が重なり合っていただけであり、彼等に撃破する力があるとは到底思えない。 あまりにも調子良く進んでしまうものだから、きっと彼等は勘違いしてしまい、刺激的な非日常からすっかり脱け出せなくなってしまったのだろう。 手を出されて黙っていられるような輩なんて、この世界にはきっと一人もいない。 今日まで無事に過ごしていられたのは、本当に奇跡的とも思えるくらいの事態であり、こんなにもあどけない少年では尚更巡り合わせに助けられている。 実際に彼等を目にするまでは、その辺に居るような青年と変わらない風貌をしていると思い込んでいたので、年端のいかない少年で構成されているとは露ほども考えていなかった。 肩へと触れている手に温もりが伝わり、目の前で今にも泣き出しそうな表情を浮かべている少年を見つめて、急激に背筋を冷たいものが伝っていくような寒さを覚える。 もしも自分よりも先に、彼等がヴェルフェへと手を出していたらと過り、運があろうとも無事では済まされない結末を容易に想像出来てしまう。 あの男が、彼等を逃がすはずがない。 玩具呼ばわりしているくらいなのだ、確実に嬉々として追い詰めていくであろうし、逃してくれる可能性なんて有り得ない。 骸としてやって来たことは許されないし、相応の罰を受けるべきだとは思っているのだが、ヴェルフェ一つであまりにも天秤が傾き過ぎてしまう。 「お前……、本当にヴェルフェには手ェ出してねえんだろうな」 今のところはまだ手を出してはいない様子であったが、それでも確かめずにはいられなくて、灰我を見つめながら問い掛けてみる。 「出してない……。何もしてない」 「そうか……」 視線を逸らして俯くも、程なくしてきちんと答えが返ってくる。 どうやら本当にヴェルフェとは関わっていないようであり、心の底からホッと胸を撫で下ろす。 「いいか、ヴェルフェには絶対に手ェ出すな。アイツは……、アイツらは、俺達ほど甘くない。例えガキであろうと容赦しねえし、奴等はマガツを潰してる」 「え……?」 「お前らからしてみればマガツでも脅威だろうが、奴等とまともに張り合えるチームがないなんて嘘だ。現にマガツは簡単に喰われた」 「そんな……」 「俺一人に、お前らがどれだけ手こずったか思い出せ。マガツを基準にするな。遊びはもう終わりにしろ。分かったな……」 マガツというチームの末路を知らなかったようであり、更なる動揺を深めながら立ち尽くしている。 マガツから羅列された言葉を、何の根拠もなく盲目的に信じ込んでいただけに、いとも容易く打ち砕かれた現在により衝撃を受けている。 自分達の実力であると勘違いしていたが、それは単に都合の良い偶然が重なっていただけであり、実際には群れと渡り合えるような力なんて何処にも秘めてはいない。 マガツそのものが消え失せたという事実を知り、これまで自分達が積み重ねてきた悪行を思い出したのか、恐怖を滲ませながら視線を泳がせる。 急激に背筋が寒くなり、その手で積み上げてきた行為を思い返して、今更ながら灰我は怖くなる。 そうして一気に、当たり前に過ごしてきた平凡でなんでもない日常が、恋しくなる。 「ま、俺を先に狙っておいて良かったな。二度目はねえぞ、クソガキ」 行いに対する後悔を浮かべ始めている少年へと、包み込むような慈愛を湛えてぽんぽんと、優しく頭を撫でてやる。 びくりと身体を震わせて、まだまだ未熟で愚かな少年はじっと立ち尽くしたまま、大人しく髪を触らせている。 今まで見てきた不良とは全く毛色の違う人物に、混乱を招きながらもなんだか悪い気はしなくて、中にはいい人もいるのではないのかと灰我は思えてくる。 少なくとも、目前で微笑んでいる青年は違うのではないかと、撫でられる温もりに心がぽかぽかしていくようで、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。 「何かあったら、いつでも来い。また不良が許せなくなったら、俺がいつでも相手になってやる。でも大人しく殴られてやる気はねえからな」 イテェし、と言いながら笑い掛け、なかなか素直には甘えられないでいる灰我を穏やかに見つめる。 「いつでも頼れよ、助けてやるから。ガキは素直に甘えてろ」 おずおずと見上げてきた視線と交わり、フッと微笑み掛けるも即座に逸らされてしまい、頬を染めながら唇を尖らせている。 簡単には素直になれないようであり、それでも自分がしてきたことを悔やんでいるさまが窺い知れて、少し安心する。 念を押さなくても、もう心配はいらなさそうだと感じており、骸という集いは消えて無くなるだろう。 灰我は唇を閉ざしながらも、そわそわと何やら落ち着かない様子であり、言いたいけれど言えないようで視線をさ迷わせている。 謝罪の意でも述べてくれるのだろうか、灰我はもじもじと恥ずかしそうに立ち尽くし、それでも言わなければとか細く紡ぎ出す。 「ご……、ごめんなさ……」 蚊の鳴くような声が鼓膜へと滑り込み、最後までちゃんと聞こうと耳を澄ませていると、唐突に事態が急変する。 「灰我を離せ!!」 何処からか聞こえてきた声に、ハッとして視線をさ迷わせた先にはすでにその者が居り、気が付いた時には腕を振り上げている。

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