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Tritoma
「あ~……、なんかスゲェくらくらすんな……」
そんなに飲んでいたつもりはないのだが、どんちゃん騒ぎの部屋から出て一息つき、なんだか熱っぽくて頭がぼうっとしている。
楽しい雰囲気にも酔っているのだろうかと思うも、それにしたって酒の回りが速く、このまま帰って寝てしまいたい程度には気だるくなっていた。
「風に当たれば少しはマシになるかな……」
此処にとどまっているよりはマシであろうと思い、ゆっくりと歩を進めていきながら外を目指す。
そこかしこから漏れ出る談笑を遠くに聞き、どうしてこんなに情けない状態になっているんだろうかと疑問に思いながら、通路を歩いて外気に晒される時を目指す。
しかし思っていた以上に足取りが覚束無いようで、酔いを散らそうと額に手を添えて歩いていた為に、躓いて身体をふらつかせてしまう。
普段であれば直ぐ様体勢を整えられるのだが、あまりにも無防備な現在では全てが遅れをとっており、容易く転びそうになってしまう。
「大丈夫ですか……?」
身体が傾き、よろめいたものの無様に転倒する展開にはならず、側から聞こえた柔らかな声に視線を向ける。
「ナキツ……?」
「随分と酔ってますね……。危なっかしいったらないです。そんなにふらついた足取りで、一体何処に行くつもりですか?」
「ん……、外、行こうと思って……」
ナキツが抱き止めてくれたお陰で転ばずに済み、間近で声を聞きながら大人しく身を預ける。
あまりにも頼り無げな足取りで一人出ていく姿に気が付いていたらしく、後を追ってみれば案の定な場面に出会してしまい、溜め息を吐きながらも差し伸べられた手は温かくひどく安心をもたらしてくれる。
いつでも気に掛けて、見ていてくれて、受け入れてくれる姿に安堵して、その優しさにもう随分と前から甘えてしまっている。
「ごめんな……」
「真宮さん……?」
言おうと思っても、機会を逃してずっと紡げなかった気持ちを、酔いの勢いを借りてぽつりと吐露する。
クラブでの一件然り、これまでに積み重ねてきた諸々に対する想いを集約させて、気弱な言葉が辿々しくも零れていく。
「ごめん……、ナキツ……。ごめんな……」
「どうしたんですか? 急に、らしくないですよ……」
ナキツへとすり寄り、滅多に使われない台詞を続けながら、身体を預けて密着する。
ナキツと言えば、突然の出来事に戸惑いを隠しきれず、くっついて甘えられて容易く心を乱されている。
「真宮さんが謝ることなんて、何もないのに……。クラブでの事を気にしてるんですか? 俺のほうこそ、すみません……。ついカッとなってしまって、貴方に酷いことを……」
「お前は何も悪くない……。お前が謝ることなんてない……。悪いのは俺なんだ……」
俯きながら言葉を絞り出し、苛んで止まない光景を過らせては紡ぎ、力なく下ろしていた手をそっと忍ばせて、すがるようにナキツの身体へと触れる。
今夜は随分と悪酔いしている、だが自覚はあっても最早止められず、ナキツの優しさにつけこんで気弱な姿を晒してしまう。
ナキツは多少の動揺を孕みつつも、だいぶ冷静さを取り戻しており、すり寄って離れない此の身を見つめて感情が溢れ、複雑な表情を浮かべている。
そうして顎へと触れ、優しい手付きで上向かせると、自分を追い詰めて止まない唇へと静かに口付ける。
「ん……、ナキツ……」
「そこまでです。俺の大事な人を悪く言うのは……、例え真宮さんでも許しませんよ」
熱を孕んだ視線が交わり、キスをされたのだと後々になって理解するも、鈍っている思考では事実を受け入れるだけにとどまっている。
そんなつもりではなかったのだろう、してからハッと我に返ったような表情をするも、両者を包み込む熱に引き摺られ、少しずつ情欲を纏わせながら触れる手に躊躇いがなくなってきている。
「真宮さん……」
「ん……」
囁かれ、熱を帯びて潤う視線を向けると、間近で目が合う。
何を言おうとしているのか全く予想出来ず、大人しく紡がれるであろう彼の言葉を待ち、身を預ける。
「このまま……、抜け出してしまいましょうか」
勝手に離れるなんて、普段のナキツであれば選ばない一手であるが、すぐ側で孕む熱に当てられて抑制がきかなくなっている。
変わらず穏やかな口調で語り掛けられていても、何処と無くいつもとは雰囲気が違って見える。
「俺の家……、来ますか?」
なんだか照れてしまって、ずっと視線を合わせていられずに目を逸らし、それでも誘いを受け入れて小さく頷く。
一連の様子を見て、ナキツはいとおしそうに微笑むと、優しく身体を支えながら歩みを再開していく。
ふわふわと地に足がつかないような心地の中、傍らにて感じる温もりに安息を覚えながら、身を委ねて前へと進んでいく。
何のために部屋を脱け出してきたのかももう覚えておらず、気を抜くとうとうとしてしまいそうで、どうにも今夜は言うことを聞いてくれそうにない。
「眠い……」
「ダメですよ。こんなところで寝ないで下さいね」
「ん……、頑張る」
「目蓋が重そうですね。もう少しだけ頑張って歩いて下さい」
情けない姿を晒し、ナキツに支えられながらなんとか歩いていき、やがて外に出たのか涼やかな風を感じて気持ちがいい。
それでも思考を取り巻く靄を晴らすことは出来ず、これは重症だと何処かで冷静に見守っている自分が頭の中で囁いてくる。
ぼうっと何もせずに佇んでいると、ナキツに手を引かれて車へと乗り込んでいく。
タクシーを捕まえたようであり、暫しの時をじっとしていられる安寧を手に入れて、自然とナキツの肩にもたれて瞳を閉じる。
何も言わず、傍らで座しながら時おり外を見て、ナキツは何を考えているのだろう。
重ねられている手から伝わる温もりに微睡み、静まる車内にて夢うつつをさ迷う一時を過ごす。
それはとても居心地が良くて、眠りへと落ちるには然して時を必要としなかった。
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