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Tritoma

すぐには何を言われたのか理解出来ず、時が止まってしまったかのように動けなくなり、反芻させていくうちに徐々に分かってくる。 それと共に火照りが増していき、更に拍車をかけてどうしていいか分からなくなり、可哀想なくらい動揺を露わにしてしまう。 「お前、なに言って……。からかってんのか?」 「冗談で言えると思いますか……?」 「……本気、なのか?」 「真宮さんのことが好きです……。本当は、言うつもりなんてなかったんです。側に居られるだけで、十分だったのに……」 後ろへと回されていた手に首筋を撫でられ、耳元で囁かれてぞくりと背筋にえもいわれぬ刺激が走る。 「俺の身勝手な想いを打ち明けることで、貴方と一緒に居られなくなるかと考えたら……、怖かったんです。それなら……、気持ちなんて伝えなくていい……。ずっと、知らないままでいい……。これまでの関係が壊れてしまうくらいなら……。俺の前から、居なくなってしまうくらいならっ……」 絞り出される悲痛なまでの想いを知って、胸が締め付けられていく。 自分の知らないところで、そんなにも思い悩ませていたのかと考えると、急激にやるせなくなる。 どんな想いで日々顔を合わせ、話し、笑顔を浮かべていたのかと思うと、辛そうに明かされる気持ちを思うと、言葉に詰まって思考が掻き乱されていく。 「でも、もう……。俺には耐えられないから……」 「ナキツ……」 「俺……、引けません」 覚悟を決めたかのような言葉を最後に、ゆっくりと身を離していき、真摯な眼差しに捕らわれて身体が言うことを聞かない。 伸ばされた手に腕を掴まれ、視線を向けてから程無くして彼の意図を察し、振り払おうとするも強い力に阻まれて逃れられない。 「お前……、なに考えて……」 「怒らないから……、見せてください」 「よせっ……。離せ、ナキツっ……」 もう、逃げられない。 刻まれた証がまだ仄かに疼いている其処を目指し、彼が今にも包帯を解こうとしている。 一気に酔いが覚め、阻もうと力を込めても彼の意志は堅牢であり、視線を交わらせて首を振っても許してはもらえない。 ナキツの表情から怒りは感じられず、苛立ちも見えず、かといって微笑んでもおらず、全てを受け止める覚悟を持って包帯に手を掛けてくる。 「やめろっ……」 やめさせようと一方の手を伸ばしても、やんわりと阻まれて思うようにいかず、そうしている間にも目の前で解かれ始めていく。 ここまできてしまえばもう、どうしようもない。 抗うだけ無意味であり、彼の意志を曲げることは出来ず、隠されていた肌が少しずつ晒されていく。 眉を寄せ、最早現れていく腕を眺めていることしか出来なくて、ナキツは何も言わず静かに包帯を解いている。 然して時間も掛からず、あんなにも人の目に触れることを拒んでいた手首が、あまりにも容易く彼の眼前に晒されていく。 根深く残る傷痕は、薄らいでもなお其処に存在しており、組み敷かれ、支配されていた証が目に留まる。 「これは……」 ナキツの唇から小さく言葉が漏れ、下ろされている視線は証を捉えて離そうとしない。 見ていられず視線を逸らし、知られてしまった今どうしたらいいのかと何も考えられずに頭の中が真っ白で、言うべき台詞なんて何も思い浮かばない。 「そんな顔しないで下さい。真宮さんが傷付く必要はない。俺は、怒っていませんから……。少なくとも、貴方にだけは……」 唇を閉ざし、視線を逸らして固まっていると、様子に気が付いたナキツに頬を撫でられる。 安心させるかのように穏やかな紡ぎを聞かせ、自分を責めて止まない心を見透かして包み込み、真っ直ぐに注がれている視線を感じ取る。 「あの男が……、漸が、貴方をこんな目に遭わせたんですね」 声も出せず、素直に頷くことすら躊躇われて硬直し、見つめられていると分かっていても視線を合わせるなんて出来ない。 分かっているとばかりに、もう一方の腕からリストバンドが引き抜かれ、とうとう両の手首が白日の下に晒されてしまう。 何を言えばいい、何を言ったところで苦しい言い訳にしかならず、より自分を惨めに追い込んでいくだけであり、そもそも納得させられるような言葉なんて何も見つからない。 「これも……、知られているんですよね」 「んっ……」 「あの男に……、何かされましたか」 囁かれながら首筋をすりと撫でられ、返答の代わりに熱を孕んだ吐息が溢されていく。 言えるわけがない、明かせるはずがない。 「真宮さん……」 「はっ……、う」 「沈黙は……、肯定とみなしますよ」 首筋へと口付けされ、思わず唇から鼻にかかった吐息が漏れ出てしまい、羞恥で更なる火照りが生み出される。 紡がれた言葉に為す術など有らず、否定という嘘をついて乗り切ろうという気持ちも最早起きず、どう足掻いてもきっと現状から逃れることなんて不可能であった。 「あの男のことが気になるんですか……?」 「違うっ……。そんなわけ……」 「あんな奴に……、囚われないで下さい。俺を見てください……。好きです、真宮さん。面倒見がいいところも、よく笑うところも、無鉄砲なところも、素直じゃないところも、言い足りないくらい全てが愛しいです。好きです、貴方のことが……。ずっと、ずっと……」 何度も何度も甘く愛を囁かれ、絆され、蕩かされていき、鼓膜へと滑り込む声に、触れてくる手に流されそうになり、孕む熱情に感化され、呑まれて何も考えられなくなっていく。

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