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Tritoma※
それから程無くして、触れ合うナキツの身体が突如として離れていき、その場にて静かに立ち上がる。
暫しの静寂を経て、差し伸べられた手に腕を掴まれると、何事かと考えている暇もなく引っ張り上げられ、立たされたかと思えばすぐにも何処かへと連れて行かれてしまう。
不安を感じて呼び掛けても応答は無く、力強く引っ張られながらやがて隣室の扉が開け放たれ、入ってすぐにも引き寄せられて体勢を崩してしまう。
そのまま押されて後ろへ倒れるも、すぐにも柔らかな感触に受け止められて身体が弾み、気が付けばベッドに横たわっていて思考が追い付かない。
スプリングが軋みを上げ、次いでベッドヘッドから仄かな明かりが生じ、居間から入り込む淡い照明にも包まれながら、やがて問答無用で押し倒してきた彼が視界に現れる。
「ナキツ……」
熱を帯びる視線に晒され、普段とは異なる様相の彼を前にして、情けなくも狼狽えてしまう。
そうして、これから行われようとしている事を嫌でも察してしまい、赤らんだ顔が熱くて仕方がない。
なんで、どうしてこのような事態に陥っているのか分からず、怒濤の展開に流されるだけ流されて全然受け止めきれないでいる。
まともに顔を見ていられなくて、視線を泳がせてもどうしたらいいか分からず、深まるのは混乱ばかりであった。
「なに……、考えてんだ。お前……」
なんとか声を絞り出し、目の前で唇を閉ざしている青年へと向け、相変わらず視線を向けられないまま語り掛ける。
せっかく紡がれた言葉は宙を舞い、なかなか彼からの返答は無く時だけが過ぎていき、沈黙の息苦しさに耐えかねてつい窺うような眼差しを向けてしまう。
「真宮さん……」
静かに、余韻を湛えて名を紡がれ、今では情欲を孕んだ双眸の彼には、見慣れているはずの穏やかさや優しさは何処にも見受けられない。
まるで猛然たる獣のようで、其の身には粛々とした静けさを宿らせていながらも、瞳に捕らわれただけで一気に気圧されて動けなくなってしまう。
「んっ、ナキツ……。やめっ……、ダメだ……」
「どうしてですか……?」
「そ、れはっ……」
「俺のこと……、嫌いですか? 俺とは嫌ですか……?」
「はぁっ、う……」
覆い被さってきた彼に首筋を撫でられ、口付けされ、舌を這わされて堪えきれない吐息が溢れ、それでもやめさせようと腕へ触れるも成果は期待出来ない。
耳元で囁かれるだけでぞくりとし、最早抵抗しているとはお世辞にも言えないか細さであり、仄かな刺激の連続に痺れるような疼きが生み出されていく。
「お前、ズリィぞ……。そんな、言い方されたら……んっ、俺が、なんにも言えなくなるの知ってて……、そういう言い方……、あっ、はぁ……」
嫌いなわけがない、そんなこと聞かなくたって分かっているはずなのに。
良いように振り回されて面白くないのに、侵攻を阻めず弱らせるかのように首筋を攻められてしまい、やっとの思いで話し掛けても結局最後までは言わせてもらえない。
容易くはね除けられるはずなのに、雨霰と降り注がれた想いを考えると拒みきれず、真っ直ぐに向けられた好意を無下にも出来ずに流されてしまい、不快に感じるわけもなくあの手この手を尽くされていく。
「俺……、真宮さんが思ってくれているほど、いい人じゃないんです」
顔を上げたナキツと視線が絡み合い、ふっと微笑みながら声を掛けられて、次いで髪に触れてくる。
優しい手付きで撫で、するりと頬へ移って擦り、力なく投げ出された腕をやんわりと掴み上げてくる。
そうして手と手が重なり合い、じんわりとナキツの温もりが肌を通して伝わり、蕩けそうなほどの熱さを持って押し寄せてくる。
「この程度じゃ、無抵抗と変わらない。嫌ならはっきり拒んで下さい。殴ってでも……、俺を止めて下さい」
「そんなこと出来るわけ……」
「いいんですか……? 好きにしても……、図に乗ってしまいますよ。俺は……、やめませんからね。逃げるなら今のうちですよ。泣いても、縋っても、許してなんてあげませんから……。真宮さんっ……」
「んっ……! はぁっ、あ……」
思いの丈をぶつけるかのように、首筋へとしゃぶりついて舌を這わせられ、それと共に衣服を捲り上げながら脇腹を擦られる。
それだけで悩ましい吐息が溢れ、抵抗と呼べるような行為なんて出来るわけもなく、熱を帯びる身体をナキツの指が這い回っていく。
堪えたくても勝手に声が漏れていき、胸へと達した指により一方の尖りを摘ままれ、ぐにぐにと揉みほぐすように捏ね回される。
加えて首を弄ばれていてはすぐにも感じ入り、そんな自分が嫌で彼を押し退けようと肩に触れても無駄であり、漂う空気は更なる淫靡さを纏って室内を徐々に支配していく。
「此処だけじゃなかったんですね。感じやすいのは……」
「あっ……、やめっ……。そ、んなっ、とこ……」
「気持ちいいですか……?」
「んっ……、聞、くなっ……、ば、かっ……」
「何処がいいのか教えて下さい。もっともっと、貴方のことが知りたいです。真宮さんのことなら、なんでも……」
「はぁっ、う……んっ」
首筋から離れた彼が次に向かうのは、未だ手付かずであるもう一方の尖りであり、無防備なそれを舌先で転がしてから熱い口腔に含まれる。
ちゅ、と唾液を孕んで音を上げ、時おり甘く噛まれて引っ張られると、痛みと共に疼くような痺れがもたらされて自分はどうしてしまったのかと思う。
幾度となく自問しても不明であり、どうして今ナキツとこのような行為に及んでいるのだろうかと考えても、納得出来る言葉も見つからなければ理屈では最早片付けられない。
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