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Tritoma※

「んっ……」 手の甲で唇を押さえ、みっともない声を少しでも食い止められるよう、ささやかながらも足掻こうとする。 頬を紅潮させ、すでに熱情を孕んでいる瞳は潤い、眉を寄せてナキツから視線を逸らしている。 何度も触れられ、噛まれたりしていくうちにぷくりと熟れ、容赦の無い攻めに翻弄されて乳房が快楽を思い出していく。 あの夜の情景と共に、散々なまでに教え込まれた貪婪(どんらん)なる戯れを思い起こし、否定しようとも身体は勝手に更なる熱を孕んでいく。 過りそうになる悪しき青年の姿を掻き消し、どうしてこのような事態に陥っているのかと悩んだところで、目前にて丁寧な愛撫を施している彼を押し退ける勇気なんて無い。 彼は一体、今日までどれだけ思い詰めてきたのだろう。 一途に想いを注がれ、好意を囁かれ、縋るように身体を求めてきた彼を拒絶することなど、今の自分には到底出来なかった。 そんなにも思い悩ませて、気付いてあげられなかった申し訳なさにも囚われて、ますます彼を受け入れる道へ踏み込んでしまう。 想いについてはまだ、何も考えられない。 少なくとも自分にとっては、ナキツは信頼しているチームの仲間であり、誰に対しても恋愛感情と呼べるような気持ちを抱いてはいなかった。 けれども彼はずっと、いつからかは分からないが自分とは異なる情念を抱え込んでいたのだ。 その事実が心身へと圧し掛かり、抵抗しようとする意思を根刮ぎ奪い去っていく。 「お、れに……、こんな、ことして……、はぁっ、楽しいのかよ……。お前っ……、ん、うっ……」 気を抜けば悩ましい声へとすり変わりそうで、懸命に快楽として受け入れないようにしながら、息も絶え絶えにやっとの思いで言葉を紡ぎ出す。 そうしている間にも、胸の尖りを丹念にいやらしく育て上げられており、じんと熱を持って微かに触れられるだけでも反応を示してしまうくらい、いつの間にかあらゆる刺激に敏感になってしまっている。 「楽しいですよ。でも、それよりも今は……、幸せのほうが大きいです。真宮さんを独り占め出来て、俺……、今すごく幸せですから……」 「んっ、はぁっ、な、に言って……、あっ、恥ずかし、こと、言ってんじゃね、あ、んっ……」 「本当のことを言って、何がいけないんですか……? 反論があるなら教えて下さい」 「あ、うっ……、も、そこばっか……、や、めっ……、あぁっ」 「どうしてですか……? こんなにぷっくり膨らんで気持ち良さそうなのに、やめてほしいなんて嘘ですよね。すごく甘い声が出てますよ、真宮さん」 「ちがっ……、そ、なこと……、はぁっ」 「違わないですよね。もう、此処だけでは足りないですか?」 過敏になっている胸の突起を指で弾かれ、それだけで反応を示してしまうなんておかしいと思うのに、幾度も刺激を与えられて悩ましい声が漏れていく。 ナキツは微笑を湛え、いつもと変わらぬ穏やかな声音で丁寧に言葉を紡ぎながらも意地悪で、か弱い呼び掛けも実らずに尖りを弄ばれ続ける。 着実に抗い難い劣情を蓄積させ、すでに欲深さを露わにしてしまっている下腹部は熱を孕み、ナキツの手が含む言葉と共にするすると滑り落ちていく。 「あっ……、やめ、ナキツ……」 「嘘つきですね。こんなに感じておいて、どうしてそんなこと言うんですか……? 触れられるのを期待しているようにしか見えませんよ」 「ん、んぅ……! あっ、はぁっ……、うっ、ナ、キツ……」 完全に立場が逆転しており、弱々しい制止にも構わず高ぶる自身を引き出され、正直な身体は快楽を求めてひたすらに淫靡な熱を纏っている。 言葉で攻められ、やがて期待にひくついている自身へと指が這い、やんわりと扱かれるだけでも容易く感じてしまう。 そんな自分を受け入れたくなくても、現に欲深なそれからは淫らな先走りが滲み出ており、早くも熱さに蕩けていやらしい音が漏れ始めている。 視界がぼんやりとしていて、譫言のように彼の名前を紡いでも現状は変わらず、くちゅくちゅという響きが鼓膜へと滑り込む度に、むず痒い疼きを少しずつ与えられて息が乱れる。 望んでいないはずなのに、身体は確かにより大きな悦楽を欲しており、またあの夜のように自分を見失ってしまうのではないかと過って不安になるのに、与えられる悦びから逃れられないでいる。 「はぁっ、はっ……ん、もう、やめっ……、ナキツっ……、もっ……、あ、あぁっ」 「ここでやめたら、困るのは真宮さんですよ。こんな状態で本当にやめてほしいんですか……? さっきから溢れて止まらないですよ。ほら、聞こえますか?」 「あっ、はぁっ、ん……、ば、かっ……、そ、なの……、聞きたくなっ、あぁっ、ん、はぁっ」 「相変わらず素直じゃないんですから……。でも、そういうところも好きです。もっと声を聞かせて下さい」 「んっ……」 淫らな欲が溢れ出し、ナキツの手から与えられる刺激に酔い、悦楽に溺れていくことへの抵抗をじわじわと剥奪されつつある。 優しげな声色に包まれ、次いで唇が重なり合うもすぐに離れていき、自身からはとめどなく愚かな蜜が垂れ流されている。 抑えたくても勝手に感じ入る声が零れていき、今や強き青年の姿からあまりにもかけ離れた様子であり、媚を孕んで強請るように腰が揺れてしまう。 熱っぽい吐息が溢れ、嫌でも気持ち良くて仕方がない自分と向き合わさせられ、こんなのは違う、俺じゃないと思いたくても現実は無情に突き付けてくる。 明らかに感じており、ナキツの手からもたらされる悦楽を求めてひくつき、自身からはだらしなく涎が溢されている。 ゆるゆると裏筋を辿られ、靄がかかって最早思考なんてとうに働いておらず、淫猥な空気に呑まれて果てなく情欲を煽られる。 指の腹で先をぐりと抉るように触れられ、恥ずかしさと押し寄せる快楽でない交ぜになり、どうしていいか分からなくなっていく自分が怖くて仕方がない。 「はぁっ、あっ……」 無意識に敷布へと手を滑らせ、ぎゅっと掴んで皺を作り、目蓋を下ろして甘やかな快楽に堕ちてしまわないよう必死に耐えていることしか出来ない。 流されまいと懸命に快感を押し殺しても無駄な抗いであり、徐々に淵へと追い詰められて高ぶりが増していき、しとどに溢れる欲がどれだけ感じているかを物語っている。

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