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Tritoma
対応に困り、助けを求めるように傍らへ視線を向けると、気が付いたらしいナキツが顔を向けて目が合い、さてどうしたものかと互いに苦笑する。
相当大変な目に遭ったのか、有仁は腕組みをしながらつんとそっぽを向いており、何処からどう見ても間違いなく拗ねている。
一見すると何にも考えていないように思えて、実は意外と周囲に気を配っている有仁なので、続々と潰れていく面々にさぞや手を焼かされたことであろう。
酔うに酔えない状況になり、普段から騒がしい仲間達がより元気一杯にはしゃぎまわり、ゆっくり過ごす間もなく後始末に追われていたのだろう姿がありありと目に浮かぶ。
「有仁……、悪かったな。手間掛けさせちまって」
「ふんだ! そんなんじゃ俺の怒りは収まらないッス! 大体真宮さんが真っ先に居なくなるのもどうかと思うんすけど!」
「だってよ~、じっとしてらんねえんだもん」
「可愛く言ったってダメなもんはダメッス! 俺に一言も無く二人で居なくなっちゃうし、どいつもこいつも悪酔いしやがるしでもうひどい話ッスよ!」
ぷりぷりと怒っている有仁を見て、面倒な連中の相手をさせられたことも要因ではあるが、一番に引っ掛かっているのは黙ってナキツと抜け出してしまったからだと理解する。
どうやら一言もなく居なくなってしまったことが、有仁にとっては寂しくて仕方がなかったらしい。
仲間の介抱なんて日常茶飯事であるし、なんだかんだで面倒見の良い有仁にしてみれば、然して苦でもなければ今更なことだろう。
酔っていたとは言え、結果的に可哀想な目に遭わせてしまったなとは思うも、自分達が居なくなるくらいで寂しがるなんて、なんともいじらしい奴だとつい微笑んでしまう。
「ごめんな、有仁。もう勝手に居なくなったりしねえから、な? そろそろ機嫌直してくれ」
「全然信用出来ないッス~。すぐ戻るっつって、そのまま出て行っちゃうのが真宮さんッス~」
「悪かったって。でも外に出るのはやめらんねえからな~、お前にはちゃんと言って出て行く。これならいいだろ?」
「結局出てくんじゃないすか、もう! 別に今までと変わんないじゃないすか~!」
「だってしょうがねえじゃん。俺じっとしてらんねえの。お前もよく分かってるだろ……? 分かってて好きにさせてくれてるんだもんなあ、有仁。この、可愛い奴め」
「うっ……。そ、そんな撫でたりしても、俺の機嫌はそう簡単に直らないッスからね……。そんな安くないんで、俺!」
「じゃあ、どうしたら機嫌直してくれるんだ……? ぎゅっとしてやろうか」
「うぅっ……、タチ悪いッスこのヘッド~~! 俺を照れさせてどうするつもり!? そう簡単にほだされないんだから!」
腕組みしながら突っ立っている有仁へと近付き、肩に腕を回してぐいと抱き寄せ、優しく丁寧に頭を撫でてやる。
嬉しいけれどもそう簡単には素直になれない様子であり、頬を染めながらも唇を尖らせて未だ不貞腐れており、視線をさ迷わせて懸命に照れ隠ししている。
反応が楽しく、可愛く、いとおしくて、笑みを湛えながら引き寄せて頭を撫で、機嫌を直してもらおうとあの手この手で攻め立てる。
「有仁……、お腹空いてない?」
「え? うっ……、そういえば空いてきた、かも……」
「一緒にご飯食べよう。有仁の好きな玉子焼きも作るよ。他には何が食べたい……?」
「ちょ……、な、なんなんすか二人して……、これじゃあ身動き取れないんすけど……」
有仁にくっついて頭を撫でていると、暫くは黙ってやり取りを眺めていたナキツがふっと微笑み、やがて静かに近付いてくる。
有仁を挟んで反対側に陣取り、するりと腕を回して腰に手を添えると、一方で柔らかな頬に触れて優しげに語り掛ける。
すでに大いに照れている有仁は、挟まれてくっつかれて甘やかされて真っ赤になっており、完全に普段の調子を狂わされてしまっている。
怒りなんて何処へやら、そもそも初めから大して怒ってもおらず少し拗ねていた程度なのだが、まさかこのようなことになるなんて流石の有仁にも予想出来なかったようである。
頭を撫でられ、顎を擦られ、こいつらホントにタチ悪いんすけどおおお! とは思いながらも、ご機嫌を取ろうと構い倒されている現実に悪い気もしない。
「なんだよ、照れてんのか? 顔真っ赤だぞ」
「ンなことないッス! ちょ、ほっぺたツンツンするのやめるッスよ、真宮さん! も~! 二人ともいつまでくっついてんすか~!」
「ごめんごめん。そういえば、有仁が前に美味しいって言ってくれたプリン、ちょうど今冷蔵庫に冷やしてあるよ」
「えっ、ナキっちゃんそれホント!?」
「ホント。後でみんなで食べようか」
「うんうん! 当然真宮さんも一緒に食べてくれるッスよね!?」
「え? いや、俺は別にいらねえ……」
「真宮さん!!」
「はあ……、分かった。分かったよ。一緒に食べるからそんな睨むな」
最後の一押しとばかりに投下されたプリンに、有仁の不満は木っ端微塵に掻き消えていき、いつもの笑顔が戻ってくる。
一緒に食べなければいけないのは苦だが、にこにこと陽気に笑っている有仁が視界に入り、微笑んで頭を軽く小突いてやる。
ナキツもつられて笑み、優しく有仁の頭を撫でてから離れると、仕度に取りかかろうと台所に向かっていく。
「真宮さんもそろそろ離れてくれないすか~? 暑苦しいんすけど~」
「なんだよ、お前。そんなに俺と一緒に居るのが嫌なのか?」
「嫌なんて一言も言ってないじゃないすか~! まーだ酔ってるんすかぁっ!? 超めんどくさいッス!!」
「生意気言いやがって、こうしてやる」
「いたたたっ、ほっぺたつねるのは無しッスよ~! いくら俺のほっぺがマシュマロみたいに柔らかでぷにぷにしてるからってそんな……!」
「まんざらでもねえのかよ」
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